Moog - Sub Phatty

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  • 最近はコンパクトなモノシンセの人気が上昇中で、メーカー側もプロデューサーやパフォーマーの新しい武器となるようなハードウェアを次々と投入し続けている。しかし、「ポータブルなモノシンセ」とはモーグ博士が生み出したフォーマットであり、よってこのジャンルにおいてMoogより巨大な存在はいない。数年前にMoogが発売したLittle Phattyは、「新しいMoogが欲しいけれど、Voyagerは高過ぎて手が出せない」という層を満足させた。しかし、リードやエフェクトとしては非常に素晴らしい機材だったLittle Phattyは低音の厚みがなく、他のMoogやモノシンセと比べて何か物足りない出来だったのは否めなかった。そこで今回新たにSub Phattyが発表されたわけだが、本機はコンパクトでクラシックなMoog本来のデザインを保ちつつも、Little Phattyに比べて凶暴なサウンドで低音重視に仕上がっている他、多用途性が重視されているため、実に様々な方法で楽しむことができるようになっている。 Sub Phattyの構造だが、まずオシレーターが2基搭載されている。各オシレーターは4オクターブ仕様となっており、波形は三角波からノコギリ波、矩形波、そしてパルス波までをシームレスに切り替えることが可能なため、たとえば三角波とノコギリ波の中間や、ノコギリ波と矩形波の中間などが選択できるようになっている。次にモジュレーションセクションだが、LFOかエンベロープを使用して波形を変化できる専用のノブが搭載されている。またオシレーター1よりも1オクターブ下で鳴る矩形波のサブオシレーターが備わっており、独立してヴォリュームをコントロールすることが可能な他、ピンクノイズオシレーターも備わっている。単純に各オシレーターの鳴りは素晴らしく、三角波は厚みがありスムースで、他の波形も音圧があって深みのあるサウンドを全周波数帯域で提供している。シンプルなミキサー部分にはこの4基のオシレーター専用の4つのノブが備わっており、各ノブのゼロから12までの値でヴォリュームを調整することが可能だ。ちなみに6以上までヴォリュームを上げるとフィルターにオーバードライブがかかり、Sub Phattyが誇るディストーションを楽しむことができる。 Sub Phattyのフロントパネルは非常に操作しやすいレイアウトになっている。やや中央に位置している一際大きなノブはMoog特有のローパスフィルター専用となっているため、ユーザーはこのノブを頻繁に使うことになるだろう。その独特のサウンドは真似されることが多く、類似製品も存在する程だが、本物を手に入れるに勝るものはない。尚、レゾナンスを7以上にすると、フィルターが発振するため、パーカッシブなサウンドの作成や、外部入力を処理する際に非常に面白い効果を得ることが可能となる。またこのセクションにはMoog史上初となるマルチドライブディストーションが搭載されており、信号の流れの上ではフィルターとアンプの間で動作する。このディストーションはレンジも広く、サウンドを見事に変化させることが可能で、特にフィルターとレゾナンスを上手く設定した時は強力だ。もっと激しい歪みでも良かったのではとも思えなくもないが、現状でも十分に面白いサウンドを生みだしてくれる機能と言えよう。また、フィルターセクションの下部にはフィルターのエンベロープとキーボードによるフィルターコントロールを調整するノブが配置されている。そしてこのフィルターセクションの右側にはフィルターとアンプ用のADSRが2基搭載されている。 モジュレーションセクションでは5種類の波形のLFOかフィルターエンベロープによってピッチ、フィルター、波形を変化させることが可能だ。このピッチ、フィルター、波形にはそれぞれ独立したノブが割り当てられており、それぞれの変化の幅を調整することが可能だが、変化自体はキーボード部のモジュレーションホイールを使ってコントロールする。またオシレーター2のピッチだけを変化させるボタンがついているため、オシレーター1の音程をキープしておきたい場合にはこの機能は非常に有用だ。 ピッチセクションにはファインチューンのノブが搭載されている他、グライド(ポルタメント)ノブと、キーボードのオクターブレンジを変更するための2つのボタンが組み込まれている。そしてフロントパネルの左端には8個のボタンが配置されており、これでSub Phattyの16のプリセットにアクセスすることが可能だが、この下部に配置されている「アクティブ・パネル」ボタンを押せば、選択しているプリセットからパネル上のノブの設定へと瞬時にサウンドを切り替えられる。尚、このセクションではパッチのセーブも行えるが、大抵のユーザーはパッチのセーブスペースがもっと大きければと感じるはずだ(Moog側としては、このように機能を限定することでオールドスクールなシンセのフィーリングを残したかったのだろう)。しかし、無償のライブラリソフトが存在するため、実際は無限にプリセットのセーブ・ロードが行える他、このソフトではフロントパネル以外のパラメーターのエディットも視覚的に行うことが可能だ。ちなみに筆者が本体をUSBで接続すると、瞬時にUSBデバイスとして認識され、問題なくデータを送受信することができた(今回使用したOSはMac)。尚、このソフトはスタンドアローンの他にも、RTAS、VST、AUのプラグインにも対応している。またマニュアルを参照しながら本体のいくつかのボタンを組み合わせれば、操作、本体の中に隠された機能(パッチのセーブを除く)すべてにアクセスできるようになる。 その隠された機能やパラメーターの数は豊富なため、フロントパネル上に説明が表記されていても良かったように思えるが、そうしてしまうとデザイン的に取り散らかってしまうのは理解できるし、機材の操作を学ぶことはやりがいのあることだ。さて、その隠された機能の例を挙げると、まずエンベロープにはディレイを加えることができる他、ベロシティモジュレーションを加えながらホールドすることもできる。また、ノイズオシレーターのノブは外部入力のヴォリュームノブとして使用可能だ。この外部入力機能はこのシンセにおける大きな特徴で、たとえばソフトシンセにMoog Filterを通したり、本体のキーボードで演奏したりすることが可能となる。そしてこの多用途性はマルチドライブによって更なる広がりを見せており、たとえばLFOとオシレーターのゲートリセットを行えばLFOとオシレーターの周期を同時にスタートさせることも可能だ。 隠された機能を更に見ていくと、マニュアルにはボタンとキーボードの組み合わせでピッチベンドやLFOのレンジが決められることや、グライドの仕方やエンベロープのパラメーターのクセが調整できることなども書かれている。そしてクラシックなMoogの4ポールフィルターを1ポール、2ポール、3ポールに変更できる点も隠された機能の中の重要なひとつとして挙げられるだろう。このような数々の素晴らしい機能に加え、MIDIなどのグローバルセッティングもボタンとキーボードの組み合わせで行っていくことを考えると、マニュアルは「必携」だ。尚、サイドパネルにはオーディオイン/アウト(モノ)とMIDIイン/アウト、そして外部のヴィンテージシンセやモジュラーシンセなどに接続できるCVゲートジャックx4(フィルター、ピッチ、ヴォリューム、ゲート)が備わっている。 Sub Phattyはオールドスクールな美学とサウンドをモダンなデザインと組み合わせた製品だ。CVや通常のMIDI接続の機材を使っている人でも、コンピューターをベースにしたシステムを組んでいる人でも上手く使用することができるだろう。Sub Phattyは私たちのMoogに対する期待に応えた素晴らしい機材であり、丁寧に扱えば一生使用できるはずだ。オシレーター3基のMinimoogには敵わない部分もあるが、十分に強力で太いサウンドを楽しむことができる。またその多機能さは長年シンセサイザーに携わっているような人たちを唸らせると同時に、ビギナーも楽しめるようになっている。 Ratings: Cost: 4/5 Versatility: 4/5 Sound: 4.5/5 Ease of use: 4/5 Build: 4.5/5
RA