- これほどドリーム・チームという呼び名が相応しいコンビもいないだろう。Juan AtkinsとMoritz Von Oswaldはデトロイトとベルリンの繋がりを決定付けた主軸の2人である。この2人は過去にもコラボレーションしたことはあるが、この『Borderland』こそ、2人にとって初めてのプロパーなアルバム作品となる。今年始めにベルリンで録音されたこの作品は、Moritz Von Oswald Trioのウォームでジャム性の強いスタイルとは異なり、大部分はテクノに徹している。ジャズの流動的な静謐さとダブのディープなレゾナンスを融合したこの『Borderland』は、その柔らかなベースラインとスモーキーなアトモスフィアでリスナーを深いトランスに誘おうとする、リラックスした作品だ。
しかし、残念ながらこうしたアプローチは『Borderland』を単なる眠気を誘うアルバムにさせてしまっているように見える。 鮮烈で衝撃的な転換といったものは、このアルバムには皆無だ。このアルバムは同一のシーケンス、同じアイデアのリフを落とし込んだ同一のサウンドをそれぞれ12分間の湧きあがるようなグルーヴに仕立てている。1曲目の"Electric Garden (Deep Jazz In The Garden Mix)"を初めて聴いた時は、そのクリアな音色とスムーズなロウ・フリーケンシーはまさに鮮烈というほかないものだ。しかし、やがてその浅瀬のような沼は澱み、何の変化もないように感じられていくのだ。30分ほども聴いていると、"Electric Garden"の"Original Mix"が始まると、前述のモチーフが擦り切れたものに聴こえ、とめどなく鳴り続けるクリケットのようなサウンドはアルバム全体をVoices From The Lakeのキャンプファイヤー・ヴァージョンのように印象づけていってしまう。
収縮するフーバー的シンセといくつかのキーボードの音色がハウス・ビートのまわりに絡み付く"Treehouse"でアルバムは盛り返していく。最後から2曲目のトラック"Digital Forest"でようやくこの『Borderland』は本領を見せ始める。このトラックはまさに2人の理想的なコラボレーションといった趣で、Atkinsらしいメロディックなタッチが存分に味わえる。しかし、そこでアルバムは終わってしまう。1時間をかけてじれったいほどにゆっくりとビルアップするこのアルバムは、結局ほとんどたいした見返りもなく終わりを告げる。Von Oswaldによるヒプノティックなベースラインはいつも通り素晴らしいものだが、それだけではこのアルバムを埋め合わせることは出来ない。この『Borderland』は、確かにこの2人のアーティストがリラックスした状態で作り上げたものだろうし、その作業はさぞ楽しいものであっただろうことが想像できるのだが、そこにはリスナーという受け手の存在が含まれていないという気がしてならない。
Tracklist 01. Electric Garden (Jazz In The Garden Mix)
02. Electric Dub
03. Footprints
04. Electric Garden (Original Mix)
05. Treehouse
06. Mars Garden
07. Digital Forest
08. Afterlude