Moderat - II

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  • ポップ・ミュージックは好きか?膨大な数のクラウドの中の一人として、超越的な瞬間を体験する準備はできているか?そうした霊的体験を引き起こす作曲技法に敬意を払っているか?容赦のないクラブ・ミュージックと純粋なポップ性のあいだにある緊張感を巧妙にキープしたModeratによるこのアルバム『II』において、こうした質問はきわめて重要なものだし、超巨大なクロスオーヴァーの瞬間を引き起こそうという試みにおいてもまったく自明なものだ。"Damage Done"や"Bad Kingdom"にはアンセムとなるポテンシャルがあるし、George MichaelやTerence Trent D'Arbyといった危なっかしいポップ/ソウルのエモーションを洗練させたかのような感覚を思い起こさせると同時に、部分的にはColdplayやU2といったスタジアム級のアーティストさえ食ってしまいそうなところさえある。 偉大なポップ・ミュージックの定義とは、計算ずくで型にはまったものであると言うことも出来るし、ある種のセンチメンタルさに頼っているとも言える。しかし、それが良いポップか悪いポップかを決定付けるのはその知性とスタイルというプロセスを経ているか、それともチープな制作技法にのみ終始しているかという点だろう。Moderatは2つの理由において、間違いなく前者のグループに分けられるはずだ。まず、彼らはそのスマートさゆえにチープなフックに頼る自信過剰さがない。第二に、彼らにとってクロスオーヴァー自体を目的として目立とうとしたり、わざとレベルを下げようとしたり、妥協を甘んじたりすることはまったくのナンセンスだ。"Bad Kingdom"では、ざっくりと言ってしまえばShedスタイルの隙間だらけでうねるようなブレイクビーツを敷き、そこに分厚いベースの粒子を被せている。最もキャッチーな展開でさえ、このアルバムは有機的に展開し、その基盤には妥協のないスタイルでグライミーなテクノとベースミュージックがまとめ上げられている。これは、誠実な完全性を調和させたポップ・ミュージック・アルバムだ。 このアルバムの最良の点は、アヴァンギャルドなアイデアと機能的なクラブ・ミュージックを使い、一般向けでありながら核心的な部分に落とし込んでいるという点だ。最も耳に心地よく、最も痛切な瞬間は"Let In The Light"で訪れる。スィングするような、ほとんどR&Bバラードにも近いようなこの曲は、あくまでもベルリン流の冷たいエレクトロニクスによって作られているのだ。いっぽう、"This Time"はうねるようなベースが堂々とせり上がり、トランスや繊細なアンビエント・エレクトロニカが組み合わされたかのようなまったくクリシェに頼らないサウンドが痛烈に胸を打つ。Apparatの洞察力とミニマリズム、Modeselektorのタフネスと図太さが組み合わされた、真にユニークなプロダクトだ。 このアルバムはスタイル的に言えば、Moderatのデビューアルバムの発展版という意見もあるだろうし、じっさいにいくつかの点ではその指摘は当っている。アルバムの中核を成す、10分間の扇情的なアンビエント・テクノ"Milk"は前アルバムの"A New Error"のいとこにあたるようなトラックで、同様に"Bad Kingdom"と"Gita"もまた前アルバム収録の"Rusty Nails"と同様のコンポーネンツを行き来している(渦巻くようなブレイクビーツ、みぞおちを衝くベース、甲高いレイブ・シンセなど)。 だが、かつては暫定的でバラバラであるように聴こえた彼らのサウンドは、今回のアルバムではあらゆる点で成熟し調和のとれたレコードとなっている。もし、彼らが今後アルバムをリリースしないとすれば、このアルバムこそが彼らのコラボレーションにおけるひとつの到達点となるだろう。
  • Tracklist
      01. The Mark (Interlude) 02. Bad Kingdom 03. Versions 04. Let in the Light 05. Milk 06. Therapy 07. Gita 08. Clouded (Interlude) 09. Ilona 10. Damage Done 11. This Time
RA