Floorplan - Paradise

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  • その名が示す通り、Floorplanにおける目的はただひとつしかない。Robert Hoodによるこのサイド・プロジェクトはDJツールとしての耐久性の高さと午前4時のフロアーを爆発させる即効性を両立して提供することにある。ある意味、こうした機能性を持ったトラックは現代では大した意味性は成さない。緊張感と閉所恐怖症的感覚と自己完結的な感覚が一連となって、ループを軸にしたグルーヴ主体の構造が6分か8分くらいの時間軸でじわじわとマイクロスコピック的な変化で展開する。コンセプトや制作スタイルとしても、とりわけ新しくイノベイティブなものでもない。こうしたタフで反復性の強いハウス・ミュージックの在り方はたとえばX-press 2といったオリジナルUKハードハウス、さらにはクラシックなデトロイト・テクノの時代にも見られたものだ。"Let's Ride"でグルーヴを加速させる多幸感に満ちたドラム・フィルにしても、これは多くの古いシカゴハウス・トラック群から着想を得たものだろう。とはいうものの、HoodによるFloorplan名義でのフルレングス『Paradise』には揺るぎないフレッシュさと力強さがあるのは確かだ。 ヘヴィーでループ中心のマテリアルを多く手掛けるMr Gと同様、Hoodもまたそのディープで官能的なトラックの中にアナログ的な暖かみを落とし込んでいる。これらのトラックの中で呻吟する揺るぎないエナジーを持った硬質さとバウンシーさはゲットーテックさえ彷彿とさせる。Hoodがそのハウスチューンのなかにいくらかのダークさを受け入れる包容力を持っていることを考えれば、Ben KlockがHoodの作品をフェイバリットに挙げる理由も容易に理解できる。Klockはfabricのミックスにおいて、Hoodのトラックを実に2曲も選んでいる。 DJツール的なトラックの集合体であることを踏まえると、この作品のアルバムとしての完成度の高さには舌を巻く。その反復性という共通点を別にすれば、ここには本物のトーンとしての多様性がある。"Altered Ego"での攻め立てるようなテクノと "Confess"でのネオ・ピアノハウス、そして"Never Grow Old"といったトラックはすべてことごとく異なる個性を持っている。とりわけ"Never Grow Old"はアルバム中でも傑出したトラックで、快活なジャジー・キー、埃っぽいヴァイナル・ノイズ、そして胸を打つ壮大なゴスペル・サンプルはまるでMoodymannをオーヴァードライブさせたかのようである。 このアルバムの魅力は、その色彩の豊かさだけではない。ホームリスニングにおいてヘッドフォンで聴いてみると、Hoodの仕掛ける音色の変化、アレンジメント、テンポがよりクリアーに確認でき、これらのトラックはより濃密でヴィヴィッドなものとして聴こえてくるはずだ。"Baby Baby"でのビートの抜き差し、スタッカートの効いたファンク・ギター、断続的なブラスの沸騰が織りなすスリリングで激震を伴う展開では、リスナーはこの達人ミニマリストの世界に呑み込まれてしまうはずだ。
  • Tracklist
      01. Let's Ride 02. Baby Baby 03. Change 04. Altered Ego 05. Never Grow Old 06. Eclipse 07. Higher 08. Confess 09. Chord Principle 10. Above The Clouds
RA