Airhead - For Years

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  • Airheadは長らくJames Blakeの影に隠れてきた存在だ。James Blakeがポップスターとなる以前から彼とコラボレートし、いまもBlakeのツアー・ギタリストとして帯同している。Airheadがもたらしたヴォイスにおける実験やギター、サブ・ベースはBlake独自の不安定さを伴った手法において大きな助けとなり、Blakeの成功はすなわちAirheadをスターダムに押し上げるものであったはずだった。だが、Airheadは依然として裏方の存在から抜け出せず、昨年R&Sとサインを交わし2枚の充実したEPを残しながらもBlakeのようなシーンを越えた成功はいまだ得られていない。Airheadが長らく暖め続けてきたこのデビュー・アルバム『For Years』には、崇高な地平へと辿り着こうとするAirheadことRob McAndrewsの試みがよく表れている。劇的なスタイルの変化というよりは探究に近いこの作品には、秋の柔らかい光のもとに漂う暖かな色彩や枯葉のような彼の音楽性が投影されている。 『For Years』はまず、昨年リリースされたAirheadの最も分裂したトラック"Wait"から始まる。断続的に鳴らされるギター・リフにYeah Yeah Yeahsのサンプルを織り込んだこのトラックは、まるでタイプの違う曲同士を強引に繋ぎ合わせたかのような不格好な魅力を伴っている。抑制されたムードの"Milkola Bottle"でのサウンドはより成熟している印象で、タイトに編み込まれたサンプル群はやがて展開が穏やかになるにつれて解きほぐされていく。ここから、このアルバムはありのままの心地よさを帯びてゆく。"Pyramid Lake"での分裂症的ガラージや"Azure Race"でのポストロック的質感といった展開を挟みながらも、"Autumn"や"Callow"といったイングリッシュ・フォーク的な素朴さを伴った美しく短い瞬間へと和らげられていく。"Autumn"および"Callow"の2曲にはAirheadらしい繊細な筆致がよりはっきりとした厚みをもって表現されており、細やかな感情表現はBroken Social Sceneなどのバンドを連想させる。 "Autumn"を過ぎると、"Fault Line"での胸を打つようなハウスを皮切りにしてアルバムは明確な変化を見せ始める。 McAndrews自身のかつてダブステップに多大な影響を受けた過去を窺わせるMount Kimbie的な小作品"Lightmeters"を経て、アルバムはJames Blakeとのコラボレーションとなるラスト・トラック"Knives"に着地する。すべてのはじまりとなった2人のパートナーシップへの帰還となるこのトラックで、McAndrewsは昨今の彼の周辺を取り巻く目まぐるしい環境の変化にもかかわらず自己を見失っていないことを示している。00年代後半以降にUKから出てきたベース・ミュージックの系譜において、McAndrewsは過去3年間最も興味深い音楽のいくつかに関わってきた。このアルバム『For Years』は2010年以来彼が続けてきている静かなる探究における自然な帰結と捉えることも出来るだろう。
  • Tracklist
      01. Wait 02. Milkola Bottle 03. Callow 04. Masami 05. Pyramid Lake 06. Azure Race 07. Autumn 08. Fault Line 09. Lightmeters 10. Knives
RA