Pearson Sound - REM

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  • これまでのDavid Kennedyのキャリアには、気楽なクルーズ・モード的なリリースをする局面がいくつかあったはずだ。2010年にAppleblimやMidlandとともに展開したハウス・コラボレーションはもっと続けてもよかったはずだし、その翌年に展開した808を多用した重心の低いプロダクションもまたしかりだ。どちらのケースにも共通して言えるのは、Kennedyは少なくとも他のプロデューサーが決してやらないことをを率先してやっていたということだ。そのたびに彼は自分のサンプル・フォルダを空にして、それまで染み付いたアプローチをあっさりとゴミ箱に棄てて自己のリフレッシュを図ってきた。このセルフ・リリースとなるEPもまた、まさしくそうした彼独特の手法が感じられる1枚だ。もちろん、彼の過去の作品との共通点がまるでないわけではない。荒唐無稽なブレイクビーツの使い方は過去には"Quivver"でも聴くことが出来た要素のひとつだし、"Figment"でのギラついたシンセ・ワークの原型を辿ると "Piston"に行きつくはずだ。しかし、去年まで彼が展開していたドラムマシーンによるモザイク的展開に比べると、この「REM」はまったく異なるものになっている。 それは、主に構造の違いに起因する。Kennedyのプロダクションは、これまで長らくその熟練したフォームの扱い方が活きていた。鈍いものも含めてすべてのエレメントが正確に配置され、ブレイクダウンやドロップを繰り返しながら心地よく響かせるのだ。対照的に、今回のEPに収録されたトラックは均衡状態もしくはその密度を注意深く組み替えながら浮かんでいるような感覚を与える。シンプルでありながら驚くほど中毒性の高い"Figment"では、リスナーはビートレスの空間で固まったままになる。いっぽう、"REM"は物悲しく浮かび上がり、唐突なサブベースのスタブや明滅するハイエンドがダンスフロアーに向けられたものではないことは明確だ。"Gridlock"と "Crimson (Beat Ritual Mix)"では少しだけフロアー的な要素は濃くなる。"Gridlock"では濁ったブレイクビーツとAnthony Shakirを彷彿とさせるフィルターがかったコードが絡められている一方、"Crimson (Beat Ritual Mix)"では"Quivver"の残像がうっすらとながら明確に浮かび上がる。どのトラックにも共通して言えるのは、いわゆるキャッチ—さやフックといったものが希薄だということだが、そのぶん穏やかなヒプノティックさという魅力が満ちている。
  • Tracklist
      A1 REM A2 Gridlock B1 Figment B2 Crimson (Beat Ritual Mix)
RA