Blue Hawaii - Untogether

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  • Blue Hawaiiという存在は、エレクトロニック・ミュージックにおける忍び寄るかのような伝染性を興味深く提示している。このモントリオール出身のデュオがここ最近リリースした作品はシンセをフィーチャーした催眠的なフォーク・ポップといった趣であったが、それらは依然として他の伝統に由来する音楽を着せ替えしているだけのようにも感じられた。しかし、このアルバムにおいてAgorとRaphのふたりはダンスミュージックを発見し、その音楽自体を模倣するよりもテクスチャーと音色を取り入れることにより希薄なポップ性を帯びた魅力的な作品を作り上げた。 この2人はこのアルバムにおけるソングライティングをそれぞれ分担しているのは明白で、この『Untogether』においてAgorがRaphのエレクトロニクスを交えた繊細な楽曲群に挑んでいるような感覚があったり、Agorの人工的なサウンドの上でRaphがその存在を自己主張しているかのように感じられるのはそのせいだろう。そうした異質なもののぶつかり合いが却ってアルバム全体に調和性をもたらしており、2人がお互いのサウンドに対してためらいがちに駆け引きしているような感覚さえ受ける。その結果出来上がったアルバムは肉感的かつ荒涼としており、その密室的なムードは彼らのありのままの姿を曝け出している。 このアルバム全体を支配しているエレメント、それは静寂だ。RaphのヴォイスとAgorの繊細なエレクトロニクスのあいだでは、悲痛なサウンドがクリアかつシャープに響いている。アルバム1曲目の"Folow"では静謐なサウンドが印象主義的に連なり、フラットなベースと共にヴォーカルが紡がれている。ループされた、解読不明なヴォーカルがまったく新しいメロディを生み出していくこの曲には、アルバムにおける最も象徴的な特質が表れていると言っていいだろう。この手法はベース・ミュージックに着想を得たもので、その援用のやり方はここで絶大な効果を上げている。 このアルバムの最良の瞬間のいくつかは、彼らがダンス寄りの展開を導入している部分で訪れる。2部構成となった力作"In Two"は幻惑的で、その後半ではズキズキするような感覚が拡散されていく。Raphは挑戦的にその船酔いするかのようなヴォイスの波に乗り、彼女が"It doesn't hurt, it only makes me sicker/And we, wiser/An end to us."と唄うと威厳にあふれた静寂が広がる。シンプルだが痛切なこの曲は、アーティフィシャルな躓きのなかから具象性のあることばを拾い上げるこの2人の不安定でリリカルな関係性さえ浮き彫りにしている。 そのタイトルからも窺えるとおり、この『Untogether』は乾き切った関係性と深く関係している。主題に対して開かれた誠実さで向き合いながら、このデュオは破局めいた曲から、ほんとうに良く知っている誰かと愛を育むことの美徳を表現した"Sweet Tooth"まで、あらゆる音域を使って表現してみせる。"Try To Be"はこのデュオのこれまでで最も傑出した曲であり、自己のアイデンティティや落胆、自立などについて深く内省している。この曲はまた、アルバム中でも最もオーガニックなものであり、重厚なマニピュレーションが施されたアルバム1曲目でのすべてを押し流すようなアコースティック・ギターやゆったりとしたリヴァーブに浸されたヴォイスから繋がっている。そのヴァースでは、Raphが儚いコーラスと対比するように唄い、穏やかに駆け上るソロを経てやがて喘ぐような溜息の中に胴体着陸する。美しくも困惑的で、彼女のその素朴なトーンは物悲しくもあり、同時に意気揚々としているようにも聴こえる。ほとんど骨組みまで剥き出しになった状態でさえ、翳りを帯びたアトモスフィアをまるで迂回路のように使うこのアルバムには、いくつものミステリーに満ちている。この作品は、ダンスミュージックをより密接なものとして育った世代のためのポストモダン・ポップだ。
  • Tracklist
      01. Follow 02. Try To Be 03. In Two 04. In Two II 05. Sweet Tooth 06. Sierra Lift 07. Yours to Keep 08. Daisy 09. Flammarion 10. Reaction II 11. The Other Day
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