Voigt & Voigt - Die Zauberhafte Welt Der Anderen

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  • WolfgangとReinhardのVoigt兄弟はたしかにテクノ・プロデューサーとして一般的に認識されているかもしれないが、この『Die Zauberhafte Welt Der Anderen』はエレクトロニック・ミュージックの圏外へと手を伸ばした作品のひとつであり、逆に言えばエレクトロニック・ミュージックの可能性を追求したものでもある。このアルバムの曲タイトルの多くはドイツのTVや映画をもとに付けられており、プレス・リリースではこの『Die Zauberhafte…』をダンスミュージックのクリシェを掻き集めた、架空の映画のためのサウンドトラックであるという、危なっかしい結論を述べている。最悪なことに、Voigt兄弟の相互作用的なループにおける濃密でアトモスフェリックな操作は、単なる陳腐な情景設定のみに陥っている(Fieldから熱狂を抜き取ったら、もしくはOneohtrix Point Neverからひりひりとするような痛切さを抜き取ったら、と考えてみるといい)。"Der Keil NRW"はDJ Shadowの埃っぽいビーツを援用したアクション・スリラー用の曲のようだ。"Die Glocke"では爪弾くようなジャジー・ダブル・ベースという、いかにも探偵物のTVドラマで使われるようなくたびれたテンションが投影されている。 無感情的で、知性に欠けるところもこれまた問題だ。フルートが中心になった"Sozial"はバレアリック・ファンが反応しそうなエレガントで柔らかなポルノ・サウンドトラックのようでもあるのだが、決定的なソウルに欠けている。アルバム中もっともテクノらしいトラックである"Triptychon Nummer 7"は最近のKompaktからリリースされるようなトラックに安っぽいブラック・ムービーやこれまた低予算のサイファイ番組から持ってきたようなサウンドでリフが構成されている。うっすらと鳴っているトライバルなチャントは「Tarzan」におけるblack and whiteのエピソードから持ってきたのだろうか。 ここまで書いてきておいてなんだが、それでもこの『Die Zauberhafte…』は大失敗作と呼ぶには程遠い。エクスペリメンタル・ミュージックにおいて、実験がうまくいったりいかなかったりすることはあたりまえで、このアルバムにはそうした部分を越えた真の輝きがあるのだ。そのクレバーさやサウンド自体に秘められた驚きを音楽理論的に分析する必要はない—そう、Wolfgang Voigtによる作品の大半を巡る議論がそうであるように。サウンドには簡潔な美しさが込められ、小気味よいエモーショナルさがある。アルバム1曲目の"Intro König"やピストンが破裂するかのような"Der Erste Zug"はWolfgangのGAS名義初期作のアトモスフィアを纏っている。もうひとつのハイライトは隠しトラックとして収録された26分にもおよぶヒプノティックなドローン作品だ。硬質な金属のバイブレーションを繋げてループにしたようなこのトラックは、まるで仏教寺院での儀式において僧侶たちがハープを叩きピアノを切り刻んでいるかのようだ。
  • Tracklist
      01. Intro König 02. Der Erste Zug 03. Der Keil NRW 04. Tja Mama, Sandra Maischberger 05. Sozial 06. Die Glocke (Endstation Wiener Platz) 07. Hotel Noki 08. Akira 09. Triptychon Nummer 7 10. Der Letzte Zug
RA