Slow Listener - The Long Rain

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  • Jonny Mugwumpによる多様性あふれるレーベル、Exotic Pylonは昨年スタートして以来数多くの予想外の驚きを提供している。そんななか、この『The Long Rain』はレーベルがこれまでリリースしてきたなかでもっとも説得力にあふれた1枚である。これはRobin DickinsonことSlow Listenerによる作品で、カセットのA面B面に即した長さで、ひび割れて泥沼のような質感をもつアンビエント作品が展開されている。擦り切れてすっかりエッジが削り取られたかのようなサウンドがロウファイにコラージュされ、ほとんど壊れかかったようなマシーン・ビーツの下でよろよろと蠢いている。 その手法は、ありがちとも言える「悪辣な」作風に陥りかねないのだが、Dickinsonは穏やかなメランコリアを丁寧に引き出すことによってそのリスクを見事に回避している。このアルバムは、最初と最後が見事なまでのゴージャスさでまとめ上げられている。"And Nor Was He Mistaken"は揺れる風鈴のようなコードではじまり、"the light"というヴォイスがマントラ的に重ねられる。"Ondras Rising"の終盤では渦を巻くようなフィードバックが鳴り響き、前後不覚に陥りそうなほどの壮大さで包み込んでいく。 サウンドは全体的に質素でありながら、それでいて繊細でもある。"And Nor Was He Mistaken"では密かにぶつかり合う金属片やくたびれた歪み感、柔らかなエッジを伴ったドローンなど、それぞれのテクスチャーが堂々たる存在感をもって次々と現れては消えていく。いっぽう、"Ondras Rising"では少しだけより奇抜で浸食的な展開を見せる。息の詰まるようなトーンが時折その残像を残しながらはじける冒頭の緊張感を経て、その繊細な感覚が上り詰めていくとそこには穏やかな空虚感が残される。曲はそれからさらなる展開を見せ始め、後半部では優れたループの技巧と、それとは異なるピッチで重ねられたレイヤーによって奇妙なモノローグを展開し、複雑で分裂症的な世界観を見せつける。たしかに奇妙だが、同時に中毒性の高い作品である。
RA