Raime - Quarter Turns Over a Living Line

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  • RaimeとBlackest Ever Blackは2010年のデビュー以来共に一心同体でキャリアを歩んできた。Kiran Sandeが運営するこのレーベルから、「Raime EP」を皮切りにさらに2枚のEPを残してきたJoe AndrewsとTom Halsteadによるデュオは70年代/80年代のゴスやインダストリアルを彷彿とさせる乾いた質感にジャングルの生々しい暗黒主義、ダブステップやドゥーム・メタルに着想を得た閉所恐怖症的なベースの重量感を掛け合わせた、いわば独創的なサウンドを展開している。黙示録的な世界観、陰のあるスタイリッシュさ、問答無用のオリジナリティが絶妙に整ったハイブリッドは、まさにBlackest Ever Blackが打ち出すレーベル・イメージに対し完璧に沿うものだと言えるだろう。 そういうわけで、このデュオがそのファースト・アルバムをBlackest Ever Blackからリリースすることは至極自然な流れだし、レーベルとアーティスト双方にとってひとつの成果だと言える。Raimeの寡黙さから裏打ちされる力強さもさることながら、特筆すべきはこのアルバム『Quarter Turns Over a Living Line』に収められた7つのトラックはこれまで彼らが手掛けてきた作品よりもさらに強力なものになっているという事実だ。アルバムというフォーマットの特質上、どうしても無理をし過ぎて本来の持ち味が失われてしまうリスクがあるものだが、幸いなことに彼らに関してはまったくそうした心配は及ばない。約40分間をひたすら集中力を途切れさせることなく、単調になり過ぎることなく、そして周囲の過度の期待さえ裏切ることなくこれまでのRaimeらしさにさらなる新鮮さを加えている。 このアルバムは、いくつかの点で彼らがこれまでリリースしてきたEPが足がかりになっている。ひとつは、これまでの彼らのエレクトロニックなサウンドのパレットに生楽器という要素が加えられている点だ。アコースティックな音色と人工的な音色が混ぜ合わされ、ディストーションを帯びて縫い合わされることでこのデュオのサウンドは新たな豊かさを獲得している。物悲しいストリングスの音色がアルバム全体を通底しており、"Passed Over Trail"や"The Dimming of Road and Rights"といったトラックにおいて煌めきを見せている。これは彼らのバロック的な恐怖感において染み込んでおり、その点ではThe Haxan Cloakにも似ている。とはいえ、それはほとんど(まったくと言っていいほど)古くさい懐古趣味には陥っていない。また、ギターが時折その存在を主張するところなどは、予想通りと言うべきかドゥーム的な表情を覗かせている(とはいえ、それはアルバム全体から見れば一瞬だけだが)。"Your Cast Will Tire"の奥底で傷だらけになって遠くから鳴り響いているようなループなどは、アメリカのパノラマ的な景色を覆う麻酔仕掛けの哀歌のようでもある。 他に特筆すべき変化と言えば、そのテンポだ。もちろん、その素早いドラム・パターンはこれまでのRaimeのプロダクションにおいてどこかジャングルを軽量化したかのような印象を与えていて、それが彼のオリジナリティにも直結していた。このアルバムでは、"Exist in the Repeat of Practice"などもそうしたトラックのひとつと言えよう。しかし、そうした特徴はアルバム全体で見るとかなり抑制され、もしくは完全に排除されてもいる。そこに置き換わっているのは、ゆったりとした底の知れないほどの空間性であり、恐怖を孕みつつそれ以上のエモーショナルさを注ぎ込んだ音色の豊かさだ。これは以前の彼らには見られなかった要素であり、より少ない要素で豊かな表現を可能にさせようという気概さえ感じさせる。 そうした変化の部分を踏まえつつ、それでもこのアルバムはこれまでの彼らの作風からの断絶ではなく、むしろ一貫性を感じさせるものだ。アルバムでの最良の瞬間のひとつである"The Last Foundry"はその整った循環性において「Raime EP」に収録されていた"This Foundry"から引き継いだものだ。"This Foundry"は彼らが手掛けた作品のなかでももっとも親しみやすくメランコリックな展開を見せていたが、この新たなヴァージョンは同様に切実なものでありながらその分厚いダブル・ベースがディストーションに塗り込められた音像と不意に浮かぶギターの底で沈鬱でハーモニックな展開を見せている。このアルバムはRaimeらしさをキープしながら、アルバム全体でそれがより拡大されたかたちで提示されており、これまで以上にRaimeのより意欲的で成熟した姿を浮かび上がらせている。
  • Tracklist
      01. Passed Over Trail 02. The Last Foundry 03. Soil and Colts 04. Exist in the Repeat of Practice 05. The Walker in Blast and Bottle 06. Your Cast Will Tire 07. The Dimming of Road and Rights
RA