Aybee - Worlds

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  • Armon Bazileが持つディープさは、常に開放感にあふれたものだ。それはまるで、星々のあいだに無限に広がる宇宙をひたすら見つめているような感覚にさせてくれるサウンドだ。そしてその魅力は、彼のAybee名義での作品において顕著に表れている。実際、この最新作『Worlds』には2009年の前作『East Oakland Space Program』に比べてもさらにディープさを増していると言ってもいいだろう。これはより剥き出しになった感覚が強い作品で、ソウルやジャズといった人間的な色彩がとりわけ浮き彫りになっている。 そのビーツとパーカッション・サウンドはこの『Worlds』をディープハウス・アルバムとしてざっくりと分類するに十分なものだが、ただそのクラップは単なる2拍4拍のグリッドにはおさまっていない。いや、実際のところ通常の2拍4拍で打たれるクラップはこのアルバムではほとんど聴かれないと言っていいだろう。この、隙間をたっぷりと取ったアプローチは"Landing"などのトラックを宇宙空間の中で浮かび跳ね回るようなグルーヴに仕立て上げ、その広大な空間性は果てしないものになっている。"What Is"では、美しく振りまかれるようなクラップが奥深い地底の穴から渦を巻いて立ち上り、そこにかすかなメロディの断片がぶら下がる。そこには擦り減って途切れ途切れになったキックも鳴らされるが、それらがトラックを引っ張るようなことはない。そのかわりに、まるでプロペラのようになってリスナーを未知の領域に連れて行く。 アルバムの定型というものはジャーニー的なテーマに陥りがちだが、この『Worlds』に関してはそれはあてはまらない。とはいえ、宇宙船に乗って旅をしているようなイメージを喚起させるのも確かだが。離陸するフェーズから、揺らいだベースとの遭遇を経て、アルバムはブレることなく進んでいく。基本的に、一切の甘さのない骨太なアルバムだといえよう。非現実的で、耳に溶け込んでいくようなテクノに仕立て上げられた"Solaris"や騒々しく揺れる"Moon's Whisper"などのトラックを通してその印象はより強くなり、まるで初期のCarl Craigと最近のJus-Edが共に旅をしているようなサウンドの印象である。 これらの内容を踏まえると、Deepblakレーベルのボスを務めるこのプロデューサーのオプティミスティックな志向が透かし見えてくる。未来や宇宙をテーマにした作品の大半は、黙示録的、もしくは退廃や孤立などの色彩が強くなるものだが、彼の場合はひたすら穏やかで優しいもので、その作品からはいたるところで美しさが溢れ出している(とはいえ、少量の不穏さも含まれていないわけではないのだが)。アルバムを締めくくる"Ascending"は本作品中最も穏やかなトラックで、穏やかで人工的な大海原に立ってエコーするストリングスの調べにただ耳を傾けているような感覚だ。まさしくひとつのジャーニーの最後を飾るに相応しい多幸感にあふれたトラックであるという他なく、たった44分ほどのアルバムでありながらこの壮大なオデッセイはリスナーを銀河の遠いところまで連れて行ってくれることだろう。
RA