Vessel - Order of Noise

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  • どこまでがテクノで、どこからがテクノではないのか?この疑問こそ、昨年のデビュー以来ブリストル出身のプロデューサーVesselのなかで徐々に広がってきたものだ。VesselことSeb Gainsboroughの手掛けるプロダクションは幽玄かつ常にどこか捩じれていて、ポスト・パンクやノイズからの深い影響を感じさせるものだ。このデビューアルバム『Order of Noise』において、Gainsboroughはその漆黒と鈍いクロームの金属感に満たされた世界観を提示してみせる。 Actressの『R.I.P.』同様、このアルバムの第一印象は整合性の乏しいさまざまなパーツの断片を無秩序に集めたような印象を受ける。しかし、これも『R.I.P.』と同じように、注意深く聴いてみればアルバムの奥底にあるかすかだが確実な鼓動を次第に感じ取ることが出来るだろう。このアルバムはドラッグ漬けのパーティの残骸のなかからテクノの遺伝子を入念に掬いあげ、Sandwell Districtのような人々がその邪悪なアンダートーンで表現しているのと同様、混じり気の無い自由なかたちで表現しているのだ。また、このアルバムではダブに対する新たな解釈が試みられており、捩じれた金属質的なそのアプローチはEkoplekzのようなモダン・プリミティブな連中と通じるものである。"Stillborn Dub"では喘ぐようなマシーン・グルーヴがハーシュな瞑想感を印象づけ、Augustus Pablo的なベースラインをデジタル仕立てにした"2 Moon Dub"も興奮を誘う出来映えだ。 Gainsboroughがダーク・アンビエントやモダン・クラシカルに対しても造詣が深いことはすでに彼のRA Podcastでも証明済みだが、このアルバムでもメロディに吹きかけられた繊細なノイズといったかたちで表れている。甲高い音色でハーシュに彩られた"Scarletta"では天高くせり上がるようなモチーフが奢られ、まるでAlva Notoを血まみれにしたかのようだ。非常に不穏で、狼狽させられるようなサウンドだ。"Silten"は幽霊のようなノートから始まり、それらはやがて美しいストリングス・セクションに呑み込まれる。同時に2つか3つ以上の現象が起こっているような印象で、メロディラインは揺らいでぼやけつづける。この点こそが『Order of Noise』をかくも混乱させ、なおかつ刺激的な印象を与えている要因だろう。最初はその不格好な職人気質が散らかった印象を与えるものの、それは怠惰によるものというよりは、むしろ計算された作業の積み重ねによるものだ。毎回聴くたびに新たな驚きを与える、色彩鮮やかなレコードだ。 これまで難しく書き並べてきたが、このアルバムにおける2つのハイライトは、実はごくストレートなものだ。もちろん、そうしたパワフルさはあくまでもアルバム全体を構成する一部として意図されたものではあるのだが。各エレメントごとが繊細に組み合わされた"Lache"は具体音によって形成された紛れもないオーケストラのようで、灰色のシンセが最終盤の残り2分になるとやがて素晴らしいシンフォニーを描き出すのだ。さらに、"Court of Lions"はインダストリアル度が希薄でより陰鬱なムードに覆われている。この2つのトラックが厳密な意味においてテクノであるかといえばそうではないし、同じことがアルバム中の他のトラックにも言える。だが、それでもこのアルバムが今年リリースされたもののなかでも最も魅力的で求心力の高いテクノ・アルバムであることは断言できる。
RA