Robert Hood - Motor: Nighttime World 3

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  • Actressの『RIP』同様、このRobert Hoodによる『Motor: Nighttime World 3』もまたコンセプト・アルバムとして制作されている。実のところ、Actressのアルバムと同様、そのコンセプトをリスナーが理解しようが理解しまいがあまり大差はない。デトロイトのポスト・インダストリアル時代における没落をバックストーリーとしたコンセプトは当然興味深いものだが、"Slow-Motion Katrina"や"A Time To Rebuild"などのトラックを例にとってみても、そこにある種の一貫した文脈を見つけることにたいした意味はない。もちろんそのトラック・タイトルを深読みすることはできるが、このアルバムは究極的には『RIP』と同じく明白なソウル・ミュージックであり、深大で傷ついたハートを美しく反映させたテクノである。だからこそ、リスナーはそのサウンドに安心して身を委ねることができるのだ。 漆黒の闇のような、音数の少ないミニマルテクノにおけるそもそものオリジネーターである彼を知っているリスナーなら、このアルバムにおけるエモーショナルな豊かさに驚かされることだろう。しかし、1995年にパート1がリリースされたこの『Nighttime World』シリーズの3枚目にあたる本作でHoodはしばし立ち止まり、自己の内省の世界へと没入している。彼がこのアルバムの前にリリースした『Omega』でも気付いたリスナーもいるかもしれないが、そこには不協和音のキーと、ビバップ調のコードが織り込まれていた。そうしたジャズ的な影響は今回のアルバムでは主にメロディに対し色濃く反映されており、彼の現代的なエレクトロに対する偏愛("Drive (The Age Of Automation)"といったトラックはもはやVitalicやThe Hackerさえ彷彿とさせる)は、このシリアスで濃厚なアトモスフィアにさらなる彩りを添えている。 Hoodは、あきらかにこのアルバムをデトロイト・テクノの延長線上として手掛けている。その抑制されたトーン、爆発力、Transmatスタイルのストリングスがあしらわれた"Black Technician"はまさにお手本のようなクラシック・デトロイト・テクノだ。それでいて、彼は決して伝統だけにはとらわれない。Hoodはデトロイト的な文法もしっかり引き継ぎつつ(このアルバムのドラム・サウンドは正面から飛び込んでくるというよりは、隣の部屋のスピーカーから聴こえてくるかのようだ)、Carl Craigのようにそれらをさらに異なる次元に引き上げようとしているのだ。 素晴らしいクラブトラックもこのアルバムには収められている。"Hate Transmissions"での象徴的なダブとアシッドの融合、先頃Marcel DettmannがCLR podcastに収録した"Drive"なども圧巻だが、このアルバムはスローダウンした瞬間やふわりと浮かび上がるような瞬間にこそ一際輝きを増す。"Better Life"は2つのベース・コードとせわしないビートが絡むが、キックは決して鳴り出さない。そのかわりに、目もくらむようなピアノ・フレーズと円弧を描くようなシンセが縦横に駆け巡る。それに続く"The Wheel"はどうしようもなく沈鬱で美しいムードではあるが、どこかKraftwerk "Tour De France"を彷彿とさせる部分もある。後半のSlow Motion Katrina"ではBjork的に爪弾くようなストリングスや心地よいジャズ・ファンク的要素が絡み、そこから一気に"Assembly"(Rustieを荒涼とした、いや捨て鉢のファンクに仕立てたかのようだ)や素晴らしく繊細で楽観的な"A Time to Rebuild"を含めるアルバム最終盤になだれ込む。このアルバムは掛け値なしに優れた技巧が注ぎ込まれた、痛切で人間的なマシーン・ミュージックだ。
RA