Deadbeat - Eight

  • Share
  • 昨年Deadbeat自身が立ち上げた新レーベルBLKRTZからリリースされた「Drawn & Quartered」がエキサイティングな作品であった理由のひとつには、そのラディカルな還元主義にあった。そこに収められた5曲の堂々たるピュア・デジタル・ダブには、もはや定型化されたミニマル・ダブの痕跡は微塵も見られなかった。これほどまでに恭しい伝統主義を見せつけておきながら、次はどんな作品を発表するのだろう?そして、「Drawn & Quartered」の興奮もまだ冷めやらぬうちに、強力なスピリットを伴った力みなぎるダブ・テクノを引っさげてベルリン在住のScott Monteithはこのアルバム『Eight』でのびのびとその実力を披露してみせている。 オープニングの"Elephant in the Pool"でさっそくアルバムのムードが決定づけられる。このトラックは「Drawn & Quartered」でのヘヴィーなダブの枠組みの上空をかすめる、いびつなテクノ・バンガーといったところだ。ヘヴィーな加工が施されたコードと、激しくパンニングするドラムは注意深いリスナーの耳を惹き付け、その剥き出しの骨組みのようなテクノに空間的な深みを与え、スケール感や力強さに頼ることなくあくまでも重量感による厚みを演出している。ここから、Monteithはめくるめくアイデアの展開を見せはじめる。それは『Roots & Wire』(2008年にDeadbeatがWagon Repairからリリースしたアルバム)をよりシンプルに、整った配色のパレットで描き出したかのようだ。この瞑想的で抑制されたテクノは"Alamut"や"Yard"ではエキゾチックなシンコペーションを帯び、テクノ独特の調和のとれた重量感はまるで炎が揺らめく様子をスローモーションで眺めているかのような感覚において昇華されている。 「Drawn & Quartered」ではすべてを単独で手掛けていたMonteithだが、このアルバムでは近しい友人たちとのリラックスしたコラボレーションも含まれており、それがともすれば単調なグレーの色調に塗りつぶされそうなアルバムのトーンに鮮やかな色彩を与えている。Cobblestone JazzのメンバーでもあるDanuel Tateはその浮かび上がるようなベースラインを"Lazy Jane"のニュー・ヴァージョンにおいて遺憾なく発揮しており、ダブを真っ二つにしたうえで絶妙に抑制されたグルーヴに仕立て上げている。Mathew Jonsonはアルバム中盤の"Wolves and Angels"で登場し、ピルエットを描くようなアルペジオを披露しており、アルバムの仄暗いムードに一筋の光を差し込んでいる。アルバム最後の"Horns of Jericho"ではDandy Jackが参加し、厳ついパーカッションが渦を巻くように絡んでいる。こうしたコラボレーション・トラックの中にあってもMonteithの個性はしっかりとした存在感を示している反面、アルバム全体としての一貫性としては「Drawn & Quartered」ほどの強度は無いかもしれない。 アリーナ・サイズの巨大なスケール感と相反するディープで繊細なダブ由来の覚醒感が同居したこの『Eight』は音楽性そのものはもちろん、細部まで行き届いたサウンドデザインにフォーカスしたからこそ成せる賜物だ。PoleによるリマスタリングとMonolakeによるアシスト(クレジット上は"room design"とされている)を踏まえて考えるならば、空間を自在に切り裂くようなドラムのインパクトも納得できるというものだろう。非常に繊細なディテールに満ちた濃密なアルバムに仕上がっている。そのサウンドのディテールは相互に作用し合い、じつに細かな変調を繰り返す。そして忘れてならないのは、そのディテールにおける繊細さはアルバムを包み込む低域(ローエンド)の感触にもことごとく活かされているということだ。
RA