Pioneer - RMX-1000

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  • Pioneerのオリジナリティ溢れるDJエフェクトユニットEFX-500がいつ発売されたかを振り返ってみると、時間の流れを感じるだろう。特徴的なジョグダイヤルを持つEFX-500は未だに新しさを感じる機材ではあるが、発売されたのは1998年のことで、もう14年近くが経っている。そしてその7年後には後継機EFX-1000が発売された。両機共にDJミキサー、DJMシリーズのエフェクトアルゴリズムを基にして開発され、リアルタイムのコントロール性能を活かしつつ更にエフェクトを追加した製品だった。BPM解析、タップテンポ、MIDI同期の機能を持ちフレキシブルに対応できるEFXシリーズは、DJブース、そしてスタジオで重宝された。 2012年、つまりEFX-1000が発売されて更に7年が経った今年は、Pioneerにとって新たなDJ用エフェクターを発表するのに丁度良いタイミングだったのだろう。今年3月に新製品Remix Statin RMX-1000が発売になった。製品名が昨今の流行であるライブリミックスツール(例えばNative InstrumentsのF1など)の流れを組んでいることを彷彿させるRMX-1000は、EFX-500やEFX-1000というかつての「DJ用エフェクター」というカテゴリーとは別物だと思わせるに十分な新しい機能が詰まった製品と言える。では一体どこが新しいのだろうか? RMX-1000に触れて最初に気付いたのは、この製品は今までのEFXシリーズとは全く違うものだという点だ。まずサイズはEFXシリーズよりも小型化されており、高さが3インチ以上、奥行きも約2インチ小さくなっている。前面部はやや複雑になっており、ジョグホイールが消え、二等分されていた筐体もひとつにまとめられている。その代り4つの大きなノブの周囲にシルバーとブラックのパネルが配置され、パネルを大きく4つのパートに分けている。また背面部は大幅に簡略化されている。フォーンジャックとRCAピンジャックの入出力はそのまま残されたが、デジタル入出力と、フットスイッチ、EFXリンク、そして最も重要な存在だったと言えるMIDIポートが無くなった。しかし、RMX-1000ではEFXシリーズには欠けていたUSBポートが背面部に追加され、SDカードスロットも側面部に追加されている。 このようにかなりの変更が加えられたので、EFX-1000の全体を見ながら、どのように機能するのかを見て行くことにしよう。RMX-1000内部には基本的には2つの信号が存在する。ひとつは当然ながら入力信号、そしてもうひとつはRMX-1000のX-PAD FXパネルで生み出される信号だ。そしてこの2つの信号はISOLATE FXとSCENE FXパネルを経由させることができる。ISOLATE FXパネルには3つのノブが配置されており、これらは殆どの場合EQ、またはアイソレーターとして使用するが、TRANSやDRIVEのような別の機能も選択することができる。ISOLATE FXパネルに信号を通過させた後は、円形のSCENE FXパネルへ信号が送られる。ここでは各種エフェクトが「Build Up」と「Break Down」という2つのカテゴリーに別れて配置されており、各カテゴリーには5種類ずつエフェクトが備わっている。また、それぞれ独立したボタンが用意されており、前面部で一番大きいサイズのノブを取り巻くように配置されている。このノブを円形パネルの下部に配置された2つの小さなノブと一緒に使用することで、選択したエフェクトの大きさや変化を操作することが可能になっている。 以上のようなプロセスで精製されるサウンドは、あっという間に自分の手には負えなくなってしまう時がある。というのは、ISOLATEとSCENEには膨大な数のコントロールが備わっているからだ(全22種類)。そのため、サウンドを元の状態に戻すのは非常に厄介な作業になるところだったが、Pioneerは元のサウンドに戻す手立てを用意している。それはRELEASE FXと呼ばれるセクションで、ここにはレバーとスライド式のスイッチが備わっている。このセクションには、3つの異なったエフェクト(VINYL BRAKE、ECHO、BACK SPIN)が選べるようになっており、レバーを手前に倒すと、選択したエフェクトがオンとなり、代わりにISOLATORやSCENEのエフェクトがオフとなって、サウンドを混沌から元の状態へと戻してくれる。このエフェクトがかかる長さは、レバーをどの程度倒すかによって決まってくるため、慣れるのには少し時間がかかるだろう。このセクションは基本的に非常に効果的だが、多少変化が急激なので、サウンドを自然に変化させるように各種パラメータが操作できるようになっていれば尚良かっただろう。 また、RMX-1000にはもうひとつ機能が加わっている。それはRemixboxと呼ばれるソフトだ。これを使用することで、RMX-1000がUSB接続で使用できるようになる。RemixboxはMac/Windows両OS対応で、Pioneerのホームページ上から無料でダウンロードすることができる。このソフトを使用するとRMX-1000の各種エフェクトの設定値を変化させることが可能で、こうすることによって実際に本体のノブを回した時のエフェクトのかかり方が変わってくる。Remixboxを立ち上げれば、SDカード(本体には同梱されない)がこの機材には必須だということが即座に理解できるだろう。というのは、自分用にカスタマイズしたエフェクトの設定のセーブ、またはOS自体のアップデートには必ずSDカードが必要になってくるからだ。またSDカードを使えばサンプルをRMX-1000上にロードすることも可能になる。サンプルはX-PAD FXパネル上へロードされ、サンプルを4個まで格納できる4つのバンク(各バンク最大16秒まで)を使って、自由にまたはクォンタイズした形でトリガーすることが可能だ。 Remixboxは非常に優れたソフトだが、RMX-1000の最も面白い機能は、USBポートを経由でRMX-1000のVST/AUプラグインのコントローラーとして機能できるという点だろう。プラグイン上の全てのパラメータはオートメーションに対応しているので、レコーディングを開始した後にRMX-1000のノブを変化させれば、プラグインのパラメータが同時に変化させてレコーディングすることが可能だ。我々がこの機能をテストした際は、特にReleaseエフェクトだが、使用すると同期がずれるという問題が生じていた。しかし、まだ発売されて間もないため、将来的に解決されることに期待したい。 RMX-1000は全体的には非常に面白い機材と言えるだろう。Releaseエフェクト以外のエフェクトはPioneerらしいパワフルさがあり、大きなスペース用と言えるが、操作に慣れればより小さなスペースにも対応できるようになるだろう。X-PAD FXパネルはサンプルを手早く加えたり、入力信号と同期しながらリアルタイムでサンプリングしたり、またはサンプルをループさせたりするのに向いている(例えば入力信号をループさせ、その上に新たにビートを加えることが可能)が、リアルタイムのサンプリングはやや雑な印象を与えると言わざるを得ない。そしてコンピューターとRMXの統合化は、DJミックスやトラックを制作するDJにとっては大きなセールスポイントと言えるだろう。我々が一番不満に感じた点は、EFXシリーズに備わっていたMIDIポートが無くなってしまったことだ。MIDIクロックで同期ができれば、RMX-1000はライブセットで重用される機材になっていただろう。USBポートを経由してのMIDI同期だけでも便利になると思うので、早期実現に期待したい。この機能が実装されていない今の段階でのRMX-1000は、優秀なBPM検出機能を持つエフェクトが欲しいというヴァイナルやCDを使うDJにお勧めの機材というところだろう。 Ratings: Cost: 3.5/5 Sound: 4/5 Versatility: 4/5 Ease of use: 3.5/5
RA