Crooked Man - Preset

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  • この実に謎めいたCrooked Manなるアーティストによる2曲のトラック"Preset"と"Scum"はまるで失われた時空の隙間からこぼれ落ちてきたようなサウンドだ。デジタル的な肌触りではあるものの、非常にソング・オリエンティッドなこの2曲は、過去30年のあいだどの時間でも存在しうるものであると同時に、やはり現代でなければ生まれ得ないものだ。その予想は決して大きく外れてはいないというべきか、Crooked ManことRichard Barrattはかつて80年代後半から90年代前半にはParrotという名義を名乗ってシェフィールドでDJをしていた。彼は地道ながらも音楽活動を続け、2007年にRóisín Murphyがリリースしたアルバム『Overpowered』やToddla Tの『Skanky Skanky』などの作品においてソングライターとしてクレジットに名を連ねているし、またRichard H. Kirkと共に手掛けたSweet Exorcistとしての過去のマテリアルは最近になってWarpからリイシューもされている。 ごく少数プレスの4枚の連作のうちの最初の1枚としてリリースされるCrooked Manとしての楽曲は非常にムーディーでありながらサイケデリックで、彼のこれまでのキャリアと比較すると異例と言えるほどアンダーグラウンド色が強いものとなっている。 "Preset"は熱量の高い、煙だらけのハウス・チューンだ。渦を巻くようなドラム・パターンや抑制されながらも脈動し続けるメロディ、そして重厚なヴォーカル・アレンジで濃密に満たされたこのトラックは、まるで夜明けのまったく見えない長く深いクラブでの一夜を想起させる。いっぽう"Scum (Always Rises To The Top)"は刃物のごとき鋭利さをもった、後期Luomoを思わせるスカスカのリズムとリヴァーブによってどこまでも伸びるザラついた質感のシンセが奢られている。Aサイド同様ヴォーカルはソウルフルだ。ややオフ・キー気味ではあるのだが、トラック自体の刺々しい質感を考えればぴったりとフィットしていると思う。
RA