Idjut Boys - Cellar Door

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  • これが正真正銘、Idjut Boysのファースト・アルバムだ。彼らはここ数年も活発な活動を続けてきてはいるが、それでもその活動の全貌を掴むのは難しい。その20年にも及ぼうとするキャリアの中で、Dan TylerとConnie McConnellのデュオはダンスミュージック界における髭面のルネサンス・メンとしての評価を確立し、数々の12インチやエディットを発表するいっぽう、Rune Lindbaekを交えたMeanderthalsとしては2009年にアルバムをリリースし、彼らが手掛けるミックスは2005年Tirkからリリースした『Press Play』を筆頭に常に高い評価を得ている。 このアルバムのリリースに際し、彼らはMeanderthalsとしてもアルバムをリリースしたSmalltown Supersoundに復帰した。そして、彼ら自身がインタビューにおいて語っていた通り、彼らはこのアルバムを「朝起きて、コーヒーを淹れてワッフルを焼き上げるあいだに気軽に聴けるもの」として制作している。そうしたこともあり、このアルバムにおけるダンスフロアー的な要素はかなり希薄で、そのぶん彼らの万華鏡のように多様な音楽性が浮き彫りになっている。まるで、朝にゆっくりと目覚めて、そのままゆったりとした時間を過ごしながら夜を迎えてやがて眠りにつくような、そんなアルバム構成になっているのだ。とはいえ、彼らがそれぞれのソロ・マテリアルやエディットでここ最近手掛けているような方向性は、このアルバムでも目もくらむようなスローモー・ディスコ、ストーナー・ダブ、バレアリック・ロックといった要素とともに絶妙といえるほど弛緩した感覚で落とし込まれている。 アルバムの大半において、Sally Rodgersのヴォイスはただのガイド役以上の役割を果たしており、その酩酊してぼやけたヴォイスはIdjutの2人が繰り出すサウンドにさらなる彩りを添えている。強い光をソフト・フォーカスで写し取ったような、そんな趣だ。空間を生かしつつ軽めに仕立てた"Rabass"や"Jazz Axe"から、Rodgersのヴォーカルを交え、ダビーさとぎりぎりのロックっぽさを残した"Shine"、イビザ仕立てのFleetwood Macといった佇まいの"Going Down"、はたまた重厚なベースラインと空を真っ二つにするようなギターが奢られた"The Way I Like It"、ヨレヨレでドラッギーな"Le Wasuk"の冒頭でのスローなピアノからストレンジな電気仕掛けのワルツといったムードへの展開を見せつつ、"Lovehunter"でのロック感覚丸出しの素晴らしいサウンドはまるで「もしRoy Harperがバレアリック・ディスコを手掛けたらこんな感じになるのではないか」とさえ想像させる。 実際のところ、このアルバム中で唯一ダンスフロアー的要素が押し出されているトラックは、リード・シングルとなった"One for Kenny"(筋肉質なベースが唸り、執拗なシンセや鋭いギターが響き渡り、そこにBugge Wesseltoftによるピアノが絡む)ぐらいなものだ。この曲はアルバム全体のゆったりとしたテンポを考えると、異例ともいえる存在感をはなっている。先に述べたように、このアルバムはIdjut Boysにとっては初のアルバムではあるのだが、やはりMeanderthalsのアルバム制作からそのまま引き継がれた要素も多く見受けられる。このアルバムが届けられるまで随分と待たされてやきもきもしたが、やはり待った甲斐はあったと言うべきだろう。
  • Tracklist
      01. Rabass 02. Shine 03. One for Kenny 04. Going Down 05. The Way I Like It 06. Love Hunter 07. Le Wasuk 08. Jazz Axe
RA