Austin Cesear - Cruise Forever

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  • Public Informationは今回のAustin Cesearによるデビューアルバムにおいても空想的で時代精神旺盛なリリースを展開している。この『Cruise Forever』はある意味ではEkoplekzが『Dromilly Vale』で展開していた淀んだ霧のようなサウンドや、はたまたF.C. Juddの具体実験におけるサイケデリックな遊び心とそう遠くないところにあるサウンドだと言えるのだが、これまでのこのレーベルが展開してきたサウンドの文脈に沿ってこのアルバムを聴いてみると、この作品が持つサウンドの特異性が際立って響いてくる。 アルバム1曲目の"Cloud Hall"での最初の1分間を聴いて確信するのは、このアルバムがダンスフロアーを見据えて作られたアルバムだという事実だ。長尺のトラックが並ぶその隙間には豪奢でビートレスのインタールードがところどころ挿入され、風が強いのにどこかどんよりとした"Mountain Ascension"はストーンしている時に見る夢のようでもある(もし山をテーマにミックステープを作ろうとするなら、この曲はKonx-Om-Paxの近作"Glacier Mountain Descent"とぴったりの相性だろう)。"Forest Forever"は閉所恐怖症的で、うごめくようなサブベースが印象的だ。 インタールードも魅力的だが、やはりこのアルバムの軸を成し、同時にその存在意義を示しているのはダンス・トラックだ。ミニマル由来のケタミン的要素を落とし込んだ"The Groove"にはピッチダウンされたヴォーカルのモノローグが絡み、9分間にもおよぶ"Shut In"はBasic Channel流儀のミニマルダブさながらに抑制された冒頭部から、ひとたびリズミックなループへと展開すると意外なほどに陽気な印象へと変化するのだが、それでもやはりベルリン的な冷たさも同居している。 アルバムは全体的にスケッチ的なラフさも残されており、サウンドに細かな小細工を仕掛けるよりも、素材そのもののポテンシャルをそのまま活かすことが念頭に置かれているようだ。アルバム中の最もダンスフロアー的なトラック群であっても、その始まりと終わりはどこかぶっきらぼうかつ奇妙で、未完成な感じがする。たとえば"The Beast"などは5分間もかけてひたすらグルーヴを積み重ねながら、その終わり方はなんとも唐突でぶっきらぼうだ。そうした意味ではCesearのプロダクションはActressのそれと近いと言うこともできるだろうし、ダンスフロアーの外部の視点からのオマージュという側面が透かし見ることができる。そう、たしかにこのアルバムに収録されているトラックはテクノでありハウスでもあるのだが、それはいつでもすぐにDJでかけられるツール的なものではない。 そうした点を踏まえると、このアルバムは実に複雑で細かなパズルの寄せ集めのような内容だ。しかし、そのトラックのレングスが長かろうと短かかろうと、その曲調がキャッチーであろうとアブストラクトであろうと、アルバム全体を束ねているのはあらゆるディテールに対する繊細さだ。それぞれのエレメントは自在にグリッド上を滑り落ちていき、全方位的に伸び伸びと広がっていく。クォンタイズ感が希薄で自由律的なリズムはごく繊細に断裂する。このアルバムはまさにマインドを探検するような感覚をもたらすのだ。とりわけ特別なオリジナリティがあるわけでもないし、ダンスフロアーから得られたアイデアをベーシックに実践しているとも言えるのだが。ともあれ、このCesearというニューカマーは相当な発見であることは間違いないし、これから彼が歩んでいくキャリアに注目していく価値は十分にあるだろう。
RA