Adesse - Adesse Versions

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  • リミックス、リフィックス、リワーク、はたまたリダブ・・・ダンスミュージックの世界においてオリジナル・トラックを再構築する際にはさまざまな言い方が存在するが、大抵の場合は既存のジャンルに寄り添うための変化をどう巧くやってのけるかという側面が強調される一方で、そのプロセスの中味自体は見落とされがちだ。最近になってとみにその名を耳にする機会が増えたAdesseという名のテクノ・プロデューサーは、自身で手掛けた200枚限定のヴァイナル(90年代のダンスミュージック・クラシックをリメイクしたものが3曲収められている)を自ら「ヴァージョン」と定義している。しかし、批評家的な観点から言えばこれはもはや「カヴァー」と言ってしまったほうがしっくり来る。テンポやテクスチャーこそ大胆な変化が与えられてはいるが、Adesseが手掛けるヴァージョンは本質的にはそのオリジナル群に対し非常に忠実な姿勢を保ち続けている。 1993年にRichie HawtinがJack Master名義でTraxへのオマージュを捧げた作品、"Bang the Box"に対するAdesseのトリートメントはまさにそうしたアプローチが如実に表れている。オリジナルで特徴的だったパンチの効きまくったリヴァーブはゆったりとしたハイハットのビートの中に放り込まれ、熱っぽくよろめくような、実に古典的なダブステップへ驚くべき精緻と共に落とし込まれているのだ。ドリーミーでアップテンポなNick Holderの"Singing Da Blues"は初期のHessle Audioを彷彿とさせるような戦慄のトラックに仕立て直されている。Theo Parrish初期の傑作、"Sky Walking"に対するAdesseの解釈はオリジナルを忠実になぞりながらもそこから大胆に飛躍してみせている。ハードでミニマルなパーカッションに加え、オリジナルのヴォーカルは奇妙で悪辣なムードで塗り替えられている。Adesseが手掛けた「ヴァージョン」はどれもオリジナルの魅力をしっかりと踏まえたものではあるのだが、ギミック的な部分は別とするとしてもこのミステリアスなプロデューサー(こうしたミステリーを探るのも我々にとっては楽しいものだ)はシリアスな存在感を放っている。
RA