Delta Funktionen - Traces

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  • オランダ出身で現在はベルリン在住のNiels LuinenburgことDelta Funktionenはいわゆるスタンダードなテクノ・シーンに属するアーティストではない。彼のライブセットを実際にフロアーで体験してみれば分かるはずだが、テクノとは彼の多彩なパレットを構成する要素のうちたったひとつに過ぎない。彼の90分セットにはデトロイト・エレクトロからストーンフェイス気味のテクノまでまさに多彩な要素が詰め込まれている。Delta Funktionenによる待望のフルレングス、『Traces』はエレクトロおよびその延長線上にあるサウンドが軸となって構成されているのだ。 思わず耳を惹きつけるダウンテンポ・トラック"Frozen Land"でこのアルバムは幕を開ける。これまでシングルを中心に手掛けたアーティストがいざアルバムを制作する時、こうしたメロディアスなイントロを挿入するのはありがちといえばありがちだが、それでもこのトラックにはそうした添え物的なムード以上にこれから始まるアルバムの中味への期待をそそる。次の"Enter"ではタフさとデトロイトっぽさを同居させたバックグラウンドにアシッド・ラインをねじ込んでいる。Drexciya的なサウンドスケープと若干パンチの効いたパーカッションを組み合わせた"Utopia"ではじめてクラブ的なトラックが登場。ぐいぐいとくるキックが全編で鳴り続け、カットアップ処理されたダークなコードがソリッドなグルーヴの上で絶妙なアクセントとなっているこのトラックはさっそくアルバム中屈指のハイライトを用意している。まあ、ヘッドフォンで聴くのにぴったりな心地よいトラックが続くアルバム構成の中にこうしたクラブトラック的なトラックが挿入されれば鮮烈に聴こえるのは当たり前ではあるのだが、それでもこのトラックにおける隅々まで磨き上げられたサウンドや淀みの無いアレンジメントは傑出している。 アルバムはその後も"Challenger"や"Onkalo"といったトラックのようにエレクトロを軸に展開。ここまではいわゆるテクノ由来のインパクトを伴ったトラックは無かったのだが、"On a Distant Journey"と題された壮大なトラックで遂にその牙を剥き出しにする。"Redemption" "And If You Know"と続くアルバム後半部のクライマックスとして用意されているこのトラックは、エレクトロのリバイバリズムとは一線を画しつつ、彼が愛して止まないテクノとエレクトロ、2つの要素を最高のかたちで融合させた1曲と言えるだろう。
RA