Korg - Kaossilator 2

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  • Kaossilator 2は2007年に発表された初代Kaossilatorのコンセプトと機能をそのまま継承したものだが、新機能(この中のいくつかは2010年に発売されたKaossilator Proから持ち込まれたものだ)、新しいデザイン、それに新しい操作感を追加することで、そのコンセプトと機能を更に先へと押し進めている。デザインの面では、初代Kaossilatorとは全く違ったものになっており、角ばったデザインよりもかさばらないデザインで、ちょっと太めのスマートフォンとでも言えるようなルックスになっている他、初代に備わっていたローターリーノブが消え、リボンコントローラーが新たに搭載されている。メイン機能であるXYパッドも改良され、20%以上小さくなった。またKaossilator 2にはより洗練されたディスプレイが搭載されており、初代よりも多くの情報が表示できるようになっている。 電源は単3乾電池2本、またはオプションのアダプターとなっている。初代に搭載されていたフォノのラインアウトが消え、アウトプットはヘッドフォン用のミニジャックアウトプットだけとなった。しかし、Kaossilator 2ではマイク/ラインインプット(3.5mmミニジャック)を通じてオーディオが取り込めるようになっている他、SDカードスロットが備わっており、カード上にループやパフォーマンスをセーブし、他の制作環境上で使用することが可能となっている。パッチは150種類(初代より50種類増えている)あり、リード、アコースティック、ベース、コード、エフェクト、ドラムキット、ドラムパターンというバンクに分けられている。アコースティックサウンドの大半は今一つだが、十分な数が揃っており、ドライなパッチの他にリバーブとディレイが追加されているパッチも存在する。しかし、これらのエフェクトは、リアルタイムにXYパッドの縦方向を使って変化させること以外、エディットが不可能だ。そして変化させることができるパラメーターは、ボリューム、エンベロープのディケイ、またはトーン/フィルターのカットオフだけとなっている。 パッドの水平方向はピッチの変化をコントロールするために使用する。殆どのパッチはデフォルトで2オクターブの設定となっているが、メニュー機能を使用することで1オクターブから8オクターブへと自由に変化させることが可能だ。個人的には1オクターブを選択すればやや正確な演奏が可能になるが、2オクターブ以上の設定になると、指が軽くぶれただけで発音してしまうように感じた。また演奏の音程が外れないように、様々なスケールやモードが選択可能となっており、ピッチクオンタイズをオフにすると、グリッサンド効果も得ることができる。 初代同様、Kaossilator 2には50のゲートアルペジエーターのパターンが組み込まれているが、これは音階上を移動するようなアルペジオの演奏は不可能で、1つの音に対するリズムパターンとしてのアルペジエーターになっている。しかし初代よりもコントロールの幅が広がっており、ゲートタイムの変更が可能になっている(パターン上でプレイされる音の持続時間が長短自由に調整できる)他、スウィングの大きさも調整できるようになっている。 Kaossilator 2ではループレコーディングの部分が一番力を入れた改良部分のようで、ループレコーディング/プレイのボタンがフロントパネルに2個搭載されている。このように2つのループをレコーディングできるようになったことで、パフォーマンスの幅がかなり広がった。各ループはオーバーダブ、ミュート、消去が単独で可能になっている他、2つのループは、リボンコントローラーを使用することで、DJのようにクロスフェードさせることが可能だ。 ループボタンを長押しすると、レコーディングモードに切り替わり、フレーズの長さはビジュアルで表示されるようになっている。フレーズの長さはBPMに応じて16分の1音符から8ビートまで設定することが可能で、異なった長さでレコーディングすることで面白いサウンドを生みだすことが可能だ。ただし、メトロノームの役割を果たすクリック音が搭載されていないため、ユーザーは点滅するLED(ループボタンも点滅するがボタンを長押ししている状態でその点滅を確認するのは難しい)を注意深く見守る必要がある。個人的にはこの点滅だけでタイミングをキープするのはやや難しいように感じたが、練習を積むことで簡単になっていくことを付け加えておきたい。また、ループはオーバーダブが可能になっているので、各ループボタン上のループバンクはレイヤー状に重ねあわせることが可能で、それによってより複雑なサウンドを生みだすことが可能だ。残念なことに初代に搭載されていたアンドゥ機能が無くなっているため、オーバーダブに失敗した場合は、やり直しが出来ない。ループを部分的に削除することは可能だが、これはあくまで時間軸上での削除であり、レイヤーを削除するものではない。つまりループ上の特定のビートを削除し、その他の部分をそのまま残すことは可能なのだが、削除は全てのレイヤーに対して適用されるため、削除した部分は無音となってしまう。これは理想的とは言えないだろう。 レコーディングはノートデータではなく、オーディオデータのレコーディングのため、リズムのクオンタイズ機能がないのは当然だということは理解できたが、その機能があればパフォーマンスをよりタイミング良く行うことができるだろうという思いを拭い去ることができない。この機能、そして各レイヤーに対するボリュームコントロールがあれば、パフォーマンスがかなり向上していただろう。2つのループ間のボリュームバランスはクロスフェーダーで大まかに調整することができるが、本体にボリュームをコントロールする機能はこれ以外存在していない。また、リバーブやディレイのテイルの部分がフレーズの最後ではぶつ切りにされてしまうため、ループ時にやや耳障りに聴こえてしまうというのがレコーディングにおけるもう1つの欠点だ。 内蔵マイク、またはマイク/ラインインプットを使用してのレコーディングが新たにKaossilator 2に追加された機能だ。マイク機能をオンにすると内蔵スピーカーがミュートされてしまう関係上(フィードバックを防ぐためと思われる)、この機能を効果的に使用するには、本体をヘッドフォンまたはスピーカーに繋げておく必要がある。外部ソースをオーバーダブし、本体内のサウンドと無限に組み合わせることができるため、個人的にはボーカルものを重ねあわせ、XYパッドで即興パフォーマンスという流れが面白いと思えた。またレコーディングした後にBPMを変えることでタイムストレッチ効果が生まれるため、これによって面白いサウンドを生みだすことが可能だ。 Kaossilator 2は初代よりも様々な面で大幅に進化を遂げているが、初代に備わっていた大事な機能をいくつか失ってしまっている。その代表はオーバーダブのアンドゥ機能だろう。また、SDカードが使用できる機能がKaossilator 2がプロの現場への可能性を広げているが、この機材は基本的には、本格的な機材と言うよりは小さなクリスマスプレゼントレベルの製品に感じてしまう(結局のところプロ仕様としてはデザインされていない機材だ)。この機材はピッチとリズムの精度が欠けているため、本格的なサウンドを生み出すのは自分のスキルというよりは偶然性に頼る所が大きいように感じられた。とは言え、長時間プレイする程自分のスキルが上がったのは事実で、面白いサウンドが生まれる可能性を持っているこの機材から独特のクリエイティブなアイディアが生まれることもあるだろう。また、Kaossilator 2は、使用する人の知識や能力を問わず非常に楽しく遊べる機材だということも言っておきたい。 Ratings: Cost: 3/5 Sound: 3/5 Versatility: 3/5 Ease of use: 4/5
RA