Sendai - Geotope

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  • Sendaiはベルギー人テクノ・プロデューサーPeter Van Hoesenとサウンド・デザイナーであるYves De Meyの2人によるコラボレーション・プロジェクトである。このプロジェクトのファースト・リリースは2009年にVan Hoesen自身のレーベル、Time To Expressからリリースされている。「The System Policy」と「Sustaining the Chain」という2枚のEPはVan Hoesenのソロ・リリースと同一線上にあるヘヴィーなベースに満ちたテクノにDe Meyの繊細なディテールがミックスされていた。昨年リリースされたTime To Expressのレーベル・コンピレーションまでこのプロジェクトはしばしの沈黙を守っていたものの、BerghainでライブPAを披露(これはオンライン上で入手可能)するなど、再び活発な活動を見せている。そのニュー・マテリアルはDe MayがSandwell Districtから発表したミニアルバム『Counting Triggers』と多くの共通性を覗かせつつ、その繊細な表面下で蠢く繊細なパターン群はTresor的なテクノというよりはクラシックなIDMからの影響源を連想させる。 このSendaiによるデビューアルバム『Geotope』がテクノではない、と言っているわけではない。しかし、デジタル・クリックをふんだんに纏い、過激なフリークエンシーとドローンに満ちたこのアルバムの内容はRaster-Notonあたりの作品で聴かれてもおかしくない種類のものだろう。アルバム中でもとりわけピースフルなムードに包まれた"Emptiness of Attention"では、De Mayの持ち味とも言える高域のフリークエンシーが鋭く取り囲み、まるで金属の塊が強烈な紫外線照射によって侵食されていくかのような感触を受ける。ビートもまた決して一筋縄ではいかず、アルバムの幕を開ける"Terminal Silver Box"ではパルスが深く埋め込まれつつ、スネアの代わりにディストーションが電気仕掛けではじけている。狂気に満ちたパーカッションのエレメントを携えた"EP2010-4"は唸るような低域を必死に押さえ込んでいるかのような緊張感がある。 アルバム総体として言えば、この『Geotope』はノイズ・アルバムやテクノ・アルバムと言うよりはアンビエント・アルバムと言ったほうがしっくりくるだろう。たしかにいくつかのトラックは推進力に満ちているが、それと同時に"A Refusal to Celebrate a Statistic Probability"のようなトラックでは小節ごとに地響きのような感覚をじわじわと増していくトラックは不穏で硬直したムードをかきたて、Shedの"The Praetorian"をより不吉に仕立てたかのような趣もある。 それぞれのトラックを注意深く精査していくと、無数の砂粒がさらさらと滑り、トリッキーなプログラミングはそのギザギザとなった輪郭を持つビートを偶発的なものなのか意図的なものなのか判断を迷わせてしまう。Autechre的とも言える"Further Vexations"のように、このデュオが感情を抑えず自由に発露させているときはすべてがうまく機能するようだ。硬質で耳に鋭く突き刺さるようなスネアとアルバム中でも最も活き活きとしたキックを組み合わせたこのトラックは、どこか感触の良さもありつつやはり危なっかしい性質を有している。 この多様性が災いしているというわけではないが、このアルバムにはところどころそのアイデンティティが不安定になる局面があるようだ。このアルバムはフィジカルで断固としたデジタル・サウンドに満ちているが、6分かそこらのトラックでリスナーに集中力を失わせてしまうような冗長さがあることも否めない。このアルバムの評価は、彼らが"Sustaining The Chain"のようにわかりやすいテクノはもうやらないだろうという予測に依存している。しかしもしリスナーが一定の注意力を持って対峙するならば、この意欲的な作品は深くリスナーの心に食い込んでくるはずだ。Xhinの『Sword』のように、これはテクノとしてのあるひとつの究極の在り方であり、理解の範囲を越えた複雑さを有した作品なのだ。
RA