October - String Theory

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  • ことダンスミュージック界における「休止期間」というものは、大抵の場合長続きしないものだ。50枚目のリリースを区切りにレーベル休止を宣言していたWill Saulのレーベル、Simple Recordsは約1年間の休止期間を経て、Julian SmithことOctoberの新作と共にシーンへ戻ってきた。Octoberによるこの"String Theory"が持つインパクトこそがWill Saulにレーベル再開を決意させたであろうことは、その内容を聴けば想像に難くない。 同郷ブリストルのプロデューサー、Boraiとのコラボレーションとなる"String Theory"は比類の無いキラー・フックを備えたトラックだ。ゆらゆらと崩れ落ちそうなリズムと環境音のサンプルはベースラインと共に埃っぽい質感のサンプルに呑み込まれていく。のっそりと進むフランケンシュタインを思わせるこのトラックはしかし、すべてのエレメントがせわしなく弾んでぶつかり合っていくうちに、驚くほどキャッチーなフックとなって渾然一体の調和を見せ始めるのだ。小気味よいキックドラムとナスティなジャック調ベースライン、古いPeacefrogのレコードからサンプリングしたモノトーンなコードが組み合わされた"Tension Point"はテクノとディープハウスの奇妙な交差点とでも呼べそうなトラックだが、Octoberの見事な手腕によって実に自然なグルーヴを実現している。 Bサイドにはオランダ人プロデューサーDanny Wolfersによる"String Theory"のリミックスを2ヴァージョン収録。Polarius名義でのリミックスではオリジナルのキャッチーなフックを敢えて取り払い、ヘビーなフィルターと途切れのないシンセ・アルペジオが組み合わされている。出色はLegowelt名義で仕立てられたもうひとつのリミックスで、オリジナルをさらに加速させたうえでそのキャッチーなサンプルをほとんど判別不能まで加工したそのヴァージョンはこのEPでも最大のハイライトと言えよう。不安定でありながら極めて活性の高い、興奮を誘うこのリミックスにはLegoweltの長所がすべて反映されている。
RA