Eglo Records in London

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  • Alexander NutとFloating Pointsがロンドンを拠点に始動したレーベル、Egloの特筆すべき点は、レーベルの持つジャンルの多様性だけでなく、それらが全てが完璧な形で世に発表されていることだ。Egloの3周年イベントは、Nutsのウォームアップ・セットから始まり、レーベルのもつ美学が見事に形に表現されているものだった。ウォンキー・エレクトロニック・ビートからマニアックなガーナ・アフロビート、そしてMucical Mobsの名曲"Pulse X"へと15分もしないうちに展開。一歩間違えれば、ジャンルが行き交いするばかりの不自然なセットになってしまうところ、Nutsは洗練されたセットをそのままキープしていた。 Egloの3周年イベントは、木曜日の夜に開催された。今回のイベントが平日営業を滅多にしないfabricで行なわれたこともあって、パーティー自体が何か特別なものに感じられた。ライブ・パフォーマンスとDJセットをミックスしたイベントで、ナイトクラブとライブハウスの中間といった印象を受けたが、こういったパーティースタイルは、最近元気のないfabricの平日カレンダーにこれから命を吹き込む最良なタクティック(戦術)になるかもしれない。 Egloのもう1つのトレードマークと言えば、レーベル内での家族的な結束の強さだ。本誌のLabel Of The Monthでも、レーベルの特徴でもあるアーティスト達との結びつきについて触れられていた。そんなレーベルが手がけるパーティーのハイライトの1人として、EgloのボーカリストFatimaが登場したことは、驚きでもない。安定感のあるバンドとソウル・シンガーOliver Dayと共にダウンテンポとジャズから影響された作品の数々を披露するFatima。彼らを見ながら、Soul II Soulのようなイギリス人アクトが、複雑ながらも音楽的進化を着実に遂げてきていることを感じた。これまで発表したEPは、わずか2作品ながらも、彼女の30分に及ぶセットには、メジャー・レーベルのシンガーよりも強烈な作品が披露されていた。彼女に合う作品が着々と発表されていけばの話だが、彼女には、多くの人を魅了するアーティストへと成長していくポテンシャルがある。 Fatimaの次に登場したのがEgloのスター・プレイヤー(星)、Floating PointsことSam Shepherdだ。イベント当夜、最も期待されたSamのライブセットだったが、それは彼がEgloの中でも常に最良な作品を発表するプロデューサーである上に、今回が2回目のライブセットだったからだ。複雑に並び合った見た目からして気難しそうな(扱うのが大変そうな)ハードウェアーの上に座るSamは、ゆったりとしたピアノ演奏と、ハードウェアのつまみをねじる時間の2つに区切ったセットを披露してくれた。多くのエレクトロニック・ミュージックのライブに言える事だが、実際目の前で行なわれている事が時として本当に“ライブ”なのか否か予測できないこともある。しかしSamの場合、彼の顔からにじみ出た緊迫感は、扱いづらいマシーンと格闘する人を彷彿させた、他のアーティストと比べてもより自然な要素を含んだものに仕上がっていた。彼のライブがいかに激しいものだったかと。影響されたジャズ・サウンドではなく、"Shark Chase"のようなウォンキーハウスに傾倒したセットになっており、テクノにフォーカスを置いた土曜日のfabricで流れていたら、どんなにパーフェクトであっただろうとさえ感じてしまった。締めくくりには"Arp3"がプレイされ、SamによるHerbie Hancock風なピアノの旋律で終わったセットを見て、“正真正銘のライブパフォーマー”という肩書きが、すでにうらやましいほどの才能を持つ彼のリストに加えられたのを感じた。 Samのセットが終わり、既に素晴らしい夜となったパーティーで、Dez Andresの登場は殆ど不必要に感じるほどだった。Dezは、デトロイト出身で同郷MoodymannとSlum Villadeとも親交の深い存在だ。彼は巧みなターンテーブルの手ほどきと、正体不明なソウルじみたハウス、ノリの良いヒップホップ作を混ぜ合わせることで、2つのジャンルを1つの世界にうまく掛け合わせたセットを繰り広げてくれた。彼は1枚のレコードをループさせながら、Dezの親しい友人で、Egloに大きな影響を与えた人物でもあるJ Dillaにエールを送った。Dezが参加したことで、パーティーがハイクオリティーなものになっことは間違いないのだが、ここで1つ付け加えたいのは、Dezの代わりにEgloの中でもあまり良く知られていないアーティストを参加させたとしても、イベント自体は成功に終わっていただろうという事だ。3年という短いキャリアのレーベルではあるが、3周年パーティーはEgloのベストアクトを揃え、最高潮に達した夜だった。もし彼らがこのペースをキープできるのなら、UKの音楽シーンはより恵まれたものになるだろう。
RA