Shed - The Praetorian

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  • René Pawlowitzの名義「Shed」は、「Woodshedding」という単語と無意識に結び付いてしまう。ちなみにこの「Woodshedding」という言葉は、ミュージシャンの自己鍛錬(個人練習)を指して使う言葉だ。Renéは昨年EQDとWaxからリリースをしたものの、Shed名義ではここ1年半に渡って活動を休止させていた。しかし、ここへきてアルバム先行シングルという形で50 Weaponsからニューシングルが発表された。そこにはこのような音楽をどう言葉で説明したら良いのかわからないという本人の仲間や友人、そして評論家やリスナーなど全ての人々に対し、自分達の感覚を研ぎ澄ませというメッセージが詰まっている。 今作の両トラックとも、いわゆる一般的なクラブミュージックの形式に沿っていない。タイトルトラック”The Praetorian”はBPM115の4つ打ちだが、この曲をスローモーハウスと混同することはまずないだろう。このトラックでは、ホワイトノイズとレゾナンス音に覆われたようなキックと、ドライアイスに漬けられたようなリムショットという2種類だけがドラムサウンドとして使われており、この味気のない組み合わせの生み出すリズムは、「グルーヴ」という意味では世紀末の祈祷の舞よりもおとなしい。しかし、大きなうねりを放つ強力なシンセ音によって、理路整然とした狂暴さが立ち上り、90年代のテクノサウンドの最盛期の雰囲気が放たれている。 “RQ-170”も同様にリスナーを釘付けにするパワーを持ち合わせたトラックだ。BPM160(ダウンビートとして考えればBPM80)だが、強烈なキックと、1/8で鳴り続ける圧迫的なクリック音はいわゆるドラムンベースとは一線を画している。唯一の共通点と言えなくもないトラック全体が持つ雰囲気も、爆弾のようなベース音と、ホラー映画に使われるような無調なシンセによって、終末感がより強まったものとなっているが、決して低俗な仕上がり、つまりありきたりの「ハードでダーク」という作風ではない。彼の持つ色褪せた色調や、予測不可能なリズムはShedという人物に迫る入り口に過ぎない。薪小屋(woodshed)を出た彼は、雪原を掻き分けながら歩を進めていく。私達はその姿を確認するだけで精一杯だ。
RA