Shigeto - Lineage

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  • Teebs、Shlohmo、Shigetoの3者はいずれも短いトラックを主に作り、従来の楽曲構造からはみ出た心地よさを作り出すアーティストだ。彼らの音楽は銀行まで歩いていく途中であったり、コーヒーを買うための列に並ぶ時であったり1日の終わりにベッドに横たわり眠りに落ちるわずかな間の時間にぴったりとフィットするためのインタールード的なサウンドトラックであるとも言える。彼らはいわゆる従来の意味でのアルバムは作らない。むしろ、固有のムードを演出するための音楽を作っている。あなたがどのようにして音楽を消費するかによって、その効用は変化する。もしもアルバムにある種の大きなテーマ性をあなたが期待するとしたら、これらのアーティストやこの『Lineage』には少し失望してしまうかもしれない。金曜にその1週間の仕事を終え、ゆっくりと一服するときに聴くための音楽をあなたが求めているとしたら、この作品はこの上なく最適なものとなるはずだ。 この3者はサウンドの色彩が多くの部分で似通っているとはいえ、TeebsやShlohmoとこのShigetoが異なっている点は、彼のこの『Lineage』がより濃密で且つ一体感があるところだ。"Lineage (Prologue)"で最初のキックドラムが鳴らされると、ベースラインが絡んでトラックが落ち着くまでスピーカーのローエンドを執拗に揺さぶり続ける。"A Child's Mind"、"Huron River Drive"そして"Soaring"といったトラックでの低域とスネアの組み合わせはJ Dillaのプログラミングを彷彿とさせる。Shigetoはビートが自由に呼吸できる空間を用意し、飽く暇も与えさせぬ間もなくビートを変化させていくのだ。 たしかに装飾がふんだんに施されたビートではあるのだが、決して複雑ではない。"Soaring"では渦を巻くようなハープのサンプルと夢見心地のシンセで彩られ、"Ann Arbor Part 3 & 4"での和音のレイヤーはPrefuse73に専念する以前、Savath & Savalasを手掛けていた頃のScott Herrenを思わせる。しかし、これらのアルバム冒頭のトラックはある意味ではまだ手の内を隠しているとも言える。というのも、アルバムが後半に向かっていくに従ってShigetoはShlohmoやTeebsとの比較が意味を成さないほどの可能性を披露し始めるからだ。 "Field Trip"ではいよいよエレクトロニックな質感がむき出しになり、その親しみやすいメロディが演出する浮遊感と速めのビートがうまく組み合わされている。4/4ビートを取り入れた"Please Stay"での気怠い低気圧ハウスはFloating PointsやTheo Parrishを好むDJたちの耳を惹き付けることだろう。とはいえ、このアルバム『Lineage』で最も驚くべき点は、おそらくそのアレンジメントになるだろう。楽曲の構造と言う点に関して、Shigetoが天性の才能を持っていることがこのアルバムから分かるはずだ。TeebsやShlohmoの音楽がいつのまにかフワリと通り過ぎていくものだとすれば、Shigetoの音楽、そしてこの『Lineage』はしっかりと大地に根を張ってあなたの耳に残り続けるものなのだ。
RA