Drexciya - Journey of the Deep Sea Dweller I

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  • Drexciyaほど神秘性をかき立てるアクトはほんとうに稀だ。1992年に最初のレコード「Deep Sea Dweller」をリリースして以来、Gerald DonaldとJames Stinsonはひたすらに水(水中)にまつわるテーマを熱心に追い求めてきた。そのテーマは年月を経るごとに、より緻密に磨き込まれて行き、結果このデュオは「アメリカへ向かうアフリカからの奴隷船の途上で落とされた妊婦の直接の子孫であり、海底世界に住みながら高度なテクノロジーを獲得した人種」として紹介されるようになった。不幸にも、2002年9月にStinsonが心臓合併症のためにこの世を去り、このプロジェクトは即時凍結された。数々の名作を始め、まだ日の目を見ない未発表曲を多数抱えたまま。 Stinsonは亡くなるちょうど3ヶ月前にデトロイトの101.9FMのインタビューに応えている。当時すでに長期にわたる闘病生活を続けていた彼は、そこで以下のような言葉を残している。「たとえ俺が来週死を迎えるとしても、俺が作った沢山の音楽は残るのさ。未発表のストックも沢山あるんだ」と。残念ながら、この『Journey of the Deep Sea Dweller I 』はその神秘的アーカイブのうちほんの一部分にしか過ぎない。しかしながら当然、Drexciyaが遺した液体的な音楽の数々が素晴らしいリマスタリングを経て現代の新世代のリスナーたちの耳に届く機会を得たことは素晴らしい事実だ。この作品では92年から97年ごろにかけての彼らのキャリア前半の作品がまとめられており、このデュオを知るにはこれ以上ない内容となっている。 第一弾となる今作で驚くべき点はその幅広い音楽的多様性だ。今回のリリースにあたり、Cloneはオリジナル・リリース群が持つカルト的なステイタスに追随するかわりに、あえて新たな別のステイタスを盛り込んだ。結果、我々はDrexciyaが持つサウンドの様々な面を知ることが出来るのだ。"Wavejumper"や"Lardossen Funk"といったトラックは彼らの並外れたファンキー・グルーヴの好例であるが、このアルバムでは同時に"Beyond the Abyss"や"Aquarazorda"といった彼らのダーク・サイドを窺わせるトラックも収録している。そのうえ、"Seaquake"のようなトラックを聴けば、初期における彼らがどれほどアグレッシブであったかがたちどころに理解出来るのだ。"Seaquake"では雷鳴のような909パーカッションと強烈な303が組み合わされ、当時のHardfloorでさえこれほど過激なアシッド・トラックを作り得たかと思わせるほどだ。また、このアルバムではDrexciyaの楽曲性の高さにも目ざとく注視している。"Welcome to Drexciya"や"Dehydration"といったトラックはまさにそうした高い楽曲性を象徴しており、アルバムに見事な整合性を与えている。彼らのキャリアに対するリスペクトがにじみ出たこの作品には、"Rubick's Cube"や"Take Your Mind"といった古いトラックもしっかり収録されている。彼らの才能、そして一貫性を提示した見事なパッケージとなっていると同時に、彼らほどの幅広い作品を残したアーティストも稀有な存在だという強い印象が残る。彼らの神秘性はこれからも保たれ続けることだろう。
RA