Merveille & Crosson - DRM

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  • 個人的な印象や感情は抜きにしても、Visionquestからこれまでリリースされているものに対してケチをつけるのは難しい。A&Rという点に関しては、彼らはレーベルとしてすべての面において最良の方法をとってきているし、Laura JonesやTale Of Usといった新人からDinkyやMirko Lokoといった名の知れた人気者たちがレーベル・ロースターにおいてうまくミックスされているのも好印象だ。Visionquestからリリースされる作品にはどこか共通している色彩や奇妙さと言うべき感覚があって、それをSeth Troxlerに言わせると「アンダーグラウンド・ポップ」という表現になるのだろう。ここに届けられたCesar Merveille(Cadenza)とRyan Crosson(Visionquestの設立者のひとり)による3トラック入りのコラボEPも、これまたとんでもない変化球だ。 EP中もっともクラブ受けしそうな"DRM"はそのクリスピーで柔軟なグルーヴを長尺で展開し、ヴィブラフォンのメロディが絡んでくるあたりはMerveilleとGutiが手掛けた"Mayaancholy"にも近い造りだ。ゴム鞠のように跳ねるクラップ、のっぺりとしたベースが長尺な4/4キックの隙間を埋め、オフビートのアクセントと丸っこい質感で彩られるあたりはいわゆるVillalobos的グルーヴといったところか。しかし、このEPにおける本当のハイライトと言うべきトラックが次の"Orca"だ。ベルやチャイムの音色にまみれ、Four Tetもさながらの激しいタンバリンが入ったこのトラックはとにかく異例だ。メインとなるループはSteve Reichの"Music for Mallet Instruments, Voices and Organ"にも近いようなサウンドの質感で、実際にそこからサンプリングしたのかもしれないが、多層的なパーカッションのレイヤーや対位法的なカウンターメロディが編み込まれているので、ありがちな硬直化したループにはまったく聴こえない。 EPを締めくくる"The Day You Left"はここ最近のDinkyにも近い、4分間のミニチュア的世界を展開するトラックだ。パッドがふわりと浮かび、ヴォイスやアコースティック・ギターの音色が水彩絵具のように溶け合い、その外側はシェイカーやハンドクラップが織りなすざらついた輪郭で覆われている。短いながらも非常に魅力的なこのトラックは、Visionquest流のポップとダンスミュージックの融合を提示しているのかもしれない。
RA