Dip In The Pool - On Retinae

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  • 空前の活況に沸いていたころの日本で制作された音楽に対するアンダーグラウンドな人気が最高潮に達している。個人的な話になるが、Yellow Magic Orchestra周辺以外のアーティストもチェックするようになったのは、Spencer Doranによる2010年のミックス『Fairlights, Mallets And Bamboo』を聞いたときだ。昨年再発されたMariahの傑作『Utakata No Hibi』にも手を伸ばした。そして今回はMusic From Memoryが再発したDip In The Poolの作品である。Dip In The Poolは第四世界のサウンドに広がる詩的な空間を繊細なUKドリームポップに組み合わせたグループだ。 今回収録された"On Retinae"の2バージョンは、1989年の同名の傑作アルバムに収録されていたものだ。実はこのリリースの元になっているのは香港で50枚だけ作られたプロモ用12インチである。バンド自身ですら存在していることを最近まで知らずにいたプロモ盤をじめじめした地下から掘り出してきたMusic From Memoryの担当者は相当な変わり者に違いない。しかしその音楽はレアもの好きたちのそうした苦労を補ってあまりあるものだ。 「On Retinae」が誕生したのは、Haruomi Hosonoの『Philharmony』、Yasuaki Shimizuの『Kakashi』や『Utakata No Hibi』といった記念碑的アルバムの発表から5年が経ったときだった。MariahをプロデュースしたShimizuが今回のトラックでクラリネットを演奏しているが、80年代初期の日本のサウンドを定義づけたエッジの効いたポップスはこのとき既に均一化されており、Pale Saintsなど同時期のイギリスにおけるキザなクールさが好まれるようになっていた。それは最もロマンティックで風格を感じさせるポップスだ。まばらながらも華やかなアレンジは、グロッケンシュピールを多用したBrian Wilsonの『Pet Sounds』をアップデートしたような響きだ。ボーカルの(そして女優でもある)Miyako Kodaがパーティー会場を去る場面についてそっと甘くささやくように歌い上げる。Fatima Yamahaの"What's A Girl To Do"に代わって一夜を締めくくる最高のラストトラックとしてMusic From Memoryは本作を提案している。本作はYamahaと同様の憧憬を抱かせるが、個人的にはホームリスニングに向いていると思う。それは昔の音楽を極めて新鮮に感じさせるサウンドだ。
  • Tracklist
      A On Retinae (West Version) B On Retinae (East Version)
RA