- 遡ること2008年、LawrenceことPeter KerstenはRAに対し、彼を含むDialの設立者たちは「普通のハウスレーベルはいらなかった」と語っている(英語サイト)。これは先日の特集記事、Label Of The Monthでも触れられていたことで、Carsten Jostとして知られるDavid Lieskeは「今も昔も(Dialは)ハウスレーベルではない」と何度も強調していた。Dialがハウスレーベルではないことは、同レーベルのファンにとってさえ驚きであるのだが、もしかするとこのことは、Dial作品に注ぎ込まれている多量で多角的な影響(ミニマリズムから80年代のインディロックまで)が『All』で曝け出しされている理由の説明となるかもしれない。Dialはアートを取り入れたり、定期的にエクスペリメンタルな作品を発表したりしているレーベルなのだが、そうした一面はご存じの通り、繊細なディープハウス作品の影に隠れているのだ。
そうしたひとつの型に縛られない主義は称賛に値するとしても、15周年を記念した今回のコンピレーションではクオリティにバラつきを生み出す結果になってしまっている。高品位のエモーショナルなハウスを求めて『All』を聞けば、確かにそうした音楽を見つけることはできる。しかし、それと同時に多くの変化球トラックも収録されており、James Kによるシューゲイズ・エレクトロニカ"S Lush"といった傑作から、Stefan Tcherepninのローファイ・バラード"I Want To Be Art"といった駄作まで様々だ。"I Want To Be Art"におけるYuri Manabeのボーカルはナイーヴさや脆弱性は少なく、挑戦的なまでに音程を無視している。それ以外にも、Dawn Mokの"Like Thoughts Or Moments We'll Fall"ではR&Bが、Pawelの"All Nearness Pauses"ではフォークトロニカが、そして、Queensの"Earth Angel"ではリバーブに浸したギタードローンがそれぞれ提示されている。
そうしたトラックのいくつかは確かに面白いが、それでもやはりDialが最も存在感を発揮するのは、Carsten Jostの"my Confession"やRoman Flügelの"In Your Wardrobe"のようなジャズを感じさせる物憂げなハウスを届けてくれる時だ。Lawrenceの"Chez Dupoint"は、Dialの典型とも言える突き刺すような悲しみが滲むトラックだ。先日、Bell Laboratoryと共に厳格な作品を発表したPantha Du Princeだが、"Timeout On The Rocks"では、森のように濃密でいながら、異世界のように無重力なトラックを提示し、いつもの音楽性に完全に復帰している。しかし、そうしたトラックもJohn Robertsの"Paloma"が放つ輝きを前に霞んでしまう。『Fences』(英語サイト)でも使われていた濁ったサウンドとヒスノイズのレイヤーや東アジア的サウンドが満載のこのトラックは、メランコリーでありつつも溌剌としていて、Dialを前へと突き動かすふたつの相反する衝動を適確に捉えている。その衝動とは、良好な美を求めて努力する思いとそれに対する深い不信感である。
Tracklist01. Christian Naujoks - For A While
02. Stefan Tcherepnin - I Want To Be Art
03. Roman Flügel - In Your Wardrobe
04. RNDM - Summer Smile
05. Carsten Jost - My Confession
06. Lawrence - Chez Dupont
07. John Roberts - Paloma
08. Pawel - All Nearness Pauses
09. Efdemin - No Exit
10. DJ Richard - Zero
11. Physical Therapy - Market Crash
12. Pantha Du Prince - Timeout On The Rocks
13. Queens - Earth Angel
14. James K - S Lush
15. Dawn Mok - Like Thoughts Or Moments We'll Fall