- アムステルダムのレーベルであるMusic From Memoryの名前はニューヨークのアーティスト、Vito Ricciのアルバム名に由来しているが、このことからレーベルがいかに彼を高く評価しているのかが分かる。回顧作をリリースするにあたってRicciは打ってつけだ。80年代中期のダウンタウンシーンでパーカッショニストとして活動していた彼は、エクスペリメンタルジャズ、スポークンワード、映画音楽にも興味を示した他、CBGBsやMudd Clubでパンクバンドとして出演するなどしていたが、その存在が注目を集めることはなかった。1983年から1985年までの間に、Ricciはカセット数本と1枚のアルバムを自主リリースしている。彼の音楽のほとんどはエクスペリメンタルシアターやパフォーマンスアートのために書かれておりメジャー受けするようなものではなかったが、どういうわけかMusic From Memoryのメンバーと巡り会うことになった。そして今回、既発曲と未発表音源を組み合わせたコンピレーション『I Was Crossing A Bridge』が届けられた。
本作に収められた1枚目の12インチはきれいに整ったリバーブと暖かくきらめくシンセを多用したスタジオセッティングで作成されたようなサウンドだ。"The Ship Was Sailing"には探求的で不思議な感覚がある。まるでRicciが心地よいサウンドが見つかるまでマシンを慎重にいじりながら制作しているかのようだ。その感覚は最近のシンセものの再発盤とは異なっている。例えば"Hollywood"や"Dub It"は2014年にInto The Lightから発表されたVangelis Katsoulisのコレクションアルバム（英語サイト）にも違和感無く収まるだろう。ちなみにInto The LightはIlias PitsiosとMusic From MemoryのTako Reyengaによって運営されているレーベルだ。
しかし『I Was Crossing A Bridge』には他にも異なる一面がある。Aサイドの最後に収められた"Riverflow (Electronic)"は小さなディテールを多く含んだ柔らかなアコースティック作品だが、Ricciがミニマルなシンセ作品以外にも多くの面を持っていることを示している。ハッとさせられるのはBサイドだ。その中心的作品のひとつ"I'm At That Party Right Now"はぬかるむダビーなブーギーチューンとなっており、ボーカルがゆっくりとそれほど感情を付けずにトラックのタイトルを歌い上げている（私が最初にこのトラックを耳にしたのは、「Workshop 21」をちょうど聞き終えた時で、30年前の作品にも関わらずそのムードの相互性にとても驚いた）。Bサイドのもうひとつの名曲は"Cross Court"だ。ハウスのプロトタイプとでも言える奇妙さを『My Life In The Bush Of Ghosts』のスタイルで表現したファンキーな作品だ。
2枚目の12インチの収録曲はほぼビートレス作品だ。まずは優しく進行していく壮大な12分間のトラック"Deep Felt Music"からスタートする。組曲"Inferno"はその希薄な特性のため、もともと演劇にあてられたサウンドトラックだったとは思いもつかないだろう。CサイドとDサイドはトラックごとに明言するのは難しいが全体的に感情豊かな瞬間と無感情な実験性の間を漂っている。Music From Memoryは現在6つのタイトルを発表している。彼らが先見性のある無名アーティストをどれだけ抱えているのかは分からないが、『I Was Crossing A Bridge』よりも適確にレーベルの目的を表したパッケージはなかなか無いのではないか。
Tracklist01. The Ship Was Sailing
02. Hollywood
03. Music In Fourths
04. Dub It
05. Riverflow (Electronic )
06. Bachelor
07. Commie Stories (Part 5)
08. I'm At That Party Right Now
09. Cross Court
10. Getting There
11. Commie Stories
12. Centre Of The Bridge
13. Deep Felt Music
14. Inferno Part 1
15. Inferno (Part 3)
16. Dox E Koo (Solo Voice)
17. Inferno Part 2
18. The Bride