Native Instruments - Komplete Kontrol S-Series

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  • Native Instruments Kompleteほどのビッグパッケージは、簡単にユーザーを混乱させてしまう。KompleteはNative Instruments(NI)の音楽制作用ソフトコレクションのフラッグシップシリーズだが、その最新版Komplete 10には実に39の製品、12000のユニークなサウンドが詰まっており、実際に音楽制作でこれらすべてを使おうとなると怖じ気づいてしまう。多くの人にとってその解決策となっていたのが、今は廃版となっているハードウェア付属のソフトシンセ+エフェクトKoreだった。これはKompleteシリーズのライブラリのブラウズが可能で、筆者を含めた多くのプロデューサーにとって重要な製品だったのだが、理由が明確にされないまま、2011年に製造中止が発表されていた。 よって、今年9月にNIが、Kompleteのインストゥルメンツを専用ソフトKomplete Kontrolと共にブラウズ/演奏/コントロールが行えるMIDIコントローラーKontrol Sシリーズを発表したのは驚きだった。 Komplete Kontrolは完全に新しい製品で、Koreのライブラリやハードウェアとの互換性も内蔵されていないが、多くの人がKoreとこの製品を比較することになった。そこで筆者も今回NIが打ち出した新たなヴィジョンを深く掘り下げ、理解してみることにした。 Kontrol Sは鍵盤数の違いでS25、S49、S61の3種類が用意されている。鍵盤はFatar製のアフタータッチ付きセミウェイトで、初めて触った瞬間から、非常に優れた鍵盤であることが理解できた。特に反応性とベロシティの精度は筆者が今まで試したMIDIコントローラーの中で最も優れていると言って良いだろう。鍵盤の左側にはLEDが端に埋められたタッチストリップが2本配置されている。ここは通常のMIDIコントローラーならばピッチベンドとモジュレーションホイールが配置されている位置で、Kontrol Sでもデフォルトではピッチベンドとモジュレーションホイールの機能がアサインされているが、このタッチストリップの伸縮性と重力を利用したカスタマイズを行えば、ライブパフォーマンスにパワーを加えることができるだろう。 Kontrol Sシリーズの機能の中で、ある意味見た目と違うと言えるのが、各鍵盤の上で光るマルチカラーのライト「Light Guide」だ。これは大量のサウンドをキーボード上に並べるBatteryのようなインストゥルメンツや、スプリット機能を使って複数のインストゥルメンツを使用するKontakt用インストゥルメンツなどのガイド役として便利な機能だ。またLight GuideはReactor、Kontakt、MIDIテンプレートのコントローラーエディター内で自由にカスタマイズすることも可能だ。そしてDAWからKomplete Kontrol側へ打ち込んだノートをプレイバックすると、Light Guideがそのノートを表示するという機能は、Light Guideの最も便利な機能のように思えた。直前に録音したMIDIノートを確認するのに非常に有用と言えるだろう。 キーボードの上部パネルには(左から右へ)パフォーマンス/トランスポートセクション、デバイスコントロールセクション、ブラウズセクションが設けられている。すぐに目に留まるのが、中央のデバイスコントロールセクションだろう。ここには8個のタッチセンサー式のノブが備わっており、各ノブ下部には美しいOLED(有機LED)のディスプレイが用意されている。このディスプレイの解像度はもう少し高くても良かったように思えるが、それでもKontrol SのディスプレイはKoreのそれと比較すると大幅な進化を遂げていると言える。また、KompleteのインストゥルメントをKomplete Kontrol内にロードすると、各ノブはユーザー側の設定作業なしに、自動でマッピングされる。マイナス点は、このような自動マッピング機能を無効にできないという点で、これは近い将来可能になることに期待したい。パフォーマンス面から考えれば、パラメーターのページを行ったり来たりするよりは、自分の好みにパラメーターを並べられるようになった方が便利だろう。 デバイスコントロールノブの左側にあるパフォーマンスセクションは、恐らくKontrol Sの中で一番見た目と異なる機能だ。もちろん良い意味で言っているのだが、控えめなルックスのボタン群の中にはパワフルな機能が隠されており、Komplete Kontrolでのスケールやアルペジエーターの起動/コントロールが行える。例えば、スケールにはスケール上に位置するノートのみを演奏できるようになるモードなどが含まれている。また、指1本でコードを鳴らす設定も可能なので、ピアノのチョップフレーズなどを使用するプロデューサーには便利だろう。アルペジエーターは更にパワフルで、8個のパラメーターを組み合わせたダイナミックで感情的なアルペジエートが可能だ。特に筆者が気に入ったのは、シーケンス内のアルペジエートされたノートのベロシティを記憶する機能で、ベロシティのばらつきを調整して人間的なタッチを加えることさえも可能だ。 パフォーマンスセクションが見た目と違うと思う理由はもうひとつある。それはこのレビューの執筆時点では、スケールとアルペジエーターのエンジンがKomplete Kontrol内のインストゥルメンツのコントロール時だけしか使用できないという点だ。Kontrol Sを通常のMIDIキーボードとして使用すると、このボタンのライトが消えてしまう。これは近々解消されるはずで、早ければNIがMaschineのバージョン2.2のアップデートで組み込むとしている、Kontrol SとMaschineとの統合と同時に行われるだろう。こうなれば、例えば複数のデバイス(サードパーティー製も含む)のプリセットのセーブなど、Koreの機能がいくつか戻っても不思議ではない。また、アルペジエーターとスケールを使用してMaschineからMIDIアウトできるようになることにも期待したい。 Kontrol Sシリーズは他のMIDIコントローラーと比べると高額に感じられるが、Maschineとグルーヴボックスを比較するのがナンセンスなように、比較してもあまり意味が無い。何故なら、これはNIが誇るKomplete専用の触知的インターフェースとして開発された製品だからだ。Kontrol SシリーズはKomplete 9または10のユーザーにとって、あの大量のコンテンツを扱うために必要不可欠な機材と言えるだろう。サウンドが製品名、インストゥルメンツのタイプ、モード(ドライ/イヴォルブ系など)別に検索できるため、すぐに狙ったサウンドが見つけられる。また、検索が簡単になったことでこれまで以上に深く潜れるため、予期せずに新しいサウンドに出会う可能性もあるだろう。そして、最適なサウンドを見つけた後も、Kontrol SはKompleteの各インストゥルメンツにおいて実に素晴らしい操作性を提供してくれる。 Ratings: Cost: 3.5/5 Build: 5/5 Versatility: 4/5 Ease of use: 5/5
RA