Dean Blunt - Black Metal

  • Share
  • Dean Bluntはかなりのポーカーフェースを貫いている。何年もキャリアを重ねている彼だが、多くの人は彼の実態をいまだに掴めないままだ。痛ましいほどに実直な失恋を題材にした『 The Redeemer』(英語サイト)でさえ難解に感じる作品であり、まるでリスナーと一定の距離を保とうとしているかのようだった。Bluntのサンプリング・スタイルもその要因の1つだ。サンプリングによって他から借りてきた要素と自分で作った要素の間には境界は一切存在しておらず、彼の音楽が持つ夢見心地な感覚が1つのスタイル、もしくは、1つ時代だけにフィットするものではないことを意味している。『Black Metal』(音楽ジャンルではなく金属素材を指している)はこの点において異なっているが、より楽観的な作品であり、よりプライベートで深い場所に存在するものへと我々を誘っている。 『The Redeemer』は張りつめた緊張感と自分を守ろうとしている感覚が漂う場面が多かったが、『Black Metal』は感情の幅が非常に広い。Bluntのバリトン・ボイスはかつてないほど表現性を増しており、嘲るような雰囲気と無関心さに溢れ、悲しみに震えている。"Lush"での「stay out of it / 離れていろ」と命令するゴツゴツとした声はシリアスであり、"Heavy"での彼はバラバラになってしまわないように食い止めているかのようだ。"Punk"や"50 Cent"は共に辛辣なダブ・トラックとなっており、後者は特にとげとげしく犯罪と警察をテーマに切り出しており、その中でJoanne Robertsonが悲痛な声をあげ嘆いている。彼女は『Black Metal』で主要な役割を担っており、"100"でサンプリングされている晴れ晴れとしたPastelsのネタにギターをゆっくりと注ぎ込んでいる他、悲しみが心に残る"Molly & Aquafina"ではBluntと共にソファに沈み込んでいる。"Molly & Aquafine"では展開ごとに楽曲が紐解かれていき、ゆったりとしたデュエットで「I ain't worried 'bout nothing / 何も心配しちゃいねえさ」と歌われている。これを境に本作は眩暈のするような中盤へと突入していく。 足を引きずるような2つの壮大なトラックを通じてDean Bluntは『Black Metal』が持つ勢いを変化させている。本作の中盤における殺伐とした場面を演出する13分間のトラック"Forever"は、カタカタと音を立てるドラム、無調のボーカル、そしてホーン・セクションによる敗北感漂うトラックだ。そこへ怒りに満ちた短編トラック"X"が続き、Bluntが自身のラインを吐き出し吠えている中、空調機が強烈に吹き付けるかのようにシンセが打ち付けてくる。こうした苦々しいムードが残りの『Black Metal』を覆い尽くしている。痛々しく、そして激しく流れ込んでくるテクノ・トラック"Country"(BluntがMacBookのボリュームを下げている音が聞こえ、第四の壁を破っていると言えるかもしれない)や、ぶっきらぼうなラップが展開する"Hush"が収録されている。そして"Grade"ではいよいよ正念場を迎え、ポストパンクなシンセと泣き声をあげるサックスによる沈痛な雰囲気を持ったこれまでで最も強烈なBlunt作品の1つとなっている。 "Grade"がフェードアウトしていくに従い、フィルターにほぼ通されることなく表現される感情をフル・スペクトラムで体験しているかのように感じるだろう。Bluntは自身の不可解で故意に干渉的な奇行から「プランクスター(いたずら者)」と呼ばれることが多いが、『Black Metal』では非常に親密な感覚をもたらすことで見事に我々を出し抜いている。もちろん本作にはエキセントリックな場面もあり、この作品を本当に理解するには相当の時間がかかるだろう。しかし『The Redeemer』が示唆していたように、そして『Black Metal』が証明しているように、YouTubeのサンプリングや奇妙なプレス展開、そしてロシアのブログで行った1回きりのプロモーション(英語サイト)といった行為に隠れてはいるが、Bluntは変わったサウンドに対する鋭い聴覚を持った才能あるシンガーソングライターだ。『Black Metal』に先駆け掲載されたThe Wireにて分かりやすいインタビューが全てを物語っている。インタビューで彼は公園のベンチに座る素朴で実直な普通の人として描かれていた。頑として譲らないという意味で『Black Metal』もまた同様にDean Bluntをダイレクトに反映した作品なのだ。
  • Tracklist
      01. Lush 02. 50 Cent 03. Blow 04. 100 05. Heavy 06. Molly & Aquafina 07. Forever 08. X 09. Punk 10. Country 11. Hush 12. Mersh 13. Grade
RA