Lee Gamble - KOCH

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  • ここのところ、よく眠れていない。そして『KOCH』は、その助けにはなってくれていない。横になってこのアルバムを聞くと、奇妙でプライベートな世界を創り上げた本作には、確信に似た感覚が漂っていることに気付く。しかし、同時に焦燥感も感じられる。暗闇の中、小刻みに揺れながら幻覚作用を引き起こすサウンドの探求の中、そして完全に意識の中で繰り広げられる雄大な冒険の中、本作の全ての場所には落ち着き無く痙攣しているような印象がある。"Nueme"のようなトラックを例に挙げるならば、今にも固まっていきそうな、しかし決して固まることのないビートの周りを、コードが揺らめきながら、ひきつけのような動きを見せている。こうしたアレンジがインパクトの瞬間を一層、壮大に仕立て上げている。"Jove Layup"は特にそうだ。こうしたトラックは物質がぶつかり合ったときのような、真の重みを持っている。他のトラックに拡散するエネルギーを濃縮したかのようであり、ギアをチェンジしているのではなく、明度の濃淡に近い。 一瞬一瞬におけるテクスチャーを感じることに比べたら、トラック単体の展開、もしくはアルバム全体を通じての展開は、さほど重要ではない。常に鳴り続けるテープ・ヒス、"Head Model"や"Flatland"のようなトラックでの低域の唸り、"Frame Drag"での肥溜めのようなアンビエンス。こうしたサウンドは、幾分ゆったりとした印象を与えている。本作には常に闇の先に何かが隠れている。少し奥深くに進んでみれば、鮮明に見えてくるかもしれない。最も好例なのは"Yehudi Lights Over Tottenham"だろう。ノイズとヒス、不協に響くサウンド、遠方から聞こえるピアノ、そして潜在意識で鳴っているかのようなキックで満たされたトラックだ。暖かな印象とは対照的に高密度なこの7分間のトラックは、居心地の悪い場所とは対極に位置している。同様のことが、残りのトラックにも言える。序盤では、謎に満ちた、もしくは、疎外感さえ与えていた印象が、終盤にかけて、馴染みがあり、歓迎しているような印象に変わっていく。 "Voxel City Spirals"のようなトラックは、Gambleが素材に自分の鼻を押し当てるほど接近して、細かな部分に集中しながら作業しているような光景を思い起こさせる。しかし、そうした細かな作業に彼が翻弄されることはなく、むしろ大きな光景を思い描くことを恐れていないのが新鮮だ。これまでのGambleの音楽は、思考によって、思考のために作られたかのような印象だった。まるで彼の思考過程が、作品そのものに傷跡を残し、無視できないほどハッキリとした特徴的な要因となっていたかのようだった。過去2作のアルバム『Diversions 1994-1996』と『Dutch Tvashar Plumes』は、素晴らしい感覚と偉才ぶりを携えていたが、『KOCH』はさらに異なる要素を持っている。つまりそれは、萌芽していく物質性、直感性、身体と意識の強力な融合だ。Mark Rothkoがスタジオでキャンバスを引き伸ばし「均衡の中に全ての事象が引きとめる特定のバランス」を探していたことについて、Morton Feldmanはかつて記していた。『KOCH』によってGambleは、全てが収まる的確なサイズのキャンバスを見つけ出した。同時にそこでは、全体的な美が保たれているのだ。
  • Tracklist
      01. Untitled Reversion 02. Motor System 03. You Concrete 04. Nueme 05. Oneiric Contur 06. Head Model 07. HMix 08. Frame Drag 09. Voxel City Spirals 10. Yehudi Lights Over Tottenham 11. Jove Layup 12. Ornith-Mimik 13. Caudata 14. Flatland 15. Gillsman 16. 6EQUJ5-7
RA