Sennheiser - HD8

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  • 元々SennheiserはクラシックなDJヘッドフォンを作るつもりはなかったが、大音量と頑丈さを誇るHD 25はこのヘッドフォンを愛する(痛めつける)数え切れない程多くのDJたちにとって完ぺきに近い存在となり、結果的にクラシックとなった。今年始め、マイクとヘッドフォンで有名なドイツが誇る機材メーカーSennheiserは、新たなヘッドフォンシリーズ、HD6、HD7、HD8を発表した。これらは「DJとプロデューサーも使用可能」という立ち位置ではなく、彼らのニーズに具体的に対応するために開発された製品であり、まるで、「あなたたちを意識せずに作った製品の実力はお分かりになったと思います。その私たちがあえて意識して作ったら何ができるのかを想像してみてください」というメッセージを発しているようだった。 しかし、元々何の問題もないに等しかったHD 25の改良は簡単ではない。HD 25は軽量かつコンパクトだが高いクオリティを誇り、パッドやハウジングの破損やケーブルの切断など、どこかが壊れても、部品交換で簡単に修理可能だ。また小さいながら大音量にも耐えられる(第一、音の分離が良いのでそこまで音量を上げる必要もない)。そしてHD 25のアドバンテージをどんなに細かく調べてみたところで、現時点でこのヘッドフォンの感触とサウンドは世間に認知されており、多くのDJたちがこの200ドルのプロ用機材に注げるだけの愛情を注いでいるという抽象的な事実はなくならない。実際、ベルリン在住のテクノDJに筆者が今回のテスト用に受け取ったHD8を見せると、彼はシャツをめくって、体に彫られたHD 25のタトゥーを見せたが、私はなぜか彼のその愛情にショックを受けなかった。このようなHD 25がある中で、SennheiserはHD8をその内容を問わず、ヘッドフォンのフラッグシップモデルと位置づけて進んでいくようだ。 箱を開け、中に収まっているハードケースから取り出した重く頑丈なHD8は確かに新たな船出のように感じられた。スタンダードなHD 25が黒いプラスティック製であるのに対し、HD8は表面にハイエンドな素材を使っている。楕円形のハウジング部の周囲は金属製で、ヘッドバンドには頑丈なプラスティックが用いられている(尚、HD 25でほとんど使うDJがいなかった、ヘッドバンドがふたつに割れる機能は取り除かれている)。またHD 25はケーブルの接続部がむき出しになっており、これで大丈夫かと不安に感じる程だが、HD8のケーブルはボディ内に収納されている。尚、ケーブル自体は取り外し可能で、左右のどちらのハウジングにも差し込める他、カールコードとストレートコードの2種類が同梱されている。HD 25のケーブルは平たく脆弱で絡まりやすく、長さも足りなかったが、HD8のケーブルは円形でしっかりとしており、どのブースでもヘッドファンを外すことなく動き回れる長さになっている。ケーブルについては改良されていると確かに感じることができた。 HD 25を元にアレンジされたデザイン面の変更のひとつが、回転するハウジング部だ。HD8では左右共に回転するようになっており、左右のどちらを使っても片耳のモニタリングが可能になっている。しかし、回転は3段階に固定されているので(HD 25ではほぼ180度自由に回転する)、動作はぎこちない。ウェブサイト上では両耳でリスニングする際のベストポジションは一番前のポジション(フロント)だと言っているが、筆者にとっては中央のポジション(センター)がベストだと感じられた。しかし、いざ装着するとハウジングが微妙にずれ、耳が後方へ引っ張られてしまうため、ブース以外でのリスニングには向いていないように感じられた。尚、ミックスに関しては、センターポジションでも気にせずビートマッチを行え、そのまま片方のハウジングを一番後方のポジション(リア)にずらしても問題はなかった。しかし、ミックスの途中で修正しようとすると、簡単にもう片方のハウジングの位置がずれてしまい、片方のハウジングがフロントポジションにずれてしまう時もあった(尚、フロントポジションは首にかけて肩を使うモニタリングに最適だと思えた)。こうなってしまうと、ヘッドフォンを一度外して、ハウジングのポジションを調整しない限り、上手く耳の上に乗せることはできなかった。この調整は練習を重ねるごとに上手くできるようになったが、3段階しかポジションが用意されていないという点は魅力に欠け、 基本的に制限されているように感じた。 よって、HD8を使ったDJプレイに対する筆者の感想は不快で残念というものだったが、1週間か2週間もすると、重くて堅苦しいという印象は、頑丈で快適というものに変わっていった。ヘッドフォンを使って行うトリック、たとえば片方のハウジングを肩で持ち上げて、ミックスを素早くチェックしたりするのは時間と共に慣れていった。しかし、筆者がどうしても慣れることができなかったのは、そのサウンドだ。前述した通り、このヘッドフォンはDJ用として開発された製品で、ホームリスニング用ではないため、正確で聴きやすいサウンドは必要ではない(HD 25の強烈な低音と、その他の帯域の温かみのなさもホームリスニング向きではない)。しかし、この点を考慮しても、HD8のサウンドは鼻にかかった不鮮明でうつろなサウンドに聴こえた。低域はクリアだが、筆者が求めていたほど正確ではなく、中低域も耳にうるさく感じた。音像も残念で、HD 25や筆者がオフィスでのリスニング用に使っているAudio Technica ATH-M50のようなまとまりのあるステレオ感はなかった。しかし、私はヴォリュームをそこまで大きくしていなかったため、これはおそらくDJミキサーに最適化されたインピーダンスと優れた分離感の組み合わせによって生じたのだろう。 HD8には良い点と悪い点があるが、悪い点を差し引いても、存在する価値はあると言って良いだろう。他の大型の密閉型DJ用ヘッドフォンと比べると非常にしっかりとした作りで、デザインも考えられているように思えるからだ。しかし、これよりも低価格かつ高音質で、数十年のロードテストの実績を誇るHD 25を差し置いてこの製品を薦める理由が見つからない。今回のテスト後に、信頼できるHD 25をクローゼットから引っ張り出してみると、まるで旧友のような感覚とサウンドが得られた。ブース内でB2Bをする際にHD8を使うことになっても、筆者は拒否しないだろう。しかし、この製品がナンバーワンとして定着する姿を想像するのは難しい。 Ratings: Cost: 3/5 Versatility: 3/5 Sound: 2.5/5 Build: 4/5
RA