Roland - AIRA TR-8

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  • 1970年代後半から1980年代にかけてRolandが生み出した機材の数々は、21世紀のアナログ復興において最も偶像化され、最も人気のあるヴィンテージ機材となった。しかしながら、Rolandの近年の機材はこのようなクラシックな機材との共通点が殆ど無く、Rolandが他のメーカーが目指していた当時の路線に戻る可能性は殆ど無いかのように思えていた。よって、Rolandが今年2月に過去のクラシックを元にデザインしたAIRAシリーズを新たに発表するというニュースは驚きを持って迎えられた。その新製品群の中で最も世間を賑わせたのがTR-8で、アナログではないが、オリジナルの回路に可能な限り近づけたデジタルアルゴリズムを組み込んだドラムマシンになると伝えられていた。 AIRA シリーズを通じてまず目につくのがそのデザインだ。TR-8はオリジナルの909や808との相関性が明確なレイアウトでありながらも、新生Rolandをアピールするデザインとなっており、鮮やかなグリーンのアウトラインや、ネオンのように輝くLEDに至るまで、ありとあらゆる部分で他の機材のデザインとは一線を画している。そのルックスに目が慣れれば、パネルレイアウトは非常に分かりやすいものであることが理解できる。フロントパネル上にはTR-808と同様に11個のインストゥルメントが並べられており、各チャンネルにはヴォリュームスライダーとトーン/ディケイのノブ、そしてその下にはセレクト/ミュートボタンが配置されている。ノブはトーンとディケイの2種類しか備わっていないため、サウンド自体の変化域には限界があるが、スネアとキックに関してはトーンとディケイに加え、コンプレッサーとアタック(スネアはスナップ)が用意されている。 「16」という数字は多くの機材において鍵となる数字だが、TR-8も例外ではない。TR-8には様々なパターンが用意されているが、そのパターンを演奏するキット数は16で、各パターンのステップ数も16となっている。ただし、各パターンはA・Bという2種類のパターンが用意されているため、実際は各パターンを32ステップで組むことが可能だ。しかし、AからB、またはBからAへとパターンのコピーができないため、やや複雑な仕様と言える。この点については修正を期待したい。この点が修正されれば、TR-8の演奏性能は大きく向上するだろう。そしてそのA・Bを切り替えるボタンの上に配置されているのが、ラストステップとスケールを決めるボタンだが、この配置ではアクシデントでスケールを変えてしまい、折角のライブパフォーマンスを台無しにしてしまう可能性があるため、やや問題があると言えるだろう。 TR-8のプログラミングは直感的で非常に分かりやすい。INST PLAYまたはINST RECモードではTR-8をライブでプレイすることが可能で、TR-RECモードでは往年のTRシリーズのようなステップレコーディングが可能になる。INST PLAYモードでは、12から16までのボタン(1から11まではインストゥルメント)がスペシャルな機能を担うことになる。「12」から「15」まではロールバリエーションが振り分けられており、更にこのうち2つを同時に長押しすれば、更に多くのロールバリエーションへアクセスできるようになる。またロールをスタートさせる前にINST PLAYを長押しすれば、ロールをラッチ(固定)できるが、これは私たちがテストした限り、慣れるまでにやや練習が必要だった。最後に「16」だが、これはミュートモードを担っており、このモードではトリガーボタンまたはセレクトボタンを押す度にミュート・アンミュートを切り替えられるようになる。 TR-8はステップシーケンサーも非常にシンプルだが、実際は裏ワザが多く複雑な構成となっている。TR-RECモードでは、サウンドをセレクトするボタンはサウンドをどのタイミングで鳴らすかを決める機能を担い、各パターンを16ステップで組んでいくことになるが、サウンドの他にもディレイ、リバーブ、アクセント、そして外部入力信号へのサイドチェインエフェクトもステップシーケンスを組めるようになっている。エフェクトのステップシーケンスはやや不可解な機能に思えるが、一度試してみれば存在意義が理解できるだろう。基本的には各パターンのどのステップでエフェクトをオンにするかを決定する訳だが、ドライ/ウェットの割合や各エフェクトのパラメーターに関しては、それぞれに対応したパネル上部のノブでコントロールしていく。 サウンドに各エフェクトをアサインしていく方法はやや複雑で、まず16種類内蔵されているドラムキットを選ぶ際に使用するKITボタンを押す。そしてこのボタンを押した後、各エフェクトのSTEPボタンを押し続ければ、サウンドセレクトボタンでエフェクトのオンオフを指定できるようになる。実はここがTR-8で最も不満に感じた点だ。要するにこの機材を使いこなすには、大量のモードボタン・スイッチボタンをコントロールしなければならないのだ。今回のテストでは、常にTR-REC(サウンドとエフェクトのステップシーケンスを行う)、INST PLAY(各パートのライブレコーディングを行う)、KIT(エフェクトのアサインを切り替える)を押して、モードを行ったり来たりしなければならなかった。練習を重ねれば自然に行えるようになるが、もう少しスムースなワークフローにできたはずだ。 さて、最後にそのサウンド自体について触れておきたい。デモ機を触った・聴いたことがある人ならば、そのサウンドが素晴らしいという意見に異論はないだろう。RolandのDSPエンジニアは808と909のサウンドを見事に再現しており、往年のヴィンテージ機材の個性と動作を見事に本機に組み込んでいる。中には当時の新品のTR-808と同じサウンドだと評価している人もいる。尚、筆者が感じたサウンド面での唯一の不満はハットで、 クローズドハットがオープンハットをキャンセルしてしまう点が不満に感じた。これはTR-909とは逆の動作となっている。 もしRolandがファームウェアアップデートでこのような問題点を修正しないのならば、驚かざるを得ないだろう。しかし、たとえ修正しないとしても、TR-808/TR-909の現代版として、TR-8は間違いなく金額に見合った良い買い物と言えるだろう。TR-8よりも高額な同系の機材に比べると機能数は少なく、また膨大なモード数とオートメーションの欠如により、サウンドを変化させるには練習が必要になるが、その不便さがある意味「再現性」をより高めているとさえ言える。 Ratings: Cost: 5/5 Versatility: 4/5 Sound: 5/5 Ease of use: 3.5/5
RA