Korg - MS-20 Mini

  • Published
    Oct 3, 2013
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  • Released
    March 2013
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  • 今年初めにNAMMで発表されたミニチュアサイズのMS-20は大きな議論に発展し、たとえばGearslutzのスレッドの長さは115ページにも及び、オリジナルのMS-20のモノシンセとしての素晴らしさを語る意見がその多くを占めた。しかし、多くの人々の興味は「オリジナルに忠実か?」という1点に集約した。 MS-20 Miniはスペック面ではわずかな変更しか行われていない。まずMiniと題されている通り、オリジナルをそのまま14%小さくしただけだ。尚、この変更によってキーボードが弾きにくいと感じるかもしれない(尚、ピアニストである筆者は問題なく演奏することができた)。またMIDI/USB機能についてもモダンではないベーシックな機能に留まっており、ノート情報(ベロシティは含まれていない)のみが送信可能となっている。マニュアルに「MS-20 Miniの回路はオリジナルのMS-20をほぼ完全に再現しています」と書かれている通り、VCOとVCFは当時のレプリカとなっているが、VCAについては基本構造の変化はないがS/N比が向上しているため、「サウンド自体も忠実なのか」という点については疑問が残る。つまり、結局のところMS-20 Miniはオリジナルのサウンドを忠実に再現するだけではなく、ヴィンテージシンセであるオリジナルよりも「安定性」が増したというのが多くの人たちが持った印象のようだ(筆者はオリジナルのMS-20を持っていないが、Create Digital Musicの投稿ではサンプルによる比較が行われており、この点を追及している)。 MS-20、つまり今回で言うところのMS-20 miniは非常に特徴的なサウンドを備えている。そのサウンドは暖かみがなく、ノイジーでエッジが効いたものだ(Legoweltはかつてこのサウンドを『バタリー飼育のニワトリの下痢のようなサウンド』と評しているが、本人はMS-20を数々のトラックで使用していることから、これは非難というよりは評価としての発言と受けとめて良いだろう)。MS-20のサウンドはサウンドエフェクト、そして途中で飛び込んでくるようなサウンドエフェクト的なリードやベースラインに向いていると言えるが、ドラムやパーカッシブなサウンドを生み出すのにも適しているが、リッチで太いベースには向いておらず、またゆっくりと変化していくようなパッドサウンドにも適していない。 このようなサウンドの生成において重要なポイントとなっているのがセミモジュラー方式だ。パネル左側は基本的なノブが並び、これらだけでも十分に幅広いサウンドを生み出すことが可能だが、右側には小さなパッチベイセクションが設けられており、このシンセのサウンドを更に変化させることができるようになっている。ケーブルを繋がない左側のセクションの信号の流れはオシレーター→フィルター→アンプというシンプルなものだ。各オシレーターはシンプルな波形とリングモジュレーターが揃っており、パルス波はパルス幅変調に対応していないものの、各波形のピッチ修正は可能となっている。またフィルターはハイパスとローパスが独立して並んでおり、それぞれにレゾナンスが備わっていることから、両フィルターの周波数を揃えればバンドパスフィルターとして機能させることが可能だ。尚、フィルター自ら発振するため、見事なピッチシフトサウンドや奇妙なサイン波を生み出せるようになっている。またアンプとフィルターにはAHDSRエンベロープが接続されており、フィルターでは量をコントロールすることが可能だ。そして三角波とノコギリ波が選択できるLFOでは、フィルターのカットオフ周波数やオシレーターのピッチがコントロールでき、またその隣のシンプルなエンベロープセクションではオシレーターのピッチもコントロールできる。またポルタメントも備わっている。 次に右側のパッチベイセクションだが、構造は大して複雑ではない。減算方式のシンセについて知識がある人であるならば数時間マニュアルを読めば十分に理解できるはずだ(このパッチベイはシンセの信号の流れについて理解するにも非常に向いており、Rob Papenの解説映像にも採用されている)。エンベロープは様々なルーティングが可能となっており、また反転させることも可能だ。しかし、サウンドの変化が面白くなってくるのはモジュレーション・ジェネレーターからだろう。振幅を変化させることができる矩形波として使用することが可能なため、アンプを通してモジュレーションを減衰、または増加させるエンベロープを組み込むことが出来る他、ホワイト/ピンクノイズジェネレーターと併用して、レトロなS/Hサウンド(サンプル・アンド・ホールド)を生み出すことも可能だ。ノイズジェネレーターはソースとして使用できる他、モジュレーションのソースとしても使用することができる。またキーボードの左側に設置されたモジュレーションホイールとその下のトリガーボタンを使用して、エンベロープをコントロールすることが可能な他、キーボードのピッチとトリガー信号、コントロールボルテージもルーティングも可能となっている。 また下部には「エクスターナル・シグナル・プロセッサー」セクションが設けられており、これは主に外部入力を変化させる時に使用する。たとえばエレキギターをピッチコントロールボルテージやアンプエンベロープ、トリガーボルテージに入力することが可能だ。そしてパッチを繋げば、シンセとして使用することができる。これらのボルテージはすべての入力にルーティングすることが可能なため、MS-20 Miniのすべてのセクションで非常に実験的なサウンドの生成が行える。 MS-20の妥協のない白黒のボディが打ち出す美学は、レトロでミニマリスティックな印象を与えるが、それ以上にその特徴的なサウンドを非常良く表現していると言えるだろう。本体は見た目通り頑丈で、各ノブはスムースだが重さがあり、また筐体全体に適度に金属が使われている。つまりMS-20を再現するというミッションをKorgは見事に果たしたと言えるだろう。このシンセは他のシンセよりもサウンドそのものが重要なシンセだ。汎用性は低いが、特徴ある奇妙なサウンドを生みだしたいというのであれば、このシンセしかないだろう。 Ratings: Cost: 4.5/5 Versatility: 43/5 Sound: 3.5/5 Build: 4.5
RA