JuJu & Jordash - Techno Primitivism

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  • Dekmantelより届けられたJuJu & Jordashの2ndアルバム『Techno Primitivism』というタイトルには、あきらかにアイロニー(皮肉)が込められている。とはいえ、このアムスのデュオはこれまでもテクノという部分に関してはかなり自由なスタンスで活動を展開してきたので、とりたてて意外というわけでもないかもしれないが。Golf Channelにおいて彼らはそれまでの荘厳でサブリミナル的な作風から、「Jewsex」などここ最近のリリースにおいてはより明るいエレクトロ色の強い作風にシフトしている。このアルバムが「Jewsex」の内容に直結したものとして考えれば、アルバムを半分も聴かないうちに断固として野方図なアナログ・マッドネス的な世界観が予想できるだろう。しかし、それは間違いだ。いや、むしろその予想は正反対だと言ってもいい。 たしかに、このアルバムのサウンドはあきらかにハードウェア・マシンを駆使したものであることには変わりないが、そのハードウェアの使われ方はごく控えめで、映像的かつワイドスクリーン的なヴィジョンを投影するために使われている。アルバム全編にわたってダンスフロアー的なトラックが溢れているのだが(ただし、ドロドロで風変わりな"PowWow"や穏やかなデトロイト・ヴァイブを有した"Track David Would Play"は例外だろう)、それらはたくさんの異なる惑星から集めた異世界的な色彩を寄せ集め、バイカー・ディスコやVakuraにも通じる沈着したサイファイ的メトロポリス世界観を通じて異形のインダストリアル・サウンドを提示しているのだ。なんとも意欲的な作品だが、それらはあくまでも段階を踏んでいる。アルバムは"Stoplight LooseJaw"で幕を開け、蛇行とパラノイド的ムードが交錯し、メロディックな要素が羽毛のようにトラックの表面を撫で、そのテンションはハリウッド的な天国観を思わせる美しいハミングとなって霧散していく。 これはあくまでもスタートであり、アルバムはここからさまざまな方向へと目まぐるしく変化していく。"Diatom"では重厚な黙示録的アンビエンスからピアノがカオティックな絶頂へ導き、"Backwash"ではブルージーなギターがこだまするスティール・ドラムの巨大な波の中で爪弾かれ、太陽で乾き切ったサバンナを想起させる。トラックの長さも、3分程度のものから8分超えのダンスフロアー・トラックまでさまざまなのだが、それらは実にタイトに編み合わせてあり、非常に完成度は高い。Actressのようなわざとスケッチ的にやり残してある印象もない。アルバム全体が非常に濃密な仕上がりを見せており、すべてのエレメントが可能性に満ちている。 また、このアルバムにはサウンド面において通底した特徴がある。それは遠くでビートが鳴っているという感じではなく、渦を巻くサウンドスケープの中心にリスナーを引き込み、そこに留まらせるような説得力があるのだ。不透明なサウンドがあらゆる方向から包み込み、ときには波紋のように広がり、ときには火花のようにスパークして舞い上がっていく。まさにJJ & Jにおける類稀な自由自在なサウンドとムード操作の能力をあらためて証明している。このアルバムには、異なる世界が衝突し、コズミック的/エレクトロニック的な要素と人間的/有機的な要素が不可分に混じり合っているのだ。アシッドとオリエンタル、カントリー、ロックなどを引き連れたどんちゃん騒ぎの果てに連れて行かれるのは、かつて見たこともない、実に新鮮で興奮させられる世界だ。
RA