- エモーショナル・エレクトロニカ
- 現行のダンスミュージックにおいて、作品が“誠実”だと言えるアーティストはいるだろうか?まじめだとか、厳粛という意味ではなく、神に誓うように正直で素直に自分の感情をさらけ出すような誠実さだ。ダンスミュージックでは感情を抑え、本音をうやむやにすることのほうが多いと言えるが、The RangeことJames Hintonはこういった常識を覆すような楽曲を制作する。クラブミュージックの断片から組み立てられたホームリスニング・スタイルである彼の音楽は、綺麗であり素晴らしく誠実だ。Hintonが最近Dominoからリリースしたアルバム『Potential』のレビューでは、Andrew Ryceが収録された11曲を「poignancy(辛辣な)」、「vulnerable(脆い)」、「bittersweet(ほろ苦い)」、「heart-tugging melodrama(心に訴えかけるメロドラマ)」といった言葉で表現した。特に、Hintonは人間の肉声を用いて情緒を表現することが好きだ。2013年にリリースしたブレイクスルー作、『Nonfiction』では、YouTubeにアップされている再生数のとても低い動画から歌声やスピーチの音声などをサンプリングしていた。『Potential』では、このコンセプトを作品の根幹にし、声をサンプリングした人たちに関するドキュメンタリーを制作するまでに至った。"Regular"という曲では「もし成功しなかったときのことは考えていないよ」と、希望とナイーブさに溢れるアーティスト志望の人の言葉が用いられているが、それはこの作品全体のテーマとも言える。
Hintonの楽曲のみで構成されたRA.521は、そういった豊かな感情表現に溢れる。旧譜から新譜、そして今後リリース予定の楽曲が集まったこのミックスは、ポップ、R&B、ヒップホップ、ベース・ミュージックなど様々なジャンルを網羅するが、それは間違いなくThe Rangeの音だ。
近況報告をお願いします
今はUSのツアー中なんだ。移動中、音楽を制作する時間がたっぷりあるからそれは嬉しいね。昼間に曲を作ってそれを夜にかけるのが好きだから、この機会に沢山そうやって曲を作っているんだ。
ミックスの制作環境を教えてください
ブルックリンのアパートでCDJを使って制作した。まだ未発表だった曲も入っていて、それまで自分のセットでどういうふうに使うかまだ考えてなかった曲もあったから、なかなか悩みながら作ったよ。
ミックスのコンセプトについて教えてください
これまでに出した2枚のアルバムと、それ以前の古い曲、そして最近できた新しい曲を混ぜることにしたんだ。何回も聴いてきた古い曲に最近できた曲を組み合わせることで、こういった曲の立ち位置を自分のなかでどう考えているか提示することができて面白かったよ。
最近リリースしたアルバムでは、YouTubeから再生数が100以下の動画を選び、サンプリングしました。この発想のどういうところが面白いと感じましたか?
『Nonfiction』のツアーをやっているときに、再生数が低い動画ってとても興味深いと感じるようになっていたんだ。そのアルバムにもいくつかYouTube動画の音をサンプリングしていて、それらの声の主についてもっと詳しく知りたいと思った。それで、そういった声を用いてアルバムを作ってしまったら面白いと思ったんだ。最高に楽しいのは、凄く良い動画を見つけた時、再生数を見るとまだ少人数しか見ていなかったとき。もっと多くの人に見てもらうべきだと思う人が、少しでも多くの人に知ってもらえたら嬉しいんだ、
サンプリングした人々のドキュメンタリーを制作することで、声の主たちのパーソナルな部分を垣間見ることができました。その体験から何を学びましたか?
アルバムに参加してもらった人々の素顔を、それぞれの地元でとらえることができて素晴らしい体験ができた。僕自身、なにか共感できる部分がある人々をアルバムに入れたいと持っていたんだけど、ドキュメンタリーを作っていて気づいたのは、動画を見て思ったことの大半が当たっていたということだった。ひとりひとりが思っていたとおりの人たちで、各国で彼らに会うことができてとても光栄だった。
今後の予定は?
今、これまで以上に生産的なモードに入っていて、沢山曲を作っているし、次のアルバムのためのリサーチをしている。今年の夏は沢山移動するから、色々な場所でインスピレーションを受けながら曲作りをすることが楽しみだ。あとアメリカ以外の国の図書館に行って、サンプリングの視点から記録や資料の保管の現状について知り、記録の抹消ポリシーの違いについて調べたいと思ってる。
TracklistThe Range - Unreleased 1
The Range - Unreleased 2
The Range - Unreleased 3
The Range - True Value (Alternate Version)
The Range - Howler
The Range - Unreleased 4
The Range - Material Instrumental
The Range - Unreleased 5
The Range - Dull
The Range - Illinois Boy
The Range - No Loss
The Range - Unreleased 6
The Range - Blindspot
The Range - Five Four
The Range - Unreleased 7
The Range - A Solitudinous Diptych
The Range - Florida
The Range - The One
The Range - Falling Out Of Phase
The Range - The Magic
The Range - Superimpose
The Range - Unreleased 8
The Range - Sony
The Range - Unreleased 9
The Range - Unreleased 10
The Range - Ed Reed Jersey
The Range - 1804