Florian Schneiderは、第二次世界大戦終戦後の2年後、支配下にあるドイツで生まれた。自身が共同創設したバンドKraftwerkで、彼は技術の進歩や繁栄、開かれた国境、そして移動の自由など、戦後のヨーロッパに期待するもの全てを明示しようとした。シンセサイザーをメインストリームにもたらし、テクノ、ヒップホップ、エレクトロのオリジネーターをインスパイアしてきたKraftwerkは、20世紀の音楽に多大な影響を与えた存在である。

Kraftwerk結成当初（前身バンドOrganisationのアルバムを発表した後）、Schneiderはフルートを担当し、アーシーで拍動するジャムを生んでいた。Schneiderはフルートを気に入っていたが、同グループが最初の3枚のアルバムを発表した後（いずれも正規再発は一度もされていない）、彼はグループ初のヒット作『Autobahn』でシンセサイザーの可能性を見出し、そこから二度と振り返ることはなかった。

“Autobahn”は、シンセサイザーのみでヒット曲を作れることを証明した作品だ。以来、彼らは冷戦、旅行、ロボット、新たな技術、そして現代世界に忍び寄る孤独などに言及したテーマに沿った、素晴らしいエレクトロニック・ポップのアルバムをいくつも発表。しかも彼らはそれをスタイリッシュにやってみせ、ドイツの遥か遠くまで響き渡るリズムとメロディを生み出した。

Schneiderは2008年にKraftwerkを脱退した。（彼の脱退後、バンドは一切新曲を発表していない。）初期のロングヘアのヒッピーを彷彿させるジャムから、スーツ姿の上品なマンマシーンに至るまで、Schneiderは、シンセサイザーやコンピューター、そして電子音楽全体への私たちの見方を定義づけるのに一翼を担ったグループのメンバーだったのだ。

Kraftwerk - Ruckzuck

Schneiderたちはこの作品の存在を忘れたいのかもしれないが（前述したように、Kraftwerk初期のアルバム3枚は一度もリイシューされていない）、本作は後にもたらされる音楽的発明の重要なヒントとなる。Popol VuhやAsh Ra Tempelのような同時期のドイツのバンドと比べると、『Ruckzuck』には以降のアルバムに見られるフューチャリズムやシンセの知識はないかもしれない。だが、不協和音を奏でるオルガンやプロト・モトリック・ビート、耳に残るフルートなどは、このバンドが何か違うことをしようとしていたことの証拠となっている。

Kraftwerk - Tanzmusik

Kraftwerkはマンマシーン・リズムで有名になったが、バンドの変遷期である1973年に発表したレコード『Ralf And Florian』には、明らかに人間的な魅力がある。伝説的なエンジニアConny Plankと共に当時はまだ名前がなかったKling Klang Studioで録音した、同バンド3作目のスタジオアルバムには、デュッセルドルフのクラウトロックシーンの大きな探究心が感じられる。“Tongebirge (Mountain Of Sound)”のようなアンビエントトラックにはぼんやりとしたヒッピーのエネルギーが漂っている一方で、“Tanzmusik (Dance Music)”には1974年の金字塔的アルバム『Autobahn』をヒット作へと押し上げた、モトリックのクールさがある。オーガニック（ハンドクラップや言葉にならない声）とエレクトロニック（シンセと生成されたリズム）、そして興味を掻き立てる前途への展望が恍惚として入り混じった1曲だ。

Kraftwerk - Autobahn

尋ねる相手にもよるが、“Autobahn”は世界初の“テクノ”のヒット曲である。この23分間に及ぶシンセサイザーの旅の、3分間の快活なクルーズコントロール・ヴァージョンをラジオで聞いたことがある人も多いだろう。同グループの初期作品に見られるロングフォームでアップビートなエクスペリメンテーションと、The Beach Boys的なシンプルな喜び、そしてメロディーの切り替えとシンセ音が描く曲線への偏好が組み合わさった“Autobahn”は、我々の知る、そして愛するKraftwerkが本当に始まった地点であり、公道を車で走るという人生における最もシンプルな喜びの1つをマシーンのみで伝えた曲である。ほとんどの人がその使い方すら分からなかった時代に、彼らはシンセサイザーに歌わせてみせたのだ。

Kraftwerk - Radio-Activity

『Radio-Activity』はKraftwerkのディスコグラフィの中でも最も過小評価されているアルバムであり、『Autobahn』やそれ以降の作品よりも、もっと実験的である。本作で、グループの作品群における、ある重要な筋道が登場した。技術への懸念、そして冷戦の不安だ。このタイトルトラックの事実に即した歌詞—「Radioactivity / Discovered by Madame Curie（放射能はキュリー夫人によって発見された）」—は、以降のアルバムにも見られる無表情のヴォーカルに通ずるものがあるが、この曲では皮肉っぽかったり突き放したようには感じられず、大真面目に聞こえる。自身たちが提示した輝かしいハイテクの未来に対し、彼らが戸惑いを感じ始めた瞬間が伺える。

Kraftwerk - Europe Endless

“Europe Endless”は、20世紀における戦後ユートピアのサウンドであり、我々の前に広がる大陸全体のランドスケープである。ここでは“Endless”がキーワードとなっており、欧州経済共同体創設初期に広がっていたであろう楽観主義を取り入れている。快活なヴォーカルと不安定なアルペジオが、リスナーをテレポートさせる。目を閉じると、そこには線路を越えて広がるヨーロッパの青々とした野原が広がる。Kraftwerkは、彼らのモトリック・ビートを聞きながら大陸を横断する鉄道旅行の感覚をこの曲に詰め込んだ。

Kraftwerk - Trans-Europe Express

さあ、いよいよエレクトロの始まりである。“Europe Endless”がヨーロッパを巡回する感覚をキャプチャーしているとしたら、こちらは電車内部のエンジン音を彷彿させる曲であり、その途切れ途切れのドラムパターンは80年代の定番となった。センス・オブ・ワンダーが感じられるが、ちょっとした不吉な予感もまた入り混じっている。また“Trans-Europe Express”は、Afrika Bambaataaが“Planet Rock”でサンプリングした時に新たな命が吹き込まれた。エレクトロのブループリントに、更なるレイヤーが加えられたのだ。踊れるKraftwerkとしてファイリングしておこう。

Kraftwerk - The Model

『The Man-Machine』は同グループがエレクトロ・ポップに方向転換した作品であり、その中でも“The Model”は最も重要なトラックだ。同曲は1981年に再発された際にUKのチャートで1位を獲得したが、その理由は明らかだ。もともとは1978年に発売された曲だが、その震えるビートと落ち着かないベースライン、そして感情を抱いて話すように歌うヴォーカルは、ニュー・ウェイヴ・ミュージックの登場を予兆していたのだ。また“The Model”では、Kraftwerkの音楽に人間らしさという新しい要素が生まれた。Hütterは「She's a model and she's looking good / I'd like to take her home, that's understood（彼女はモデルで美しい / 家に連れて帰りたい、それは了承済み）」と歌い、ロマンスというアイデアに歪んだ機能性を注入した。そしてそれは彼らの次のアルバム、『Computer World』で真に迫った。

Kraftwerk – Numbers/Computer World 2

『Trans-Europe Express』と『The Man-Machine』がエレクトロの青写真を描いた作品だとすると、『Computer World』はそれを完成させたアルバムだ。“Numbers”のドラムパターンは“Trans-Europe Express”と組み合わされ、歴史上最初のエレクトロ・トラックの1つである“Planet Rock”が生まれた。だが、“Numbers”の奇妙に痙攣するドラムビートこそが、本質的に最も純粋なエレクトロと言える。そこから“Computer World 2”の素晴らしいメロディへの入り方を思い出してみてほしい。あれはまさにマジック。当時のニューヨークのダンスフロアを賑わしていたブレンドを、意図せずに参照している。

Kraftwerk - Pocket Calculator

グループのカタログの中で最もキッチュな曲の1つである、ファンキーなダンストラック“Pocket Calculator”は、Kraftwerkのサウンドにおいて2つのコアとなる要素を孕んでいる。それはテクノロジーに対するドライな歌詞と、ブリーピーなシンセだ。歌詞中にある“スペシャルなメロディ”についてHütterが歌う時のその響き方や、8bitシンセの使い方は天才的で、当時の技術に対する驚異をキャプチャーして作品に収めている。（彼らの人気が世界的であった証として、「Pocket Calculator」は7つの言語でリリースされており、日本語では「電卓」というタイトルが付けられた。彼らが同曲をパフォーマンスしている様子はこちらでチェック。)

Kraftwerk - Computer Love

Kraftwerkは多くのアイコニックな曲を生み出したが、その中でも“Computer Love”は心の琴線に触れる1曲だ。彼らなりのバラードであり、その題材にも関わらず温かさを感じる。それは、トラック中盤で美しいガーゼのようなソロに変形していく、Kraftwerkの全カタログの中でも最も心に残る道筋である悲しげなモチーフによるものかもしれないし、あるいは、まだ原型のエレクトロ・ビートが静かなささやきのように聞こえるからかもしれない。驚きポカンとしてしまうような7分間の中に彼らのパラドックス全てをキャプチャーした“Computer Love”は、おそらく彼らが最も完ぺきだった瞬間だ。

Kraftwerk - Tour De France

Kraftwerkが新作を発表する度に、ロボットの流線型のイメージにわずかな人間らしさが加えられていったが、“Tour De France”はその集大成と言える。自転車にフォーカスした、このチャグするエレクトロトラックは、レース走者の息切れ音をパーカッションとして使用している。1983年にシングルとしてリリースされた本作もまた、バンドにとって大きな成功となり、彼らが発表した最後のインパクトあるオリジナル曲となった（1986年発表の『Electric Cafe』あるいは『Techno Pop』も良かったが、本作のレベルには及ばない）。“Tour De France”はKraftwerkのサウンドを自由な移動の喜びで包み込んだ、いわば“Europe Endless”のよりパーソナルな作品だ。本作以上に、世界を変えるような一連のアルバムを締めくくるのに適した作品はないだろう。Schneiderとその仲間たちが残した、素晴らしい功績の1つである。

この特集記事ではMatt McDermottも執筆しています。