2019年、RAのライター陣は約600枚のEPをレビューした。その中にはヴァイナルオンリーのホワイトレーベルがあれば、オンラインのストリーミングでしか聴くことができないプロデューサーのセルフリリーストラックもあった。また、RAはスーパースターDJたちが世界各国のフェスティバルステージでプレイするようなヒットトラックもカバーした。カサブランカからクロイドン、ベルリンから北京まで、慣れ親しんできたサウンドをスリリングで新しい形へと変えていくプロデューサーたちの存在もありエレクトロニック・ミュージックはこれまで以上にエキサイティングでグローバルに感じられた。ストリップダウンしたテクノツールを探しているツアーDJ、またはカッティングエッジなクラブトラックを求めてBandcampを巡っているサウンドギークを問わず、2019年はあらゆる人のためのトラックがリリースされた。 

その中からRAのライター、スタッフ、エディターが2019年を定義づけた55トラックをピックアップした。フレッシュなエクスペリメンタルトラックから強烈なテクノ、フェスティバルアンセムなどが揃っているが、今年は新しいフォーマットを採用し、スタイル、テイスト、ムードでセクションに区切ったトラックリストを作成した。また、各セクションの最下部には2019年を彩った同テーマのトラックを加えたエクステンデッドプレイリストを用意した。

今回のリストに取り上げているトラックの大半はEPレビューの中からピックアップしたが、それらは今年リリースされた数多の優秀なエレクトロニック・ミュージックの一部に過ぎない。リストのその他のトラックは、レビューはしなかったが今回のリストから外すには優秀すぎるトラックとなっている。

01

ウォームアップ

すべてのDJがダンサーをパーティへ緩やかに導いていくスムーズで控え目なトラックを求めている。2019年のウォームアップトラックベスト5をピックアップした。

- Yu Su
  Little Birds, Moonbath feat. Michelle Helene Mackenzie
  Second Circle
  
  Yu Suの魅力的なニューエイジトラック "Little Birds, Moonbath" については色々な意見があるが、ユニークなサウンド（高音でわずかにピッチが外れているアラームのようなストリングコード）が突出している特徴で、そのサウンドは価値がある対象を見かけた時の友人からの小突き（「ちょっと見て！」）と比較できるのかもしれない。しかしここでの価値ある対象は、Michelle Helene Mackenzieのレースのようなモジュラーシンセと牧歌的メロディのカスケード、そしてミックスの奥深くに配置されているYu Suの詩的なスポークンワードだ。大半のアンビエントトラックが自然を模倣しようとしている中、"Little Birds, Moonbath" はその理想バージョンに思える。
- DJ Python
  Lampara
  Dekmantel
  
  DJ Pythonの音楽を聴いていると浮遊しているような感覚を得る。心が安まるようで、少しばかり気まぐれだが、同時にそれら以上の重みがあることを示唆するディープなテクスチャが備わっている。『Derretirse』のBrian Pineyroは彼の特徴とも言えるディープなレゲトンサウンドを最もドリーミーにしたバージョンを提示している。うねりのあるオープニングトラック "Lampara" はパーフェクトな位置に配置されており、光をほのかに放つシンセとソフト＆スローなドラムの生み出すパルスへリスナーを誘っていく。このトラックはアルバムに収録されているさらに動的なトラック群へゆっくりと導いていく役割を担っているが、ずっと留まりたい安堵の瞬間でもある。"Lampara" はウォームアップに “ウォーム” をもたらしてくれるトラックだ。
- Joe
  Get Centred
  Comeme
  
  “船酔いしたカーニバルオルガン” を軸に据えたトラックやロボティックなメタコメント、そしてあの "Claptrap" を含むポートフォリオを持つプロデューサーとしては、JoeのComemeデビューEPのタイトルトラックは比較的ストレートで分かりやすく聴こえる。もちろん、このトラックのテンションが7/8拍子と目まいを伴うシンコペーションによって生み出されていることに気付くまでの話だが。Joeの他のベストトラックと同じように、このトラックもリスナーに「Joeは一体どうやってこのアイディアを思いついたのか？」という疑問を抱かせる。
- Liquid Earth
  Origins Of Telluria
  TerraFirm
  
  数年前からテックハウスは静かなルネッサンスを迎えているが、このスタイルをBeatportの大量消費から救出している一部のプロデューサーのひとり、Liquid Earth（またはUrulu）が、2019年で最も複雑怪奇なトラックをいくつかリリースした。揺れの強いアシッドベースラインとひねりのあるエフェクト（ “外宇宙のコオロギ” が最も上手い喩えだろう）を備えている "Origins Of Telluria" の角の取れたグルーヴィーなアレンジメントは、クロイドンで産声を上げた最初期テックハウスを彷彿とさせる。トラック終盤に入ってくる豪華なシンセがこのトリッピーなAサイドトラックにハイテックソウル感を加えている。
- Whodat & Viola Klein
  Funeral Song
  Workshop
  
  テンポが定期的に変化するWhodat & Viola Kleinの変化球ハウスジャム "Funeral Song" は一部のDJを悩ませたが、幸運なことにその明るくてレイドバックなフィーリングはオーディエンスがまだ自分たちの居場所を見つけ出せていないパーティの始まりにパーフェクトだった。そもそも、ここ数年のWorkshopのベストトラックがダンスフロアに投下されている時にいくつかミスがあっても誰も気にすることはない。

エクステンデッドプレイリスト

02

カッティングエッジな音楽

2019年を通じてプロデューサーたちがエレクトロニック・ミュージックを素晴らしくて新しいフォームへ変化させてきた。再構築されたクラブトラックから脳をかき回すジャングルまで、今年のエクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックはこれまで以上にエキサイティングだった。

- LOFT
  That Hyde Trakk
  Tri Angle
  
  ジャングルがフューチャリスティックなサウンドだったのは1990年代初頭だった。ではなぜ懐かしく響くこのサウンドに多くの新世代アーティストたちが虜になっているのだろうか？　"That Hyde Trakk" はフレッシュなジャングルで、LOFT（現在はAYA）がキャリアを通じて制作を続けてきた作品だ。艶やかで脳をかき回すようなリズムチェンジを備え、強烈なスピードを誇っているこのトラックを聴けば必ず驚かせるはずだ。おそらくはジャングルを初めて知った当時のリスナーと同じように。
- Amazondotcom
  A Flower, Nocturnal And Permanent
  Subreal
  
  "A Flower, Nocturnal And Permanent" はスピーディなトラックとしては驚くほど長閑だ。Amazondotcomは鳥の鳴き声は木の葉の揺れる音、人の話し声、ジャングル的パーカッション、ソフトな低音を使いながら、それぞれのサウンドの隙間を活かしてトラックのトーンを設定しているが、このトラックから放たれるパルスはダンスフロアを揺らせるだけの説得力を備えている。
- DJ Haram
  No Idol
  Hyperdub
  
  フィラデルフィアを拠点に活動しているアーティストDJ Haramはイーストコーストクラブサウンドと伝統的なアラブ音楽の結合体と呼べる音楽を制作している。"No Idol" は彼女の最新EP「Grace」のオープニングトラックで、つんのめるようなフルートのトリルや中盤で大きく鳴り響く重量感のあるオーケストラサウンドを含むよりドラマティックなサウンドまでを用いている。ミニマリスト的サンプル同士の遊び心溢れるキャッチボールだ。
- Slikback & Hyph11E
  ISHU
  SVBKVLT
  
  2019年で最もフレッシュなクラブミュージックの一部は東アジアか東アフリカ発で、SVBKVLT、Hakuna Kulala、Nyege Nyege Tapesなどのレーベルからリリースされていた。ナイロビのSlikbackと上海のHyph11EのコラボレーションEP「Slip B」は両地域の作品だ。「Slip B」の中で特筆すべきトラックが "ISHU" で、狂気じみたリズムのファイアーボールとインダストリアルノイズ、予想外のストップ＆スタートが備わっている。ラウドで獰猛なこのトラックはダンスミュージックの最前線に立っている。
- Shygirl
  BB
  NUXXE
  
  "BB"のコーラスに最も近いパートでShygirlは「ここの勝者はひとりしかない。わたしはすべてで勝利する」と叩きつけているが、彼女のこの言葉を拒否するのは難しい。Sega Bodegaがプロデュースした電撃的クラブビートは、Shygirlの尊大なMC － 2019年で最もキャッチーな一本調子なヴォーカル－と組み合わさることで活性化していく。

エクステンデッドプレイリスト

03

ガラージ＆ 2ステップ

馴染み深いサウンドをフレッシュな視点で解釈する新世代プロデューサーたちの登場によりクラシックスタイルが新章を迎えた。

- Burial
  Claustro
  Hyperdub
  
  一聴しただけでは、"Claustro"はR&Bサンプルを使用したガラージカットのひとつという印象だ。ごく普通のよく見かけるトラックだと。しかし、それは間違いだ。この熱いトラックはロンドンに拠点を置くアーティストの陰鬱なサウンドからの離脱で、彼のこれまでのトラックよりも速く、明るく、ドライビングだ。また終盤も白眉だ。残り30秒でBurialは一気にユーロダンス的メロディとハイピッチヴォーカルへ大きく方向転換する。2バンガーを1トラックに盛り込めるのはBurialだけだ。
- Stenny
  Stress Test
  Illian Tape
  
  Stennyはこれまで素晴らしいリリースを続けてきたが、彼のようなテクノ寄りのプロデューサーが2019年最強のUKガラージエクスペリメントに手を出すとはさすがに予想していなかっただろう。他の多くの最新2ステップトラックと同じように、"Stress Test" もEl-Bのダーク＆ミニマルサウンドの直系だが、このトラックにはいちガラージファンのフレッシュな情熱が加えられている。ガラージ特有のバブリーな活気を排除してより無表情なサウンドを打ち出しているが、ブレのない完成度の高さが際立っている。
- Alec Falconer
  Cab Sauve (Harry Wills Sour Grapes Dub)
  Entity London
  
  UKガラージのニューウェーブを構成する複数の勢力の中で、Harry WillsとAlec Falconerたちはサイケデリックなミニマリストと言える。UKガラージの柔軟で曲線的なグルーヴを強調しながら派手さを抑えているWillsの "Cub Suave" リミックスなどに代表される彼らのプロダクションはトリッピーなハウスやストリップダウンされたテクノにパーフェクトにフィットする。また、ミニマル的変化球要素も加えられており、PerlonとGroove Chroniclesを彷彿させるオルガン、スタブ、シンセは彼らをこの世代の他のガラージと区別するための重要な特徴になっている。
- Instinct
  Pistolwhip
  Instinct
  
  UK出身のプロデューサーBurnskiのサイドプロジェクトInstinctは数年前から台頭しているサウンド－ミニマル、テックハウス、ガラージの交差点上に位置するディープなクラブカット－を体現している。このサイドプロジェクトは素晴らしい瞬間をいくつも記録してきているが、ここまでのハイライトと言えるのがドラッギー＆ミニマルな悪いムードと、UKガラージ直系のステップの効いたリズム＆ヴォーカルフックを同居させているフロアチューン “Pistolwhip” だ。この想定外のスマッシュヒットが2019年を通じてDJたちに愛されたのは当然と言える。
- ZeroFG
  Renegade Steppa
  Dr Banana
  
  優秀なレーベル兼ファッションブランドのDr BananaはクラシックUKガラージと新作ガラージをリリースしている。当然、そのクラシックトラックのいくつかがスポットライトを奪っているが（2018年の「Romantic Call」や2019年12月のK-LoneのEPなど）、彼らのリリースに含まれている “今” のアーティストたちも引けを取っていない。Dr Banana 07に収録されているHollowayとZeroFGのニュートラック群はSky JooseとDJ Textaのクラシックトラック群を凌いでおり、ZeroFG "Renegade Steppa" は特に素晴らしい。悪いベースラインを備えたダーク＆トリッピーなこのトラックは、新しい音楽にのみ許されるフレッシュなフィーリングを備えている。

エクステンデッドプレイリスト

04

サマーフェスティバルのサウンド

世界各地のフェスティバルで聴いて踊った、メガヒットの中のベストトラック。

- Four Tet
  Dreamer
  Text Records
  
  Kieran Hebdenのトラックたちは、もう10年以上にわたり夏のサウンドトラックであり続けている。2019年の別のヒット曲である"Only Human”が厳選されたヴォーカル・サンプルのパワーを生かしているのに対し、”Dreamer”はキラキラと光るテクスチャとシャッフリングなパーカッションが全て。たった3分という尺のためDJセットの中で使うのはなかなか難しいが、それでも尚、"Dreamer"は今年最も人気の曲の1つになった。また夏が来て、また一つFour Tetスマッシュが生まれた。
- Peggy Gou
  Starry Night
  Gudu Records
  
  今のPeggy Gouを端的に象徴するような曲。アシッド・ラインと、いっときの人気を思案するヴォーカルが入り混じるウェーヴィーなピアノ・ハウスチューン"Starry Night”は、湿っぽい夜風のように色っぽくて魅力的。滑らかでキラリと光るハウスは（それとマッチする魅力的なビデオも相まって）、Gouの持つ強みの全てをひとつの光り輝くパッケージにまとめ上げている。
- S.A.M.
  Fury's Laughter
  Delaphine
  
  Peter Bjorn And Johnによる、あのとてつもなく口ずさみたくなるようなメロディーのインディーポップ・ヒット"Young Folks”を覚えているだろうか？ Samuel André Madsenの"Fury's Laughter”は、それに匹敵するハウス・ミュージックかもしれない。頭から離れない笛の音色は、2019年の太陽降り注ぐダンスフロアにおけるマタタビのようで、76,000人ものレイヴァーたちが、このキャッチーなチューンは何だろうとShazamせざるを得なかったようだ（ちなみに、アンダーグランド・ハウス・トラックにとってはとてつもない数字である）。はたしてこのレコードは、ダンスミュージックにおける陰のヒーローのひとりをスポットライトの下へと送り出すきっかけとなるだろうか？
- Marie Davidson
  Work It (Soulwax Remix)
  Ninja Tune
  
  13年前の今頃、ダンサーたちは、00年代のブログハウス時代を特徴付けた、澄ましたヴォーカルが響くSimian Mobile Discoのトラック”Hustler”を聴いて飛び跳ねていた。2019年の夏における"Hustler"的位置付けのトラックは、Marie Davidson "Work It”のSoulwaxリミックスだ。同リミックスは、昨年大小のフェスティバルに火を付けた中毒的なヴォーカルを乗せたジャッキンでハイ・エナジーな爆弾をよみがえらせた。過去に何度もそうしてきたように、Soulwaxはあるヒット曲を、さらにビッグに仕立て上げた。
- Nathan Micay
  The Party We Could Have
  LuckyMe
  
  今年は多くのアーティストがトランスを作り、プレイしたが、Nathan Micayほどの情熱を持ってそのように行動したアーティストは数少ないだろう。"The Party We Could Have”は、我々がずっと彼に期待していたような、完全なる90年代後期への崇拝だ。この曲は恥ずかしげもなくそこに向かっており（撒き散らされるベースラインを聴いてみてほしい）、大のトランス嫌いをも笑顔にしてしまいそうだ。恍惚とした純粋なパワーによって、爆発的なサマーヒットとなった。

エクステンデッドプレイリスト

05

ピークタイム・テクノ

スーパースターDJたちがテクノを新たな高みへと導いた今年、以下のトラックが地下やウェアハウスのレイヴを爆発させた。

- Aurora Halal
  Eternal Blue (Wata Igarashi Crossing Remix)
  Mutual Dreaming Records
  
  Aurora Halalは以前、“サウンドのクリアさ” や “周波数の3Dスペクトラム”、“高解像度のサイケデリックな出音” という言葉を用い、自らを形成したあるテクノ体験について語った。まさにそれが、Wata Igarashiによる彼女のトラック "Eternal Blue” のリミックスで聴くことができる。めまぐるしいアルペジオや非常に澄んだサウンドにIgarashiお得意のコズミックなドラマ感が加わった、爆発するブレイン・ミームを想起させるようなテクノであり、正しいサウンドシステムでこの曲を聴けば、真の超現実的体験ができるかもしれない。
- Rosa Anschütz
  Rigid (Kobosil 44 Rush Mix)
  R - Label Group
  
  光と陰、幸せと悲しみの間の押し引きは、多くの素晴らしい音楽の中核をなす。KobosilによるRosa Anschutz "Rigid"のリミックス"44 Rush Mix”は、痛々しいドローン的なヴォーカルに、時に陶酔的な雷鳴のようなテクノ・インストゥルメンタルを組み合わせ、異なるムードのパーフェクトな比率を見つけ出した。結果として2019年最もパワフルなテクノ・トラックの一つであり、Kobosilのキャリアにおけるハイライトとなるトラックが完成した。
- Paula Temple
  Joshua And Goliath (Techno Version)
  Noise Manifesto
  
  テクノアンセムはそう多く生まれないが、"Joshua And Goliath” は2019年のその一つに数えられる。燃え尽きたウェアハウスを破壊する解体鉄球のような音だが、それでもこのPaula Templeによるピークタイム・ボムは、多くの動的パートを乗せたかくはんするシンセコーラスによって音楽的に感じる。全てのテクノDJがこの曲をクラウドに向けてプレイできるほど勇敢だったわけではないが、それをやってのけたDJたちはダンスフロアをメルトダウンさせた。
- VTSS
  Fruition
  Intrepid Skin
  
  ゴツゴツしたテクノは好き？ EBMは？どちらもイエス？だとしたら今年はあなたの年だっただろう。その同輩の中のスターのひとりが、ベルリン拠点のポーランド人プロデューサVTSS。その冷徹なDJセットが注目され、彼女は今年新たな遠く離れた土地でもプレイする機会を得た。彼女のプロダクションの中でも、ゴツゴツとしたテクスチャとゾッとするアートワークが印象的な激しいバンガー ”Fruition” も活躍の理由となった。だが、暗闇の下には他の何かもある––霜のように微かで繊細な美しいメロディーだ。
- Varg
  A Weak Heart To Break (BD 4-Ever)
  Northern Electronics
  
  「テクノ・バンガーをたくさん作り続けてるけど、俺がやりたいことはそれじゃないんだよな。ウケるだろ」と、Vargは今年RAに対し語った。”A Weak Heart To Break (BD 4-Ever)” はストレートなテクノ・バンガーが詰まった2枚のEPのハイライトであり、Vargの矛盾がトランス色を帯びてスチームローラーに押し込まれたようなトラック。彼の音楽を普遍的たらしめるている、ほとばしる感情が備わったこのメロディーに捉われずにはいられない。

エクステンデッドプレイリスト

06

午前4時の仕掛け

ダンスフロアがパンパンでグルーヴが出来あがってるときにDJが投下するチューン。

- Off The Meds
  Belter (Joy O Belly Mix)
  Studio Barnhus
  
  「これは20年後も間違いなくかけてる」––Joy Oが手掛けた "Belter" の "Belly Mix” について、Ben UFOがそうツイートしていた。この曲を何回も再生したくなる魅力は何だろう？最近よく語られている、ダンスフロア・アンセム離れに関係しているのかもしれない。明るい、サビの印象的なヒット曲（例えばJoy Oの "Ellipsis” など）が昔ほど求められなくなっているのであれば、この "Belly Mix” はそういった環境から生まれた突然変異の一種かもしれない。ドント・フィール・グッド・トラック（気持ち良くない曲）とでも呼ぼうか。Off The MedsのKamohelo Khoaripeが物語の謎多きアンチヒーローだとしたら、Joy Oの不穏なベースラインは怪しい敵役か。
- Kosh
  Keep Hope Alive
  Casa Voyager
  
  中央駅の名前を由来に持つ、モロッコのハウス、テクノ、エレクトロ・レーベルCasa VoyagerがDJたちに愛されている理由は、まさにKoshの "Keep Hope Alive” のような作品をリリースするからだろう。ファットでスペーシーでエモーショナルな、このゆるやかなハウストラックは深い時間帯にかけるのがベスト。うねるベースラインがダンスフロアを宇宙へと誘う。
- Deniro
  Monsoon 2
  Tape Records Amsterdam
  
  ここ数年、DeniroがTripやTape Recordsからリリースしてきた作品はどちらかというとレフトフィールドだった。彼のパーカッシヴなテクノ・トラック、"Monsoon 2" は比較的控えめだ。シャッフルの効いたパーカッションが軽やかなクラシック・テクノを思い出させる同曲は、品のあるDJセットに最適。今年のテクノの中で派手な部類には入らないが、抜群に巧みで効果的な一曲だ。
- Karima F
  Random Loop From Doepfer Site
  Schloss
  
  ノルウェーのプロデューサー、Karima Fのブレイクのきっかけとなった同曲は、じっくりと作り込まれた展開を味わうトラックだ。シンプルなブレイクビーツのループから始まるが、徐々に音が重なり、そのうち登場するオルガンループがグルーヴをしっかりとロックする。それは曲の後半に待ってるドロップというよりはギアチェンジであり、強力なエネルギーが注入されるかのよう。これは、抑制していながらもアンセム・ライクな聴き応えを実現している珍しいトラック。あえて沸点の手前を保ちながら、メロディーが脳内にうねうねと入り込んでくる。
- CCL x Flora FM
  Liquify Interference
  Planet Euphorique
  
  今年リリースされた、シアトル拠点のふたりのアーティストによる2曲のコラボ曲のうちのひとつ（もう片方はBandcloudの素晴らしいチャリティー・コンピ収録の "Winding Plod”）である "Liquidity Interference" は、ダンスフロアのど真ん中を陣取る。そのドラムは鋭く、音の隙間がたっぷりあるため打楽器のひとつひとつのヒット音がはっきり聴こえそうだ。そしてその上をメロディックなシンセが舞う。深い時間帯に入って、音楽に体の動きを奪われた人々をより一層軽快に動かす力がありそうだ。

エクステンデッドプレイリスト

07

ビート・サイエンス

斬新なリズムを取り入れるプロデューサーたちが、今年最も魅力的なチューンのいくつかを生み出した。

- Leila Samir
  Anxiety
  More Time
  
  Leila SamirのEP「No Music」は、Andrew WeatherallやZaltanからすぐさま認められた輝かしいデビュー作だった。ファースト・シングルの ”Anxiety” では、切り取ったサウジアラビアの音楽、テクノ、激しいドラムのエレメントを、せせら笑うかのような不吉な曲に仕立て上げている。控えめなシンセがリードから始まり、まもなくしてリズムは急速に激化していく。
- Air Max '97
  Bruxis
  Timedance
  
  Air Max ‘97は、こん棒で殴打するような自身の音楽ジャンルにふさわしい、“ホラー・ダンス” という言葉を作り上げた。鋭いナイフの打ち合さる音、イタズラなホラー映画のサウンドトラックのメロディ、宇宙人のヴォーカルを包含した ”Bruxis” は、このイカれたスタイルの最たる例だ。だが、決してチープなスリルなどではない。あるポイントで、彼は完璧なタイミングのサスペンスに満ちたブレイクを挟んでくる。その一撃の後、当然かのように再開する。
- Lara Sarkissian
  Peninsula
  All Center
  
  Club Chaiの共同創設者は "Peninsula" で壮大なシーンを思い起こさせる。それは古代戦場のどんよりとした朝で、とどろきわたるハンドドラミングが軍隊を戦争へと駆り立てる。うめくような金属音、アルメニアの縦笛ドゥドゥクの不気味な音色が複雑なリズムの間を這うように進むことで、ミステリー感がビルドアップされていく。だが、制御されたパーカッションの激しさは決して揺るがない。それゆえ、奇妙かつパワフルなエクスペリメンタル・クラブ・ボムに仕上がっている。
- Yak
  Umbra
  version
  
  2019年、Versionはレーベルとしてその名を馳すきっかけとなった削ぎ落とされたダブステップから離れ、より実験的なリズムの探求へと向かった。シェフィールド最強のビート・ツイスターYak以上に、それを得意とするプロデューサーがいるだろうか？「Version 013」のB面収録曲 ”Kaepora” は、このドイツのレーベルが過去にリリースしてきた中で最も印象的トラックだ。そしておそらくYak自身にとっても。木漏れ日のように入って来るヴォーカルとキラキラしたドラムが、スタンダードではない115BPMのリズムで揺れるこの曲は、完全に型破りだが、気づかないところで豊かでグルーヴィーなのだ。
- DJ Plead
  Salt And Pepper
  Nervous Horizon
  
  DJ Pleadの音楽は、レバノンとシリアの伝統音楽と並び、UKハウス / ベースにルーツを持つ。"Salt And Pepper”ではアラブのビートを実験的に仕立て上げ、その上に最高のUKファンキーのソウルフルさが加えられている。激しくルーピーなパーカッションと力強いシンセが響く、DJ Pleadが今年リリースした中で最も魅力的なトラックだ。

エクステンデッドプレイリスト

08

150BPM以上

プロデューサーたちがテンポを上げた時、しばしばスリリングな成果が生まれた。

- Special Request
  VORTEX 164 (Sully Remix)
  Houndstooth
  
  Paul Woolford ”VORTEX” のオリジナルバージョンは、徐々にトーンが上がっていくプリミティブなスリルが全てだった。一方、Sullyのリミックスはある特定のアイデアを用いることでWoolfordの非常に印象的だったモチーフを取り除き、よりハードなルートを辿ることで成功した。彼はブレイクビーツをピッチの効いたメロディックなマテリアルへと変え、捻りのあるドラムを’94年的サウンドを切り刻むような鋭い音色の刀へ変えることにフォーカスしたのだ。
- Galaxian
  Coming Up For Air
  Illian Tape
  
  Galaxianはエレクトロ・アーティストとして知られるが、彼の2019年の傑作は昔のChristoph De Babalonを彷彿させる。黙示録的絶望が恐ろしい暴力と対峙するような世界戦争だが、わずかな希望の兆しがみえている。巨大な掃除機音や、ねじ曲げられ粉砕されたブレイクス、ゾクッとするようなパッドたちは、心の琴線に触れるだけではなく、それらをキレイに剥ぎ取ってしまう。そんな恐怖で溢れているにも関わらず、"Coming Up For Air” の真のパワーは、結局のところ贖いの体験であるところにある。立ちはだかる感情的な誠実さが、心を乱すと同時に浄化する。
- Djrum
  Hard To Say
  R&S Records
  
  Djrumのサウンドは高度な集中力とビッグな感情の間でバランスをとっており、この2つの均衡が正しく保たれた時に超感覚的な畏怖を引き起こす。Djrumが冗談めいて “アンビエント・ガバ” と説明する ”Hard To Say” は、このハイリスク・ハイリターンなアプローチの頂点と言える。150BPMを超える時、909のキックに伴う灰色のディストーションが、白濁したポスト・ダブステップのアンビエンスと均衡を保つ。Djrumの鼻血モノのドラムと乳化した雰囲気が、超越的な力と融合している。
- Double 99
  Ripgroove (Fixate Remix)
  Ice Cream Records
  
  これは今年世界中の人々が耳にしたリワインドだった。何のトラックかって？Sherelleがかけた、騒がしいUKガラージ・チューンの騒がしいエディットだ。そのパフォーマンスは大きな話題となり、彼女を一躍有名にした。“Ripgroove”自体、強力なトラックだ。だがFixateはどういうわけか、スピード・ガラージとジャングルを融合させ、この曲をよりハードにした。これが彼がシーンにおいて最もエキサイティングなプロデューサーである理由の、ある種のハイブリッドイズムである。ありがたいことにIce Cream Recordsが再始動し、彼のバージョンを正規リリースしてくれた。
- Homemade Weapons
  Svalsat (Donato Dozzy Remix)
  Samurai Music
  
  Donato Dozzyはここ数年、いくつかのDJ セットでドラム&ベースをプレイしているが、この大地を揺るがすようなHomemade Weaponsのリミックスは、彼がプロデューサーとして初めて同ジャンルを手がけた作品となった。オリジナルの胸騒ぎがするドローンと息を切らしたあえぎを、渦巻くリズムの網に巻き込み、Dozzyお得意の緊張と解放のコントロールが、構造的な圧力を呼び起こしている。テクノのフィロソフィーを持って作られたドラム&ベースは、止められない勢いを持った最終兵器となった。

エクステンデッドプレイリスト

09

アフターアワーズ

ピークタイムが過ぎ去ったあと、疲れた脚と混乱したマインドに最適なサイケデリック・チューン。

- Afrodeutsche
  I Know Not What I Do
  River Rapid
  
  2019年、Afrodeutscheはダンスミュージックにおける最もエキサイティングなニューカマーのひとりとして登場した。それは "I Know Not What I Do" のようなトラックのおかげだろう。ディープでスペーシーなこのテクノ / エレクトロのハイブリッドは今年最もトリッピーだったトラックのひとつで、DJがピークタイムのあとでじっくりとプレイするのにうってつけの低空飛行グルーヴだ。ルーピーで繊細なこのトラックは、世界中のクラバーたちを感嘆させた。
- Eris
  Moloko
  Cabaret Recordings
  
  "Moloko" はスペーシーで繊細なサウンドを得意とするCabaret Recordingsから届けられた、またしても素晴らしいトラックだ。テクノとハウスの中間のどこかに位置するErisの2枚目となるオフィシャルリリースにはソリッドな3トラックが収録されているが、その中でもベストだったのが "Moloko" だ。そのうねるグルーヴと弾むベースラインはDJがアフターアワーズのクラウドに向けてプレイするために作られており、全員を「もう少しフロアーにいよう」と思わせるタイプのトラックだ。
- Gene On Earth
  Lunchbox Music
  Limousine Dream
  
  DJ KooltのようなベテランのディガーDJが "Lunchbox Music" のようなトラックをプレイすれば、クラバーはショックを受けるとともにこれが2019年にリリースされたトラックだと知って喜ぶはずだ。Gene On Earthと同じようなタイプのトラックを手がけているプロデューサーの多くは、まさにこのトラックが持っているようなマジックを彼らのプロダクションにも込めようとしているが、"Lunchbox Music" のような正真正銘のクラシックはごく稀だ。
- Stanislav Tolkachev
  When I Was A Boy
  Semantica Records
  
  Stanislav Tolkachevはいかにもテクノらしいスタイルの持ち主だが、彼は今もリスナーを驚かせる方法を探っている。2019年、彼は "When I Was A Boy" というトラックで我々を驚かせたが、このウクライナ出身のマエストロにしては珍しいことに、様式化されたメロディーは微塵も使われていない。「When I Was A Boy」を成り立たせているメロディーは、アブストラクトなムードが訪れた深い時間帯のDJセットにおけるパーフェクトなオプションだ。
- Mor Elian
  Radical Spectacular
  Fever AM
  
  優れたアフターアワーズ・トラックの条件とは？　別の言い方をすれば、疲れた脚と混乱したマインドに最も効果的な音楽とは？　特にクラウドがボリショイのバレリーナさながらの緩やかさで踊っている時間帯では、大抵優美なメロディーがご褒美となる。これはそのままMor Elian "Radical Spectacular" における核心の説明になる。"Radical Spectacular" はダイナミックなリズムと喜びに満ちたメロディーを備えたアフターアワーズ・トラックだ。Oni Ayhunのアフターアワーズ・クラシックを愛するリスナーはぜひチェックすべきだ。

エクステンデッドプレイリスト

10

ディープリスニング

深い内省を促し、聴き終えたあともリスナーの中に長くとどまり続ける感情を呼び覚ますトラックたち。

- Carl Gari & Abdullah Miniawy
  Zawaj
  Whities
  
  ドイツ出身のトリオCarl Gariは、"Zawaj" によって2019年でおそらく最も荒涼としたサウンドスケープを提示した。Abdullah Miniawyによって延々と歌われるアラビックなヴォーカルのトーンは幽玄でいて力強い。Miniawyの母語によって届けられるアブストラクトなポエムはアラビア語の美しさを捉えており、エレクトロニックミュージックにおける立ち位置を主張している。
- Ghostride The Drift
  Untitled B3
  XPQ?
  
  モスクワからベルリン、フィラデルフィアから東京へと広がるアンビエント・プロデューサーたちのネットワークにおいて重要なコネクターとして機能しているのは、Exael、Uon、Huerco Sといったアーティストたちだ。彼らの接点はオンラインでのコミュニケーションが中心となっているが、Ghostride The Driftはこの3人が同じ部屋に居合わせた際に生まれた。"Untitled (B3)" はドロドロとしたアンビエントで、1994年か現在、あるいは遠い未来のどの時代に作られたとしてもおかしくないように思えるテクスチャーのインプロヴァイゼーション、ダブテクノ、IDMの実験となっている。
- Kali Malone
  Sacrificial Code
  iDEAL Recordings
  
  Kali Maloneのオルガン哀歌はこのセクションで紹介するにふさわしい。アメリカ出身のMaloneは、スウェーデンのインプロシーンに魅了されて8年前にスウェーデンへ移住した。「スウェーデンのシーンでは他のミュージシャンをとても注意深く扱い、思いやりがあるように感じた」と彼女は語り、「そのおかげでわたしの中にこれまでとは違う聴き方が芽生えた」と続ける。オルガンが鳴り続けるセカンドアルバムでは、Maloneはキリスト教礼拝にまつわる言語（「犠牲」「賛美」「崇拝」など）を取り入れているが、彼女の儀式性は厳格でハーモニックなルールに沿ったものになっている。"Sacrificial Code" のようなトラックでは、この規範が超越的な結果をもたらしている。
- Ana Roxanne
  It's A Rainy Day On The Cosmic Shore
  Leaving Records
  
  Ana RoxanneのデビューEP「~~~」は計算され尽くされた作品というよりはプライベートなオーディオダイアリーというべき趣があったが、そこには納得できる根拠がある。2015年にレコーディングされた「~~~」におけるニューエイジ / アンビエント / R&Bの尋常ならざるミックスはLeaving Recordsの共同設立者であるMatthew Davidの耳に届くまで実質的に誰にも聴かれることはなかった。 "It's A Rainy Day On The Cosmic Shore" は波の音を録音したフィールドレコーディングに、MoogのビンテージシンセIIIPによるループやドローンが組み合わされている。このカリフォルニア出身のアーティストの手にかかれば、シンプルなものでもマジカルに感じられる。
- Félicia Atkinson
  Moderato Cantabile
  Shelter Press
  
  Félicia Atkinson『The Flower And The Vessel』のファーストトラックはまるで静寂の中のかすかな囁きのようだ。2曲目の "Moderato Cantabile" ではこのアルバムの音楽的環境が明らかになる。"Moderato Cantabile" は遠くで響く透徹したトーンで幕を開け、ピアノのパーツやオーガニックなサンプルが漂ううちにサウンドとテクスチャーのレイヤーが穏やかに姿を現す。このフランス出身のアヴァンギャルド・アーティストの静謐なサウンドの世界への入り口となる、穏やかで濃密な、それでいて少しの憂いを帯びたフィーリングに身を浸そう。

エクステンデッドプレイリスト

11

ヴォーカル・バンガー

歌やサンプル、あるいはスポークンワードを問わず、入念に作り込まれたこれらのヴォーカルチューンは2019年に印象的な場面をいくつかもたらしてくれた。

- James Massiah
  Natural Born Killers (Ride For Me)
  Levels
  
  ロンドン在住のMCであるJames MassiahのデビューEPは、2019年最高のビデオクリップとセットになっている。Ian Pons Jewellが監督を務めたこのクリップでは、ブエノスアイレスの現実離れした猛暑を表現しているが、"Ride For Me" のサウンドが明らかにロンドン的であることを考えればどこかアイロニックだ。"Ride For Me" はロンドンという都市のうねりと威勢の良さをキャプチャーしており、初期シカゴハウスとeskiの中間地点にあると言ってもいい。Massiahのポエトリーはしばしば彼の声の抑揚が売りとなっているが、"Ride For Me" では彼のリラックスしつつも自信に満ちたフロウが癖になる。
- LSDXOXO
  HATESHOPPING
  PDA
  
  LSDXOXOはエディットの魔術師だが、SOPHIE "Faceshopping" を彼がエディットしたヴァージョンは至高と言える。彼のトラックの中でもこのエディットを今年最も多く耳にしたという人は多いはずだが、その秘訣はこのエディットのシンプルさにある。ヴォーカルはヒプノティックなフックへと引き伸ばされ、トラックはクラシックなテクノらしい品格で突き進んでいく。ここにはチープな添え物はなく、ただニュースクールなアティチュードとオールドスクールなスピリットがあるだけだ。
- AceMo
  Where They At ? ? ? feat. John FM
  Self-released
  
  AceMo「All My Life EP」の収録曲中で最もプレイされたトラックこそ、"Where They At ? ? ?" だ。Robin S "Show Me Love" のシンプルで明快なシンセフレーズはAceMoのローファイなシンセやシングルマザーからブラウンベレー（編注：チカーノ系移民の権利や反戦運動を訴える市民団体）までシャウトを送るJohn FMのキャッチーなヴォーカルのおかげでモダンな疾走感が与えられている。ポリティカルなエッジを持ったこのソウルフルなトラックは、2019年のニューヨークのクラブを席巻した。
- Octo Octa
  Can You See Me?
  T4T LUV NRG
  
  Octo Octaは安心感を与える歌詞で世界を表現できると知っている。トランスジェンダーとしての彼女の経験を考えれば、"Can You See Me?" は特に社会構造的に見えにくい形で抑圧された人々の静かなる苦しみを癒す意味があると感じずにはいられない。このトラックでは「I know exactly how you feel!（あなたがどんな風に感じているかわたしは分かってる！）」という歌詞が繰り返される。哀愁を帯びたハウスジャムに乗って届けられる、優しさに満ちたメッセージだ。

エクステンデッドプレイリスト

2019

トラック・オブ・ザ・イヤー

Schacke
Кислотный пипл (Kisloty People)
Клуб

Martin Schackeは『Клуб Навсегда (Kisloty Forever) 』を2年前の夏にロシアでレコーディングした。当時、彼はコペンハーゲンのテクノシーンの最前線にいたライジングスターであり、彼はサンクトペテルブルクのレニングラードスキー金属工場にある700〜800人規模のベニューКлуб（“クラブ” の意）— かつてDAZED誌は「ロシアで最もワイルドなクラブ」と呼んだ — で数週間にわたりレジデントDJとして滞在していた。SchackeとКлубには特別な繋がりがあった。RAのコントリビューターであるNikita Velichkoによれば、КлубはコペンハーゲンにあるSchackeがレジデントを務めていたクラブMayhemにインスパイアされているのだという。『Клуб Навсегда』から判断するに、双方はお互いにインスピレーションを与え合っているようだ。このEPではロシア産のポップソングがサンプリングされており、このクラブの非公式スローガンをタイトルに採用しており、いわばКлубに向けたラブレターのようなものとなっている。

4つのトラックの中でもアンセムとなったのは "Kisloty People" で、これは2001年のユーロポップ・ヒットであるАкула “Кислотный DJ”（“acid DJ” の意）を再構築したアシッド的でありつつもイタロ的な高速テクノだ。猛進するビートに乗ったチップマンクス調のヴォーカルだけでもヒットになる要素は十分だ。2分すぎに入ってくる性急なMoroder調シンセがこのトラックのエッジをさらに押し上げる。"Kisloty People" は悪魔的なまでにキャッチーであり、コペンハーゲン産テクノを偉大な存在たらしめたクレイジーなエナジーが満ち溢れている。このトラックは中毒性がありながらも忘我的なまでに楽しく、モンスター的なフックを備えたテクノトラックとして例外的な歓喜をもたらす。

"Kisloty People" はある種のビタースイートでもある。Клубが閉鎖に追い込まれた2カ月後にリリースされた "Kisloty People" は特定の時間と場所、そこで鳴らされていた音楽、クレイジーな瞬間などあらゆるものを示す異物でもあるのだ。Клубの共同設立者であるSasha Tsereteliが言うところの「Kislotyのフッテージを元にした公式ノスタルジックビデオ」であるこのクリップを観ていると、一度もこのクラブに行ったことがなかったとしてもある種のノスタルジーを感じられるはずだ。

2019年のベストトラックのハイライトはSpotify, Apple Music, Buy Music Club, YouTubeで聴くことができる。

01

ウォームアップ

02

カッティングエッジな音楽

03

ガラージ ＆ 2ステップ

04

サマーフェスティバルのサウンド

05

ピークタイム・テクノ

06

午前4時の仕掛け

07

ビート・サイエンス

08

150BPM以上

09

アフターアワーズ

10

ディープリスニング

11

ヴォーカル・バンガー

2019

トラック・オブ・ザ・イヤー

ガラージ＆ 2ステップ