

RAスタッフが選ぶ、2017年のお気に入りトラック。
いつものように、皆さんの思ったことをページ下のコメント欄に投稿してほしい。そして、2017年の個人的ハイライトを是非シェアしてほしい。ここで紹介したトラックのプレイリストは、Spotify、Apple Music、YouTubeで視聴可能だ。
どのObjektのトラックにも言えることだが、”Theme From Q”もまた、熱心で徹底したスタジオでのセッションの賜物のように思われる。しかしこれほど、ObjektことTJ Hertzがスタジオで楽しんで製作したように感じられるトラックは今までに無かった。耐え難く魅力的なオルガンリードから始まり、空想上のベルリンのクラブで流れるクラシックなブレイクビート、『となりのサインフェルド』のテーマ曲風のスラップベース、というバックグラウンドストーリーが見えてきて、どれもこれもが良きレイヴ時代を思わせる。123BPMというDJフレンドリーなテンポも手伝い、今年一年は、数多のダンスフロアにこの曲のヴァイブが届けられたことだろう。
今年、Yaeji以上に大躍進を遂げたアーティストを探すのは難しいだろう。ブルックリンを拠点とするシンガー兼プロデューサーYaejiは、たった2枚のEPで音楽おたくから一般リスナーまでを含むファンベースを獲得した。何故彼女がこれほどクロスオーバーした層に訴えかけるのかは、このトラックによく現れている。タフながら柔らかなトラップビート、官能的なメロディとコーラスは、何日も頭の中に残るに違いない。"Drink I'm Sippin On”は、賑やかなハウスパーティーから、気取ったクラブパーティーまでロックするトラックだ。
ミニマルハウスの中には、その削ぎ落とされたサウンドにも関わらず、クレーター級のインパクトを残すトラックがある。聴くと即、耳に残るベースラインが入った "Chalzedon”もそんなトラックのひとつ。DJとしてダンスフロアを熟知した経験をキラートラックへと作り変えられるアーティストによるトラックだ。
Shinichi Atobeは、最新アルバム『From The Heart, It's A Start, A Work Of Art』のオープニングを飾るこのトラックに、これ以上ないほどぴったりのタイトルをつけた。トラックを美しく飾る切望、喪失といった感覚を捉えているだけではなく、アレンジメントのシンプルさにも言えることだろう。4度のコード進行が、キックドラム、ハイハット、ほんの少しの彩りを添えるメロディだけで構成された10分間にも及ぶループを邪魔することなく完璧にはまっている。
現在のクラブミュージックの中にあるドラムの音の中でも、最も興味深い音が収められているトラックだ。パーカッシブなバイレファンキのリズムにおおよそ基づいてはいるが、このブラジルのプロデューサーSuperficieが挑んでいるのは、オーガニックな質感とシンセティックな質感のぶつかり合いだ。未来的なサウンドデザインと、思わず踊らずにいられないグルーヴ感の希少なコンビネーションは、台頭する南米のクラブシーンから今年現れた音楽の中でも、最も記憶に残るトラックのひとつだ。
Ricardo Villalobosが、このDekmantelでのヒット曲をスピンする映像がインターネットに流れた途端、Facebookはメルトダウンを起こした。メキシコのプロデューサーSakroは陰影のあるディープハウスでよく知られてきたが、この"No Time To Explain”は、打ち鳴らされるビートとマッシヴなベースライン、どこまでも上昇し続けるシンセで、まさに2017年のダンスフロアを”破壊”した一曲だ。
Camille from OHMとは誰なのか、また、彼女がこのMachine Womanとして知られるベルリンのアーティストの大ブレイクを果たしたトラックにどんなインスピレーションを与えたのか、我々には知る由もない。だが、この歯切れ良いドラムの上に漂う、曖昧かつ高揚感のあるコードを聞けば、きっと誰もが彼女に恋してしまうだろう。
S.A.M.ことSamuel André Madsenは、現在4つ打ちのクラブトラックを作るアーティストとしてはベストに数えられている一人だが、それは彼が、なかなか併せ持つことが難しい2つの側面でそれぞれ、高いクオリティを誇っていることが大きい。彼の音楽は艶やかであり、かつエモーショナルな意味で機能的だ。Orbitalの楽曲と遠くで呼応するような、天空へのトリップを思わせるテックハウスである ”Pour Aisha”では、それが本当に強く感じられる。11分間聴いていても、終わるのが早すぎると思う程だ。
フィルターのかかったパーカッションのループにビッグなキックドラム、そこに少々足しただけの曲が、今年大人気になった曲のひとつに挙げられる、そんな音楽シーンの中に我々はいるのだという奇妙なプライドがある。その通りだ。この曲は強烈なシンプルさそのものである。PangaeaによるLoleatta Hollowayの声のマニピュレーションと、うねるようなトラックのアレンジメントは、どちらも賞賛に値するものだ。この曲を聴くことで、我々のフェイバリットトラックには毎年のように、こうしたシンプルで飾らない美しさのある曲があったという事も再認識させられる。
"Routine”ほど、Skee Maskのオールドスクールなビートへの偏愛が感じられる曲もないだろう。Skee Maskにとっては2017年2枚目のEPとなった、ドリーミーなブレイクビートのトラックだ。繊細なシンセとパタパタしたドラムは、レーザー光線のように鋭く、内省的なプロデューサーの技を感じる。もしブレイクビートを聴いて涙したことがないのなら、このトラックこそがその一曲だ。
これまで僅か2つのリリースしかしていないにも関わらず、このフランスのアーティストCoucou Chloeは、2017年のクラブミュージックの優れた部分を代表する好例とも言える。彼女は”Stamina”EPで、エクスペリメンタルクラブの冒険的な精神と、ヒップホップ的な態度を引用し、奇妙であると同時に奇妙な程聴きやすい音楽を作り上げた。”Stamina”はEPの中のハイライトとなる意欲に溢れたトラックだ。
Samuel Kerridgeは、時にはアンビエント、またある時はえぐるような、挑戦的なノイズトラックで、シーンに数年前に乗り込んできたプロデューサーだ。最近はより動的なサウンドに移行し、”Possession/Control”でもその本領を発揮している。150BPMに迫るテンポで、鋼鉄の空間に大量のゴムボールがなだれ込み、辺り一面で跳ね回っているような画が思わず心に浮かぶ。Kerridgeが達したエキサイティングな新段階の訪れを告げる驚異的なトラックだ。
耳に残るメロディ、粘っこいヴォーカル、揺れるツーステップのビート。"Drive”にはなめらかなUKガラージュのすべての要素があるが、ひとつだけ違うのは、イーストロンドンのどこかの地下室ではなく、今素晴らしいダンスミュージックが生まれているデンマークの街オーフスからやって来たことだ。2017年は90年代への先祖返りのような音でいっぱいだったが、これほど洒落たものは中々ない。
Batuの音楽はイマジネーションにも、ダンスフロアにも火を灯す。現状、彼の最高傑作といえるトラック”Marius”は音波で作られた豊かな庭園のようで、非対称なトーンとリズムのレイヤーで満ちている。サブベースのブレやドラムのクラスター、チリチリとしたデジタル音など動きのある部分は、時計の機械のように複雑だ。豪華なチャイムのメロディが入ってくるブレイクダウンでは、まるで時が止まったかのように感じられる。
シンセに満ちたクラブ向け兵器といえる”Dubelle Oh XX (JVIP)”は、グラスゴーで、とある雨の夜に起こった論争への直接的な返答だ。トラックの全てをひっくり返す地殻変動のようなドロップは「fuck you」を意味する。しかし一番奇妙なのは、Jackmaster(このヴァージョンを突きつけられた張本人)が、どうしてもこのドロップのパートを残してほしいとSultaに頭を下げて頼んだということだ。
1978年にリリースされた"Praise-Jah”は、ゴスペル、ソカ、ディスコの珍しい融合がみられるトラックだ。心にしみるJahへの賛歌だが、ただ宗教的なものに寄っているわけではなく、ピヨピヨした電子音や楽しげなヴォーカルによる呼びかけ、リッチなファンク風キーボード、ざらついたシンセ、そしてコーラスで、聴き手の魂も思わず高揚する一曲。
RAのスタッフが今年を振り返る記事で論じていた通り、エレクトロは今年、エレクトロニックミュージックの周縁部からセンターに躍り出た。スコットランドのアーティストGalaxianはこの復活を劇的に早め、エキサイティングなものにしたアーティスト達の一人だと言えるだろう。"Dosing The Population”は緊迫したアンビエンスと目まぐるしい程速いBPMで、クラシックなエレクトロにあった偏執的な気風をレトロな文法に依ることなく呼び起こしている。
"Motion Keeper”は美味しいスラッジ(※)まみれのディープテクノである。どの面もオイルでなめらかで、粘りのある低域から中域に至る中身までなめらかだ。Holly Dickerが数ヶ月前に「とても立ち去りがたい、水中のような、胎内のような空間」と書いた通り、我々もまたその時から漂い続けている。(※スラッジ…とろみのあるクリーム状のデザート菓子)
丸10年間リリースがないまま、Antonio GiovaとValerio Gomez De Ayalはきっと、DJとして小規模ながらも熱心な人々からの支持を広げている事に満足しているのだろうと思っていた。しかしここにきて、かのTikitaからドロップされたEPは、彼らのセットの素晴らしい部分を全て要約したような作品だった。このタイトル曲には特に、彼らの打ち出すテクノにある、深みと震えるようなアトモスフィアがよく表れている。
最近公表されたRadar Radioのビデオで、ニューヨークのアーティストEmbaciはKleinに対し、Kleinが初めて"Cry Theme”をプレイしたときに互いに交わした会話を思い出しながら「こんなことが出来る人はなかなかいない」と語りかけている。"Cry Theme”は、Kleinがリリースした「Tommy」EPの収録曲の中でもずば抜けた曲だ。誰かの感情をここまで強く動かしながらも、それでいてとても掴み難い曲は、近頃の音楽の中では中々見つけられないものだ。これは、Kleinの音楽、特に"Cry Theme”の中に、何か純粋に革新的なものが存在していることを示しているのではないだろうか。
今年リマスターを経てリイシューされた、Kirk Degiorgioの1996年作のこのトラックは、まさに今、Photekへの評価をいちジャンルの匠から時代を先取りしたプロデューサーへと変えた。テクノとドラムンベースをシームレスに、やすやすとつなぎ、Photekのその後のハウスやテクノへの転向を予見したトラックだ。もちろんこのトラックそのものが、彼のカタログの中で燦然と輝く宝石のような作品だと言えるだろう。
アイルランドのプロデューサーによってMetalheadzからリリースされた、愉快なほど激しいダブルEPは、130BPMのブロークンテクノと呼ばれた頃のオールドスクールなドラムンベースを思い起こすものだった。しかし”Claws”はよりトラディショナルだ。そしてもっと大切なのは、2度の凋落を経験した、低く評価されている芸術からの教訓だ。こうして暫く振りのカムバックを果たしたからには、もしこれを聴いて思わずエアドラムを叩き始めないとしたら、君のほうがどうかしている。
がたがたとしたドラムが、変わったヒップホップのようなリズムを作り出すものの、BPMは128である。万華鏡のようなパターンにチャイムが渦を巻いて入り込み、方向感覚を失い目眩がするようなこのトラックを作ったのは、Leif Knowlesだ。以前からシュールなグルーヴとテクスチャーを生み出す匠として知られているが、"July V”はまさに自己ベスト更新の一曲だ。
Kieran Hebdenが今年リリースした楽曲の多くと同様、"Question”は予想もしなかったところから現れた。ロンドンのレコードストアPhonica RecordsとSounds Of The Universeの棚に白盤として並んでいたのだ。James Brown級に狂乱した燃え上がるようなソウルの側面は、ダンスフロアの純粋な熱狂そのものであり、Dekmantelのメインステージはもちろん、地元のパブにもはまりそうだ。Hebdenから届いたダーティーで即効性あるDJツールとでも言うべきこのトラックは、ダンスミュージックの大物スターの一人がシンプルに楽しんだ結果(そしてすっかり夢中になってしまった結果)だ。
新しいレコードを発表するたび、Minor Science(RAのライターAngus Finlaysonの別名義)はもっと高いレベルを追い求め、クラブフレンドリーなフロウを保ちながらも、どこまで慣習を打ち破れるかを試してきた。Whitiesから発表された最新の12インチの収録曲”Volumes”は強力なAサイドトラックで、クラブフレンドリーさと新奇さの両極に根ざしながらも踊れる曲になっている。ダンスミュージックにおける実験性がどれほどパワーを持つか疑問なら、この曲のブレイクダウンでクラブがどう反応するか見てみてほしい。
Bullionこと、本名Nathan Jenkinsは、過去数年にわたりエレガントな80年代の音に没頭し、ギター、ヴォーカルサンプル、ヴィンテージシンセを融合させたレフトフィールドなダンス曲を作ってきた。今年のThe Trilogy Tapesからのリリースは海を意識したものとなり、活気に満ちたピークに達した。もはや”Blue Hawaii”と呼んでも差し支えないだろう。かつて聴いたことがない程、この上なくキャッチーなスペースディスコの海の家を思わせる。
いくらコズミックディスコがスポットライトから外れたように思えても、Powderがこのスタイルに於けるモダンな傑作をリリースするのは止められなかった。明るく、スペーシーで、一見複雑な印象の”Heart”は、今年の他のリリース曲と同様、ハーモニーを用いたトラックだ。上昇するシンセが聴こえてきたら、ヘルメットのストラップを締めるタイミングだ。忽ちのうちに宇宙へと突入する。
今年一番、予想外のコラボレーションと言って差し支えないだろう。ドイツのダブテクノの神による、ジャマイカのプロダクションデュオEquiknoxxのトラックのリミックスだ。Ernestusは、オリジナルの明るいテクスチャーと角度の強いコントラストをなめらかにする一方で、楽しげな雰囲気や予想のつかないリズムはそのまま残した(さらに、相当の量のサブベースを投入している)。ダンスするにはトリッキーな曲だが、冒険的なクラウドがもっとおかしなものを求めている時にDJをするなら、この曲をかけて彼らがどうなるか、是非見守ってみてほしい。
この22分間に及ぶ長編を作るにあたり、カナダのアーティストKara-Lis Coverdaleは、Reich風のミニマリズムと彼女流のエレクトロニックの扱い方をつなぎ合わせるための手法を洗練させ、追求した。その結果は、素晴らしく、斬新で、しかもリラックスしたものとなった。"Grafts”は音楽的な伝統を己の手で美しいタペストリーへと作り変えた作品だ。
ブリストルを拠点とするアーティストParrisの音楽には、”間”に対する官能的な感覚が感じられる。Parrisはイギリスのクラブサウンドが力強く残してきたものを持ったアーティストだ。彼のレコードのどれと比べてても、このHemlockからのリリースほど削ぎ落とされたものはないだろう。ParrisはHemlockのリリースに魅せられてダンスミュージックを作り始めた。鳩が鳴くようなパッド音、ゴボゴボとしたシンセ、肉体を失ったかのような囁き声など、僅かな要素で作られたトラックだが、今年最も「less is more」という格言に真に迫ったものだと言える。
すでに素晴らしい名曲をどのようにリミックスすればいいのだろう?Avalon Emersonの手によって”Furiously Awake(猛烈に覚醒してる)”なヴァージョンになったOcto Octaの"Adrift”はまさに、一番良いところ(憂鬱なリードとドローン音の軌跡)だけを少量残して、残りは思いっきりクレイジーにするという、この疑問へのお手本的な回答だと言える。エネルギーに満ちたハンドドラムとブレイクビーツを加えることで、すっきりとしたディープハウスである”Adrift”を、地平線に立ち込める嵐を呼ぶ暗雲を思わせる、イギリス流の不穏さに満ちたトラックに変えた。
Future Timesの片面12インチシリーズは、どのリリースも基本的に「その場で買う」というものにした点で非常に粋なものだった。シリーズの最新作でも彼らは期待を裏切らず、歯切れ良いブレイクビーツと多幸感ある90年代風ハウスのサンプルが展開する7分間のトラックは、瞬く間にその場の温度を上げていく。
あらゆるテンポで鳴らされる、おどろおどろしくも尖ったドラムがフィーチャーされたリリースが数作続いたのち、Forest Drive Westは原点に立ち返り、4つ打ちの強力トラックを届けてくれた。"Static”は大鎌で刈ったようなクラップ音と、今年一番のベースラインを巡る競争にもエントリー間違いないベースラインで、シンプルに良いテクノそのものとなっている。
思うに、Errorsmithは、自身のことをこういう人間(「僕は面白くて、陽気で、社交的な人間です」の意)だと思ってこんなタイトルを付けたわけではないだろう。が、よく考えてみると、これほどワイルドでオリジナルな音楽が「面白くない」わけがなく、気が狂ったテクノとダンスホールのような曲が「陽気でない」とは言いがたく、こんな抱腹絶倒のトラックが「社交的でない」はずもないのだ。
Shanti Celesteが以前、Idle Handsとパートナーを組んだときにリリースされた美しいディープハウス曲”Days Like This”は、新たな才能の登場を知らせるシグナルとなった。それから3年が経ち、同レーベルへの復帰作となった"Make Time”は、おそらく彼女がこれまで作ってきたものの中で最高のレコードだ。生き生きとしながらもメランコリックなこのトラックは、2017年で最も切ないダンスフロアヒットだと言えるだろう。
OPNことDaniel Lopatinの最近の作品の多くは、哀愁というものをシンセティックに描き出した肖像画の域に達している。彼はこの胸が張り裂けそうなトラックを、日本の巨匠が今年リリースしたアルバム『async』のオープニングトラックを用いて制作した。OPNはこの機会に際しても、デジタル琴や壮大に広がるシンセ、荒涼としたリヴァーブなどいつも通りのやり方を用いて、失恋したアンドロイドを想起させる曲を作り出している。
「ハイ、元気? 私、踊ってるの」。Regularfantasyによる無表情なヴォーカルをフィーチャーした、D. Tiffanyによる恍惚としたハウストラックは、ダンスフロアで無理に話しかけられた時の無感動な感覚を完璧にとらえている。今年一番控え目ながらもキャッチーなグルーヴを持つこの曲にとっては、ちょっと茶化した台詞になっているかもしれない。
Joeは2年おきに現れては、僕らを踊らせるような、もしくは困惑させるようなサウンドを発表する。”Tail Lift”は、制御不能なレフトフィールドに、いかれたサウンドエフェクトをぶち込んだ強烈な曲だ。
彼の同業者達が90年代のテクノやエレクトロにインスピレーションを求めている一方、Phil Evansにとっては初となるraum...musikからのEPでは、彼はまたそれとは別のミニマル界のイノヴェーターをチャネリングしたかのようなサウンドを見せた。2017年のベストミニマル曲のひとつでる”Saniti”は、子守唄のようなメロディにシャッフルするハイハットが、Thomas Melchiorの影響を強く感じさせる。Evansにとって素晴らしい年となった今年の作品の中でも、さりげないヴォーカルとパーフェクトなグルーヴによって際立った仕上がりの一曲だ。
キックは124BPMながらも、"Born Of Ashes”は2017年で最も凶悪なテクノトラックだ。Ancient Methodsのように骨太な音とファンクをブレンドできるプロデューサーはいないだろう。7分間に及ぶレッキングボール(建物解体工事用の鉄球ハンマー)のようなこの曲ほど、彼のサウンドを表すのに良い例はない。シンセがオーバードライブし始めて半分もいかないうちに、ダンスフロアは爆発するだろう。
「Done this before(前にもやったことがある)」という声から始まる"Noshow”は、Perlonの主要メンバーであるDouble Standard、Zip、Markus Nikolaiの3人によるコラボレーションである。Perlonは過去20年にわたり、クラブミュージックには珍しいユーモアや、アヴァンギャルドな雰囲気を持った風変わりなエレクトロニクスで、我々を何度となく驚かせてきた。カートゥーンのようなメロディや、さりげないリズムの入ったこの異界的なチルアウトトラックは、これまでのPerlonにはあまり見られなかったものだ。”Noshow”は、これ程長い間活躍しているPerlonにも、まだまだやる事が沢山あるのを提示するトラックだ。
Príncipeから初のリリースとなったDJ Lycoxの『Sonhos & Pesadelo』からは、できることならもう数曲紹介したい程なのだが、なかでも特に、太陽をいっぱいに浴びたようなトラック”Solteiro”には、何かしら我々の心に残るものがあった。シンセとサンプルのスムースさに美しくブレンドされたラフなパーカッションは、夏のリスボンのうだるような夕方を思い起こさせる。このEPにある雰囲気とスタイルのディープさは、今年のPríncipeの他のリリースにも共通している点だが、リスボンのアフロ・ポルトギースなクラブミュージックシーンが持つクリエイティビティの深さをよく表している。
「んーーーー!ポゥ!ディン!」というのが、この素敵に奇妙なEPのハイライト部からの引用である。TripとPTUは今年より一層強く、すでに30歳を迎えたテクノという処方箋に、まだまだ多くのオリジナリティが残されていることを提示した。”A Broken Clock Is Right Twice A Day”は1分間に146回ものビートに、生真面目なキックドラムと気がおかしくなりそうなショット、そこにルードなベースラインを入れて、ルールを破った怪作だ。
ブレイクコアとドラムンベースのベテランプロデューサーChristoph De Babalonは、Thom YorkeとAlec Empireまでもが自身のファンベースに居るほどだ。そう思えば、彼の最新作のA面がこれほどまで良いのは当たり前の事とも言えるだろう。160BPMの中にあって不可能なまでに複雑にアレンジされたドラムのパターンは、宇宙を飛び交う小惑星のようで、いわゆるコズミック・ドレッドな雰囲気が感じられる。聴いている最中は、どうぞ迷子にならないようにお気をつけて。
ベルファストのデュオBicepは、ダンスミュージック界の奥深くに隠されている技、すなわちクラブトラックをポップな層にまで広めることににかけては、正にマスター級の腕を持つアーティストだ。今年RAがリコメンドした彼らのデビューアルバムの収録曲の中でも、”Glue”はずば抜けたトラックである。今年最もエモーショナルなヒット曲となった本トラックは、Bicepによる「レイヴ時代へのオマージュ」であり、じわじわと広がるパンチの効いたブレイクビートの断片が見え隠れする。Joe Wilsonによるビデオで、このトラックをフルに体験してほしい。
Kyle Hallは今や、ヒッピー時代にしっかりと己の立ち位置を決め、今年自身唯一のリリースとなった7インチ”Eutrophia Sevan”のライナーノーツでは、サイケデリックスとスイートポテトの美徳を讃えている。"Teacher Plant”では、温かみのあるローズピアノ、白昼夢のようなシンセ、ループするベースラインでグッドトリップが続く。このトラックにも感じられる力の抜けた音楽性は、現状最新のアルバムである『From Joy』にあるブロークンビートの基盤の上に改良されていったもので、このデトロイトのプロデューサーの確かな進化を示した指標といえるものだ。
充実したディープハウスEP「Cave Jams Vol. 1」でDana Ruhがみせた、ウォームアップからピークタイムへの移行は、混雑したダンスフロア向けに作られたような印象を受ける。”Go Hmmm!?”ではそれが最もよく現れていて、ジャジーなシンセとベースラインが力強く、まるで一晩中踊れそうな程のグルーヴを作り出している。
『Utopia』はBjörkが如何にして再び心を開き、愛するかを学んだのかというストーリーが語られたアルバムだったが、”Blissing Me”はなかでも最も柔らかな瞬間を感じるトラックだ。歌詞では、興奮、緊張、不安感といった、Björkが戸惑いを感じていた交際期間に付随する感覚を描き出している。「この行き過ぎたメッセージ交換は祝福なの?/2人の音楽おたくは悩み続ける」。Björkは美しく飾られたハープとオルゴールの音色と共に、メッセージテキストを打つ音を荘厳なサウンドへと変えている。
"Elevate (Go Off Mix)”には、変則的なブレイクビーツ、心地よいカリンバが描く螺旋、涙ぐんだようなピアノコード、天使のような雰囲気のパッドなど、特筆すべき点が沢山ある。中でもエモーショナルな部分のコアとなっているのが、全編を通して全てが輝いていることである。ダンスフロアで流れる”Elevate (Go Off Mix)”は涙を誘いながらも、それと同じくらい笑顔も呼び起こすだろう。
“Touch Absence”では、ルードなエレクトロビートに天使の合唱のようなシンセが付随する。この厳かで神聖な雰囲気のトーンはAFXとBjörkが耽溺してきたもので、さながらLanark Artefaxこと若きCalum MacRaeを、かの『Artificial Intelligence』の王座を継ぐ正当な後継者とする戴冠式を思わせる。
これらトラックのプレイリストは、Spotify、Apple Music、YouTubeで聴くことが可能。
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