Label Of The Monthのインタビューで頻繁に聞いている質問がある。意図せずその質問を尋ねてしまうのだが、大抵、似たような答えが返ってくる。「リリースする作品の共通点は何ですか？」「うーん。答えるのが難しいな。すばりこれだとは言えないけど、何かしら共通点があるのは確かだ」と言いながら深く腰掛けていた椅子から体を起き上がらせる、という具合だ。Brian Durrと共に東京を拠点とするレーベルDiskotopiaを運営するMatt Lyneと、東京の中目黒のバーで飲んでいた時も、私は同じ質問をした。そして、彼もご多分に漏れず、次のように答えを返した。「不思議なんだ。俺たちがやってきたことには明らかに共通したサウンドがあると思うし、中にはかなり異質なリリースもあるけど、それもひっくるめたすべての作品を通じて共通点を感じ取ることができると思う。だけど実際にそれを言葉で表すのって本当に難しいね」

Diskotopiaがスタートしたのは2011年のことだ。どのようなタイプの音楽をリリースするかについては特定の取り決めは設けられていなかった。LyneとDurrのふたりはこれまでに27枚の作品をリリースしてきた。その音楽のスタイルは、ドリーミーなダウンテンポから始まり、完成度の高い攻撃的なグライムへと進み、そのふたつの間にある広大な領域をカバーしている。一見しただけでは、ダンスフロアに緩くフォーカスしていること以外には作品の共通点はそれほど無いように思えるが、レーベルのファンになっていくにつれ、実際には非常にハッキリとした音楽観があるということに気が付くようになった。

もし、あなたがDiskotopiaを知って間もないならば、Durrの制作名義であるBD1982やMyakkahから聞き始めることをオススメする。ひっそりとではあるが、彼はDiskotopiaから素晴らしい作品のリリースを重ねてきた。特にEP「Warehouse Soul」を自慢に思っていると、Durrは語ってくれた。このEPには、Myakkah名義によるヘビーなボトムのハウストラックが収録されている。私の個人的なお気に入りはBD1982名義による「Casings」だ。数多くのアイデアが溢れる7曲入りのEPである。Durrには様々な要素を一度に聞かせることのできる才能がある。「Casings」で特に際立っていた”Cassava”は、その時の気分によって、ハウスに聞こえる時もあれば、グライム、もしくは、IDMに聞こえる時もあるトラックだ。

そして、その次に聞くべきは当然、A Taut LineやGreeen Linezといった名義で発表されるLyneの音楽だ。Greeen Linezは彼の友人であり、11歳の時から音楽制作をしているというChris Greenbergとの共同プロジェクトだ。Greeen Linezの楽曲もDiskotopiaの他作品と同様、リラックスしたムードが漂っている。今週、発表されたLP『The Calm』では、BPM100以下の至福のバレアリックサウンドに加えて、じっとりとしたハウストラックが等しく収められている。A Taut Line名義では通常、よりクラブ仕様のダーティーな音楽が制作されている。4月に発表された同名義によるセカンドアルバム『Mutual Prints』は果てしなく独創的な作品だ。収録された12曲は音色の面で類似性はあるものの、テンポやリズム、演奏法といった要素はトラックごとに激しく変化している。

LyneとDurrは、ふたりのテイストにおける共通点の中でも、ジャングルが重要であると語ってくれた。「Reinforced、Metalheadz、Virus、31 Recordingsといったレーベルは、10代の頃、いつものように聞いていたよ」とDurrは語る。A Taut LineやBD1982のいずれの名義においてもジャングルの高速なテンポで制作は行われていない。しかし、このジャンル特有の恐怖感と光と影の陰陽のバランスという点で、彼らの好みは共通している。LyneとDurrは2009年に東京で出会い、ジャングルに対する好みを通じて繋がり合い、共にレーベルを始めることを決意した。英国出身のLyneは当時、英語を教えていた大阪から東京に引っ越してきたところだった。米国出身のDurrは京都とニューヨークで生活した後、東京に移り住んでいた。「ふたりがブッキングされたイベントで知り合ったんだ」とLyneが語る。「普通に会話をして、他のイベントでも一緒にプレイして、次第に仲良くなっていったんだよ」

Diskotopiaという名前はLyneが2005年に大阪で始めたイベントに由来している。察しがつくかもしれないが、そのイベントではディスコとファンクが中核を成していた。しかし、そのふたつの要素はテクノやハウス、ジャングル、そして、エクスペリメンタルと一緒に混ざり合ってプレイされていた。「ひとつのジャンルだけにはしたくなかった」とLyneが語る。「後悔はしてないけど、その結果、俺たちは少し孤立することになったと思う。なぜなら、みんなは俺たちのイベントをどういう風に捉えればいいのか分からなかったからだ。特に日本は、物事を決まり切った見方で捉える傾向がある。俺たちはそうした固定概念に当てはまらず、その間にある割れ目に落ちていってしまったんだよ。さらに、日本人ではないということは、俺たちは日本のシーンの一部になれないことを意味するんだ。俺たちは常にシーンの少し外側にいることになったんだよ」

Lyneは日本について「矛盾のある場所」と語る　－　私が日本を訪れている間に何度か聞いた言葉だ。彼が例として挙げたのは、人々は外国人である彼や他の外国人移住者に対してとてもフレンドリーに歓迎してくれるのだが、「同時に、本当に日本人になれることもなければ、社会組織の一部として扱われるようにもならない」ことだった。「みんなは常に同じ質問をしてくるんだ。俺にもいまだに『箸は使える？　イギリスにはいつ戻るの？』って聞いてくるよ」

大阪、そして、後に東京でイベントを主催していく中で、Lyneは日本のナイトライフにおいて微妙ながらも決定的な違いに気付くことになった。「（日本の）若い人たちはヨーロッパと同じような感覚でクラブに興味を持っている訳ではないんだ」と彼は語る。「例えばイギリスでは、クラブに行くことは日常的な行為でしょ。パブに行っても、昔からの許可制度のせいで23時には店が閉まるから、金曜の夜なんかはクラブに流れることになる。クラブでプレイされているのが良い音楽なのか安っぽいBritney Spearsなのかは関係ないんだ。でも日本ではそうした文化は根付いていないんだよ。なぜなら24時間営業の文化があるからなんだ。朝の5時まで一晩中営業しているカラオケがあれば、同じく5時まで開いているバーもある。飲み食いできる居酒屋もあって、一晩中開いている。クラブに行く以外の選択肢が常にあるんだ。そして、若い人たちはそうした選択肢を選ぶことが多い」

DurrとLyneのふたりは、日本で生活していることが彼らのレーベル活動に影響を及ぼしていることを認めているが、互いに異なる見解を持っている。「影響という文字通りの意味では、確かに周囲の環境がアートワークの面で少し影響を与えることもあるけど、必ずしも常にそうである訳ではない」とDurrが語る。「この国には今でも信じられないくらいレトロフューチャリスティックな環境がどこかに隠れているんだ。その点に関しては常に刺激的かも」

「日本に関してポジティブに思えることのひとつは、日本人は文化の取り入れ方が変わっていることで、他の国々とは違うコンテクストで物事を語ることが多いんだ」とLyneは語る。「その点にはすごく影響を受けるよ。その現場を目にしたら『それは変だよ。おかしいよ。それはダメでしょ』って言いたくなる。例えば、『僕のお気に入りのバンドはOasisとアイドルグループのBlueです』とは絶対に言えないでしょ。イギリスにいる人がそんなことを言ったら、『あり得ない！』ってなるよね。そういう感覚なんだ。でもその内、『待てよ。そういうのってありかも？　通常のコンテクストとは違う感じで組み合わせてもいいんじゃない？』って思うようになるんだ」

こうした考えはDiskotopiaが音楽をリリースする仕方にも表れている。SlackkやVisionist、そして、Rabitのリリースを通じて、Diskotopiaは、この数年、ロンドンを含む様々な場所で盛り上がりを見せるインストゥルメンタル・グライムの新たなムーブメントから生まれる音楽を発表する極東の拠点になろうとしている　－　Lyneにインタビューする前までそのように思っていた。しかし、彼が話すには、彼とDurrがそうした音楽に飛び付いたのは単純に、その奇妙な感覚を気に入り、アーティストたちとの関係を有機的に築き上げていたからだった。

逆に、彼らがリリースしてきた音楽の中で、最も日本で注目を獲得したのはGreeen Linezのファーストアルバム『Things That Fade』だったとLyneは語っている。LyneとGreenbergは80年代における日本のバブル期に生まれたポップミュージックに感動し、自らの音楽に取り入れるようになった。「日本人にとってとてもノスタルジックなものだったから、彼らにはすごく身近に感じられたんだ」と彼は語る。「比較的若い世代の外国人ふたりが日本の80年代アイドルの音楽をサンプリングしながら制作しているんだ。最初、日本の人たちはそのことを面白がったんだと思う。おかげで俺たちの存在はそれまでよりも確実に知られるようになったよ」

Diskotopiaから作品を発表している日本人アーティストのひとり、Fujimoto Tetsuroは、2013年にEP「Sketches Of The Other Tokyo」をリリースした。Machinedrumの心地よいアップテンポのトラックを彷彿させるものだったが、そこには90年代のR&Bの要素が注入されていた。今年に入ってからは、じっとりとした薄暗いハウストラックを制作するロンドン在住のポルトガル人プロデューサーSilvestreによる傑作「Frank Pile」と、ロシアの多才なアーティスト、Computer Graphics（aka Pixelord）による「ソビエトの社会科学映画、アニメ、過ぎ去った時代のカセットテープ」からインスパイアされたEP「CCCP」が発表されている。

極めて異なるレーベルをふたつ挙げることになるが、PANやNumbersといったレーベルがしっかりとコンテクストに沿いながら広範なスタイルを持つ音楽を発表しているように、Diskotopiaも完全に異なったトラックが広範なひとつのまとまりの一部として感じられるようなプラットフォームを築き上げてきた。こうしたレーベルのケースにおいて唯一の不変なことは、リリースする作品をキュレートする人物の存在である。そのため、リスナーが耳にすることになるサウンドの「筋道」（そして、コンテクストを明瞭に保つための苦労）は、おそらく、単純に好みの表れだと言えるのではないだろうか。Diskotopiaの世界における共通点とは何なのだろうか。東京のバーに訪れた夕方の喧騒の中、Lyneは再びこの問いの答えを言葉にしようと試みた。「先を見つめたサウンドではあるけど、同時に、過去にも繋がりがあるものが多いと思う。サウンドが少し変で、少し新鮮で、少し新しいけど、どこか引っかかりがあって『ジャングルのあの名曲を思い出すなぁ』とか、『あのハウスの古い曲を思い出すなぁ』ってなるような感じかな」

Diskotopia LOTM mix

A Taut Line名義によるMatt Lyneの既成概念にとらわれないミックス。Diskotopiaが持つ多様なムードが披露されている。

Download: Disktopia LOTM mix

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Filesize: 150.3 MB
Length: 01:02:38

Greeen Linez - Australasia
A Taut Line - Returnee
A Taut Line - Dunes
A Taut Line - Stait Foreign Country
BD1982 - Casings
Computer Graphics - Virtual Race
BD1982 - And You Kno
Silvestre - Flash Fashion Design
BD1982 - Obeah Mirror
Myakkah - Eyes Up
BD1982 - Spatial
A Taut Line - Shimoda No Odoriko
Computer Graphics - Downloading
BD1982 - Writuals
Mau'lin - Octopus Arm
Serifu - Said Situation
A Taut Line - In This Heat (Fotomachine Remix)
Slackk - Act Nine
Mau'lin - Function Open (Am Rhein Remix)
Mau'lin - Starbeast
Fujimoto Tetsuro - In The Soil
Visionist - Survive
Rabit - Sunshowers