「Keysoundという名前の由来は、音楽そのものにある。それは、俺たちが住んでいるロンドンで起こっていることを反映している音楽だ」。これは、2005年6月にDusk + Blackdownのレーベルが発足した時に投稿されたブログの記事の一節だ。設立から現在まで、Keysoundに何年も一貫して共通していることがあるとすれば、それは「ロンドン」だ。このレーベルのカタログは、ロンドンにおける過去10年の音楽史だと言える。大バコやメインストリームの文脈を通じてではなく、小バコ、空きビル、海賊ラジオ放送を通じて、彼らの音楽は進化／変異を繰り返してきた。Hyperdubと並んで、様々なスタイルへと拡張していくイギリスのダンスミュージックの一翼として、Keysoundが何度も生まれ変わることができたのは、こうしたアンダーグラウンドな姿勢を保っているからだ。

BlackdownことMartin Clarkは、強い影響力を持つ音楽ジャーナリスト／プロデューサー／DJだ。彼は、2000年代初頭にイギリスで起こっていたエレクトロニックミュージックにフォーカスした雑誌の制作に携わっていた（Hyperdubという名前のその雑誌は、同名のレーベル名が発足する以前から存在していた）。以来、Clarkは文章と音楽を通じてロンドンのシーンを探求し続けている。当時、Third BaseやPlastic Peopleといった成長期にあったクラブで流れていたのは、様々な要素を含む都市生活における矛盾を反映した音楽だった。そうした音楽を通じて、彼はロンドンにおけるダークな方向性を追いかけていた。ロンドンという街には、喜び、不安、苦悩、祝福が溢れている。そして、重要なのは、そこにコミュニティが存在することだ。激しくぶつかり合う感情が渦巻くコミュニティこそ、Keysoundの音楽観の礎となったのである。

2004年、ClarkはBlackdown Soundboyという名のブログを始め、間もなくPitchforkでコラムを担当することになった。後にこのコラムは、ロンドンに住む彼の周辺で起こっていたことを綴った記録となる。急速な発展を遂げつつあったダブステップを世界中の読者に紹介していたClarkは、この音楽の台頭における重要人物だった。しかし、将来、彼が偉大だったと語られることになる理由は、絶えず進化を続けるレーベルKeysoundを運営していたことになるだろう。近年のKeysoundは、ダブステップが燃え尽き灰と化してしまったその中からアイデンティティを見い出しているのだ。

Keysoundのルーツは、2000年前後に形成されつつあったダークな空気を持つガラージサウンドにある。このガラージは、最終的にダブステップと変異していくことになるわけだが、2004年のダブステップはまだまだ発展途上の小さなシーンに過ぎなかった。この年、Clarkは、かの有名な「"where is dubstep?"」と題したブログを投稿している。この投稿で彼が書きまとめたダブステップに対する知見は、後にこの音楽のコンテクストと発展におけるキーポイントとなる。

「ボロボロのウェアハウス、薄汚いビル、数え切れないほどのテラスハウス、狂気の夜間バス、スカンク煙る自動車、ガタゴトと音を立て走る電車、至るところから反響音が聞こえてくる」と彼は記している。「ロンドン。この街はダブステップに決定的な影響を及ぼしている」

この投稿では、周囲の環境と共にフィードバックしていく中で生まれるダンスミュージックについて触れている。ClarkがKeysoundと呼ぶものの基盤となっているのは、この周囲の環境であり、Keysoundとは、「トラック全体を支える礎となるループサウンドであり、環境、空間、文化、街を思わせる絶え間ないサウンド」を意味している。レーベルKeysoundの至るところで、この環境からの影響を感じることができる。例えば、作品のカットナンバーはLDN001、LDN002となっている他（LDN = London）、Keysoundが初期にコラボレートしたBurialやTrimたちは、ロンドンという街に取り着かれ、この街のストリートとクラブから生まれる音楽を独自に解釈して表現したアーティストだった。

Dusk + Blackdownの2人が一緒に楽曲を制作するようになったのは、遡ること2001年の話だが、彼らはすぐにKeysoundを始めることはしなかった。2人がリリースに値すると思える作品が生まれるには2005年まで待たなければならなかった。

「『よし。自分たちが納得できる音楽ができたぞ。だけど、この音楽をどうしよう？』って感じだった」とロンドンの自宅からビデオ電話越しにClarkは言う。「当時好きだったレーベルとは上手く折り合いがつかなかったから、自分たちでリリースしなければならなかった。アンダーグラウンドミュージックで起きることの多くには、こういうDIY精神があるよね。自分自身でやらない限り、他に誰もやってくれる人なんていないんだよ」

ダブステップ人気が高まるにつれて、ClarkやDan Frampton（Dusk）の友人たちは、自分たちの手でレーベルを立ち上げるようになった。Mala、Coki、Pinch、Kode9にアドバイスを求めた2人は、DMZ、Tectonic、Hyperdubが誕生する同じ流れに乗ってKeysoundを始動することにした。そして2005年、レーベルにとって最初のリリースとなったのが、”Drenched”だった。

今思えば、”Drenched”には数多くのメッセージが隠されていた。トラックから最初に聞こえてくるのは、ロンドンの地下鉄の騒音と、電車のドアが閉まる時の甲高いノイズだ。その後トラックに加えられるダブステップのビートは、結果的に、ロンドンという街のサウンドの中に埋め込まれた状態になる。以降、Dusk + Blackdownがリリースする一連の作品は、同様のアイデアと世界観によって、ロンドンをパーソナルな視点で捉えたスリリングな景色を描き出している。周囲のアーティストたちが、独自のサウンドを見い出そうとしていた時、FramptonとClarkが模索していたのは、やはりロンドンだった。2人のトラック”Lata”のサウンドは、ターンパイク・レーンのマーケットを歩いている時のそれであり、”The Bits”でのサイノグライムに影響を受けたとげとげしさは、薄汚い地下鉄に乗っている時のそれだ。さらにこのトラックでは、若かりし頃のTrimのMCがフィーチャーされている。

ダークでムーディーなトラックと同様にKeysoundが重要視しているのは、ビジュアル面におけるアイデンティティだ。彼らが12インチをリリースする際、デザインの要となるジャケットには、都市の風景写真が用いられている。このアイデアは、Clarkが写真を撮りながらロンドンをぶらついている時に思いついたアイデアだった。彼は、夕暮れと夜明けから特にインスピレーションを感じるのだという。明と暗の狭間で様々な色がぼやけた何とも言えない景色は、彼がレーベルに対して抱くイメージとマッチしている。Shaun BloodworthやNico Hoggといったフォトグラファーやアーティストの協力を得て届けられるジャケット用写真は、今となっては一見するだけでKeysoundのものだと分かるほどだ。

サウンド、ビジュアル、両面において、Keysoundの第一章が集約されたのは、Dusk + Blackdownのデビューアルバム『Margins Music』が発表された時だった。このアルバムを聴くと、まるでロンドンを歩いているかのようだ。民族的な多様性が生み出す街の特色を1つの音楽にまとめ上げるという偉業を2人はこのアルバムで成し遂げている。しかし、その偉業のためか、アルバムを発表後、2人は精神的に疲弊しきってしまう結果にもなったようだ。

「アルバムを制作していると、全精力をそこに注がないといけない。そうした結果、俺たちはアルバム制作後には、一切、力が残っていなかった」とClarkは笑いながら言う。「だから、もう1回アルバムを作る余裕とインスピレーションが見つかるまで、4年間、Keysoundを休止してもいいかなって考えていた。でも、『俺たちの周りにも、「礎となるループサウンド」というアイデアを持っている人がたくさんいるぞ。もしかしたら、他の人の音楽をもっと取り込むようにすれば、Keysoundのアイデアを拡張していけるかもしれない。その方向性でやってみようかな』って思うようになったんだ」

「毎月何百ってデモが届くと、俺たちがDJプレイできるクオリティのものがほとんどだけど、そのほとんどは実際にリリースされずに、ただ消え去っていく」とFramptonは言う。「義務感を感じていたわけではないけど、送られてきたデモにちゃんと耳を通さないのは、ちょっとありえないと思う。中にはいい物もあるんだ。特にStarkeyのデモなんかは、絶対に誰かが既にサインしているトラックだと思った」

2009年にリリースされたStarkeyの”Gutter Music”は、Keysound第二章の幕開けだった。この時期、レーベルは数多くのプロデューサーに接触を始めた。Starkeyのケースで言えば、フィラデルフィアにまで手を伸ばしたことになる。”Gutter Music”で繰り返される明るいフレーズは、Dusk + Blackdownのムーディーで瞑想的な作品に比べると、衝撃的にカラフルだ。しかし、Starkeyが繰り出す爆弾のような低域は、アーバンかつグライミーな世界観にぴったりとフィットしている。そして、グライムMCとして名を馳せるDurrty Goodzによるラップが加わることで、”Gutter Music”は、Dusk + Blackdown作品と同じ文脈に位置付けることが可能となる。このリリースによって、ClarkとFramptonは初めて、レーベルとしてのコンテクストを構築し、第三者のサウンドを自分たちの世界へ取り込む手腕を見せることになった。

「The Starkeyのレコードのおかげで、『Keysoundとは何だ』って考えるようになった」とClarkは言う。「あの作品に関しては、ロンドンでは決して生まれることのないグライム作品の最高峰だと言いたいね」

その後、DVA、Kowton、Damu、Sully、LVらによるリリースが続き、レーベルは一度に様々な方向性へと広がっていくことになった。しかし、どの作品も最終的には、グライム、ダブステップ、ガラージを継ぎ目無く混ぜ合わせたハイブリッドという点で共通している。レーベルで最もロングヒットとなるトラックが発表されたのも、この頃だ。Sullyによるネオン輝くガラージアンセム”In Some Pattern”や、ロンドンの深夜バスが走るルート名から名前を付けたLVによる”38”などである。”38”には、Joshua Idehenによる考え抜かれたスポークンワードがフィーチャーされている。詩人／MCである彼は、特に2011年の『Routes』では、Clarkの記事や哲学を音楽に落とし込むにあたって大きな貢献を果たしている。

「個人的にロンドンについての詞を書こうとしているわけじゃない。ただ単にそうなってしまうだけなんだ」とIdehenは言う。「俺はこの街に少し取り付かれている。俺が書くことは、結局いつもロンドンに回帰することになるんだ。Keysoundの作品は、ただロンドンというだけじゃなく、さらにアーバンなんだと思う。ぐちゃぐちゃに絡み合ったビルの階段を真夜中に一度でも歩いたことがあるなら、どこにいてもKeysoundのサウンドを理解することができるはずだ」

言い換えれば、Keysoundの世界観は、より広範囲に認識されるようになっていたということだ。ClarkとFramptonは、地理的視点ではなく、音楽的視点を基盤とした新たなサウンドの在り方を追求しており、結果、レーベルはかつてなく多様性を増すことになり、それまでよりも、レーベルのサウンドに一貫性が生まれることになった。その一貫性は、Kowtonがリリースした”Stasis (G Mix)”が、テクノの影響下にあるトラックだった時ですら、同様だった。

「Kowton名義初となるレコードを俺たちはリリースした。彼が曲を送って来た時、『これはすごいぞ』って感じたよ。俺はBasic Channelが大好きなんだけど、Kowtonのトラックは、Basic Channel過ぎて、たまらなかったね」とClarkは言う。「ストレートなテクノ作品だけだとKeysoundからリリースすることはできないなって思っていたら、次の日の夜、Kowtonが2ステップのバージョンを持って来たんだ。そのバージョンが、またしても最高にBasic Channelで、しかも、2ステップなんだ。さらに、最高に2ステップで、しかも、Basic Channelなんだよ。トラックには、少しぼんやりとした不明瞭さがあって、俺はそれがすごく好きなんだ」

Keysoundによるこうした新たな試みを決定づけることになったのは、LHFが登場した時のことだ。Clarkは、『Keepers Of The Light』というミックスシリーズを通じて、当時、無名だったロンドンのグループLHFを紹介した。そのミックスで、彼らは、ダブステップにエキゾチックな空気を注入し、それまでレーベルが脈々と貫いてきた一連のサウンドから、異なるスタイルへと飛び込んでいた。しかし、その方法は、『Margins Music』が照らした道を歩んだものでもあった。さらに彼らは、Clarkと同じように音楽の世界にどっぶりと浸かって生きているような印象だった。LHFのメンバーは、意味深でミステリアスな名義の7名から成るのだが、Keysoundからリリースに至るまでには、衝撃的な逸話がある。彼らは何年も海賊ラジオをやっており、ClarkやFramptonが通っていたダブステップの礎を築いたイベントの多くにも足を運んでいた。そしてある日、メンバーの1人がMyspaceを通じてKeysoundに音源を送ったのだが、ClarkがもっとLHFの音楽を聴きたいと言うと、すぐに5枚のCD-RがClarkの玄関のメール受けに投函された。

「忍者が残す伝言みたいだったよ」とClarkが笑いながら言う。「本当にたくさんのトラックが入っていた。たぶん300曲くらいかな？彼らと一緒にする仕事は特別なんだ。彼らはたくさん音源を持っているし、その中から一番いいものを選び出すのは楽しいよ。彼らのファーストアルバムは2つのトラックリストを互いに結び付けて二重螺旋のような構造にしたんだ。こういうことをやると、クリエイティブに色んな角度から模索していくことができるから、単純に楽しいよ」

LHFが発表した3枚のEPとそれに続く2012年の2枚組アルバム『Keepers Of The Light』は、アーティスト、レーベル、両者にとって強力な意思表明となった。ダブステップシーンが消滅した後に、Keysoundが自らの手でサウンドを再定義するという方向性を示したのだ。しかし、この頃は、多くのダブステッププロデューサーとDJが大挙を成してハウスミュージックに転向していた時期だった。そんな中、Keysoundは意識してハウスミュージックに転向することは避けていた。今でもClarkはこの頃の出来事が気に入らないようだ。

「ここにあるのが、俺が集めてきたレコードだよ。全部はここに無いかもしれないけど」と言いながらClarkは、後方に積み重なったレコード棚を指差した。「ここはデトロイトのセクションで、ほとんどハウスばかりだよ。つまり、もし2006年に俺がハウスDJに成りたいと思っていたら、そうなれたかもしれないってことだ。お気に入りのハウスのレコードをたくさん持っているけど、ハウスという音楽の存在を俺が知る前から、ハウスは既に存在しているだろ。俺はハウスに反対しているわけじゃないけど、俺たちがハウスのレコードを出して、ハウスのDJになろうとしたら、同じことをずっとやらないといけなかっただろうね。ハウスは結構、公式化されていて多くのアーティストがひしめき合っている音楽だ。俺はハウスのDJを聴いても、心が動かされることはほとんどないよ」

「俺は本当に飢えていたんだ」と彼は加える。「ダブステップは外部の人間によって台無しにされて、グライムにも亀裂が生じていた。だからこそ、俺は自分が面白いと思う音楽をリリースすることに飢えていた。LVやSullyとか、その頃に俺たちがリリースしたアルバムは、そういった意識に影響を受けていると思う。ダブステップが崩壊していくのをただ座って眺めて苦い思いだけを味わって終わることもできた。もしくは、『昔の良かった頃をもう一度やってみようぜ』って言うこともできたけど、それだと絶対に上手くいくわけがない」

レーベルの新たな動きは、UKファンキーからの影響を強く感じさせ、遅いテンポのトラックが展開されることになった。このテンポについて、Clarkは単に「130」と呼んだり、「クリエイティブになって、ダークな空気に対してもう一度オープンになれるテンポ」と称している。2012年のBPM130の登場と時期を同じくして、Dusk + Blackdownのアルバム『Dasaflex』が発表されている。2人がダブステップ以降の方向性を模索した作品だ。そのインスピレーションとなったのは、若手のプロデューサーたちだった。2人は2012 Rinse FM show内で、後にKeysoundのコンテクストを生み出すことになるBeneath、Wen、Visionistを紹介した。

「あの番組はKeysoundの第三章にとってターニングポイントだった」とClarkは言う。「ダブステップは修復不可能なまで内輪になってしまった。俺たちがKeysoundを設立する上で基盤となったコミュニティは、意味を成すかどうかという点、もしくは、クリエイティブかどうかという点で、もう存在しないに等しかった。それでこう思ったんだ。『俺たちも、ここに座って嘆いたり不満を言ったり、古き良き時代を懐かしむか？いや、ダブステップからポジティブに離れていく方法があるかもしれない。俺たちと同じ価値観を持つ人たちがたくさんいるはずだ。その人たちの作品を探し出そう』ってね。この価値観っていうのは、サウンド面だけじゃなく、コミュニティ面での価値観でもある」

もし第二章で、Keysoundが見つめていたのが、ロンドン以外の場所だとするなら、第三章でレーベルが見つめているのは、未知のアーティストたちだと言える。レーベルは全く新しいアーティスト陣を取り揃え、2013年のコンピレーション『This Is How We Roll』でその集大成を提示した。Visionist、Wen、Beneathのトラックで始まるコンピレーションによって、「新たな波が押し寄せている」ことが高らかに宣言されたのだ。そして、その先見の明が現在に至るまでに証明されていることは言うまでもない。

Keysoundの新たな方向性において、Beneathは間違いなく重要人物だ。彼が生み出すUKファンキーに影響を受けたバウンシーなトラック（Clarkは「氷点下の衝撃」と称している）は、当時、台頭していた130サウンドに対するClarkの印象を決定づけた。そして2012年、1つの重要なブログ記事が投稿されている。その記事で、ClarkはBeneathにインタビューし、全曲Beneathのオリジナルトラックから成るミックスを公開した。そのミックスはまるで戦場における咆哮のようだった。イギリスのプロデューサーの多くがハウスを取り入れようと試行錯誤していた時に、この若きBeneathは、荒々しいトラックを制作しながら、ダブステップの陰鬱な闇の中に足を踏み入れながら、もう一方では未知の領域に向かっていたのだ。

レーベルが展開する新たなBPM130の領域に向かって、他のアーティストも独自の道からアプローチを始めた。グライムを遅いテンポにしたWenは、Keysoundのラジオ番組にインスパイアされたという1人だ。E.M.M.A.は、Starkeyの”Gutter Music”のように色彩が輝く遊び心のあるダビーなダンスミュージックをリリースした。Moleskinは「Satis House」で、アンビエントグライムとでも表現できるような音楽を制作し、Etchは「Old School Methods」で、ハードコアの精神を別の形で表現した。そして、Logosは、Mumdanceの協力を得つつ、グライムをバラバラに解体し、各素材を無重力空間に浮かべてみせた。彼の衝撃作『Cold Mission』は、Keysoundが誇る偉大な業績の1つだ。このアルバム以降、レーベルは多方面の音楽に対してオープンな姿勢を取っている。Sullyは昨年の「Blue」で完全にジャングルの方向性に向かい、Dusk + Blackdownは「Back 2 Go Fwd」で少しノスタルジアを感じさせるサウンドを展開した。そして、さらなる方向性が示されたのは、昨年リリースされたコンピレーション『Certified Connections』でのことだ。このコンピレーションに収録されたのは、実質、無名の少数のアーティストたちだった。

こうして、Keysoundが若手プロデューサーたちに焦点を当てたことで、レーベルは、再び世界的な盛り上がりを見せていたグライムシーンに引き込まれることになる。そこはGobstopper、Liminal Sounds、Glacial Sound、そして、Dikotopiaといったレーベルがホームとしているシーンだ。このシーンのアーティストは、インストにフォーカスした実験的なグライムを独自に築き上げている世代だ。ClarkとFramptonは、コンピレーション制作に際してParris、Facta、Murloといったエッジの効いたプロデューサーたちに新たに声をかけた。とは言え、2人は決して自分たちがグライムのレーベルを運営しているんだと主張することはないだろう。むしろ、その逆で、こうした若いエネルギーが、レーベルに対して新たなコンテクストを生み出しているのだ。

「この2、3年の間に、たくさんのプロデューサーたちがKeysoundにやってきた。俺たちからすれば、彼らは完全に別の世代のアーティストだよ」とClarkは言う。「Etchなんかは、22歳だけど、ハードコアやジャングルとか、その手のサウンドにものすごくハマっている。でも、昔のサウンドを回想しているって感じではないんだ。だって、まだ22歳でしょ。俺たちと同じ音楽をEtchが聞いていることもある。彼は『俺たちにとってのMetalheadzサウンドはどこにあるんだろうね』みたいなことを言うんだ。それを聞いて、俺はその翌日にクラブに出かけていって、新しくKeysound Sessionsってイベントを始めることにしたよ」

「今現在、20代前半の人が『自分たちにとって必須のクラブはどこだろう？数年経った後に語り継がれるようなサウンドが流れる場所ってどこあるんだろう？』って言っているんだよ。まだまだ俺たちは、そうしたサウンドを確立しているわけではないことは分かっているけど、そういうことを俺たちは目標にしているんだ。そのために、寝る時間を減らして頑張っているんだよ。次の世代とは深い絆を築けたと思っている。彼らは『俺たちもああいうダークなサウンドが好きだよ。俺たちはExitやThird Baseの時代を知らないけど、その時代を味わってみたいと思っていた。俺たちにもそういうサウンドって無いのかな？』って言うんだ。だから『よし、それだったら、一緒にコラボレーションしようよ』ってなるわけさ。そういった若いエネルギーのようなものを、俺たちは導いていこうとしているんだ」

###

現在、レーベルの最新コンピレーションとなっているのは、『Certified Connections』だ。このコンピレーションにより、前述の新たなエネルギーはより強固なものとなり、さらに若いプロデューサーがKeysoundに加わることになった。このコンピレーションはLuke Benjaminによるトラックで終了している。彼は、これまでレーベルがリリースしてきたどの作品にも似ていないサウンドを生み出すアーティストだ。他にもBenjaminはKeysoundからソロEPのリリースも決まっている。コンピレーションには、彼以外にも強力なトラックを提供したDetboiやAtlasなど新たなアーティストたちがコンピレーションに参加した。そして、今後、LHFが再びKeysoundからリリースすることが決まっている。まずはLHFとRagga Twinsによる傑作コラボレーション作品から始まり、続いて、新作アルバムのリリースが控えているそうだ。複数の要素が境目無く混じり合うUKサウンドを彼らは生み出しているが、それはつまり、絶え間なく複雑に入り組む2015年の音楽シーンを見事に捉えていると言えるだろう。そしてなんとレーベルはBurialにも再び手を伸ばしている。以前にもKeysoundは、彼のリミックスやコラボレーションを展開したことはあった。Hyperdub以外のレーベルからは滅多に作品を発表しないBurialだが、そんな彼がKeysoundから発表する新作”Temple Sleeper”を聴くと、それでもやはり、異なるアプローチでKeysoundの躍進を後押しするサウンドとなっていることが分かる。

「OutlookでDJをした時、最後に彼のダブを1曲プレイしたんだ。その頃、俺たちはDusk + Blackdownの作品をリリースしようと思っていて、DJ中に、『Burialのトラックを逆サイドに収録したらどうだろう？』って思ったんだ。なんて無謀な考えなんだろうって思うよね？でも、俺は彼に『さっきプレイした曲をリリースしてもいい？』って携帯からメールしたんだ。そうしたら、彼からは「No」って返事が来たんだけど、実はそれで終わりじゃなかった。2カ月後、彼からいきなり”Temple Sleeper”が送られて来たんだ。メールの件名には「Martinにあげる」って書かれていた。その曲を聴いて、鳥肌が立ったよ。ヘッドフォンで聞いただけにも関わらずだよ。あの感覚は、レーベルをやっている人が追い求めるべき『これだ！』っていう感覚だった」

「Outlookでのセットは、俺たちがやっているコンセプトが間違いないものだという証明になったと思う。俺たちが手掛けているトラックに対して、オーディエンスがリアクションするのを見て、そう思ったんだ。Chunkyが俺たちのためにMCをしてくれて、トラックをかける度に『何だこれは！？そう、Keysoundファミリーのトラックだ！』って言ってくれた。俺たちも『ああ、こういう音楽でも大丈夫だ』って思えた。グルーヴ、低域、ダークな緊張感、解放感、シンセ、そういった全てのものが存在する空間を構築するっていう俺たちのクレイジーなアイデアは、既存のダンスミュージックに似通ることなく、新たな居場所を見つけることができるんだ。俺は、ステージ端に座って笑いっぱなしだったよ。『見てよ、すごいいい反応だよ！』ってね」

Keysound Recordings LOTM mix

未発表トラック満載！押し潰すドラムブレイク、不気味なアンビエント、UKファンキーとグライムの突然変異。Keysoundの第三章を存分に味わってほしい。

Download: mix

(right click + save link as)

Filesize: 178.1
Length: 01:14:12

Logos - Omega Point [unreleased]
Dusk + Blackdown - Wot Do You Mean?! (Movin' Parro Mix) [unreleased]
Sully - Thema [unreleased]
OKzharp & Samrai - Gated [unreleased]
LV & Josh Idehen - Imminent (Paper Tiger remix) [Keysound Recordings free download]
Murlo - Broken Arrow [Keysound Recordings]
E.m.m.a. - Light Years [Keysound Recordings]
Damu - iPolice [Keysound Recordings]
Damu - Whirlybird [Keysound Recordings]
Blackdown - Wot Do You Mean?! [unreleased]
Atlas - Solitude [unreleased]
Luke Benjamin & Threnody - Going Mad [unreleased]
Luke Benjamin & Rabit - Confidence [unreleased]
Amen Ra (LHF) - Surrender [unreleased]
Amen Ra (LHF) - Triumph [unreleased]
Amen Ra (LHF) - Wet Harmonic [unreleased]
Amen Ra (LHF) - Natural Boost [unreleased]
Double Helix (LHF) ft Ragga Twins - 2000 Dust [forthcoming Keysound Recordings]
Double Helix (LHF) ft Ragga Twins - Exodus [forthcoming Keysound Recordings]
Double Helix (LHF) ft Ragga Twins - Fugese [forthcoming Keysound Recordings]
Atlas - Calm [unreleased]
Caski - Tunnel Music [Keysound Recordings]
Dusk + Blackdown - Peng One Two [Keysound Recordings]
Detboi - Give Love [unreleased]
Detboi - Scatter [unreleased]
Wen ft Riko - Play Your Corner (Walton remix) [unreleased]
Dizzee Rascal - Strings Hoe (Wen refix) [Keysound Recordings]
Mumdance & Logos - In Reverse PIV [Keysound Recordings]
Burial - Temple Sleeper [Keysound Recordings]