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Machine love: Kuniyuki Takahashi

  • 日本人プロデューサーKuniyuki Takahashiが、制作の理念と使用機材、そして自身のルーツについて語る

    音楽としての強度、音そのものの佇まいからして、Kuniyukiは日本のダンスミュージックシーンの中でも、特異なポジションにいることは確かだ。札幌を拠点とするKuniyukiは、より電子音楽寄りとなる名義Kossと本名名義を使い分けながら、ジャズやアンビエントや現代音楽など、様々なエッセンスを収斂し、ダンスミュージックの新たなフィールドを開拓してきた。硬質で都会的なイメージのテクノ、ハウスの中で、彼の楽曲からは厳かかつ優しく、オーガニックな質感が感じられる。その反面、ダンスフロアを高揚させる力強いグルーヴも込められている。その独特なスタイルは、Joe Claussell主催のNatural Resourceからリリースされたデビュー作「Precious Hall」の時点で確立されている。05年以降、Mule Musiqを中心に数多くのEP、アルバム、リミックスをリリースしてきたKuniyukiは、過去のインタビューで「アイデアは尽きない」と語っている。今回伺った、制作環境の変遷と彼が音楽を志してから現在に至るまでの道のりからは、伝統を重んじながら独自の道を拓く、Kuniyukiの音楽の源泉がわかるはずだ。





    先日リリースされたアルバムも含め、Kuniyukiさんはコラボレーションを中心に作品が作られていますね。

    これまでも含めて、自分が作品を作る際、身近な尊敬できるアーティストと自然と音楽をやるきっかけが多かったんですね。例えばHenrik Schwarzは、彼とはMule Musiqを通して、ライブ以外でも彼と接する機会ができ、来日した際にはセッションなどを行うようになりました。…あまりコンセプトっていうものを軸にコラボレーションを行っている訳ではないんです。ただ、どちらかというとアルバムを作るときには必然的に「こういった人と何かやりたい」とか、あとは、過去に制作を行ってきたHenrikみたいな人とは、また継続してやりたいとか。僕にとっては自然な流れですね。

    ということは、「こういった音楽をやりたい」と決めて人選をしているのではなく、アーティスト同士の共同作業の結果、生まれたものがそのままリリースされているということでしょうか。

    それもありますし、例えばジャズピアニストの板橋文夫さんは、ジャズのシーンでは本当、型破りなプレイをされる方ですし、音楽的にもやっぱりジャズの垣根を越えているというか、凄く情熱的な人なので…もとのはじまりは板橋さんの音楽に惚れ込んで、僕がアルバムを作る際にいっしょにやりたいと思い参加してもらったのでね。一概には言えないし、どれをとっても僕には自然な形ではあるんです。けど、ガチガチに「このためにこの人を呼ぶ」とか「こういった音楽を作りたい」ということはない。むしろその人がいて、何が起こるのか…例えば板橋さんにデモを渡したとき、どういったフィーリングで弾いてくれるのかとか、いわばキャッチボールのような感覚も重視していますね。

    作品を聴いた印象では、ただトラックにピアノやサックス、ボーカルを乗せているというよりは、もっと全体がしっかり構成されて、二人の人間が関わっていながらも一つの音楽として成立している印象が強いです。

    優先順位としてデモを渡した方が最初にアクションを起こし、それを聴いたアーティストが違ったレスポンスで返すのですが、僕の音楽が違う解釈でとらえられるときもある。でも、僕にとってはそれでありなんですよ。望んでいたものが送られてくるよりは、自分にとって驚きがあるものが来て、それに対して自分がアレンジをし直していくほうがいい。最終的に出来上がったものは確立されているというか、その時点で楽曲のテーマが出来上がることが多いです。

    先ほどジャズからの影響などと言った話も出ましたが、Kuniyukiさんの音楽遍歴、また機材遍歴についてお聞きします。意識的に音楽を聴き始め、また作ろうと思ったのはいつ頃なのでしょうか。

    もともと僕の両親が喫茶店をやっていて、常に音楽が流れていたんですね。特に映画音楽は僕の親父が好きでかけていたんですが、自然にそういうものを聴いて音楽の面白みを感じていました。あと中学に入る前、まあ普通の入り方ですが…皆小学校でリコーダーなんか習うじゃないですか、で、僕の担任の先生が凄く上手で(笑)。普通男の子はリコーダーにそんなに興味を持たないんだけど。でも僕のクラスは全員が魅了されたんですよ。それぐらい影響力のあるリコーダーを吹く先生で、そこで初めて楽器で何かを演奏したいという意識を持ったんです。

    では特定のアーティストというより、その小学校の先生に影響されて音楽を始めたいと思ったんですね。

    そこだと思うんですよね。そこからやっぱり、自分の好きな音楽を吸収するようになってからは、中学1年生のときに初めて古いシンセサイザー、KORG 770を買って、すぐに自分で曲作りをしたんです。もう、やらずにはいられないというか。

    ご自身でフルートやパーカッションなども演奏されますが、最初に曲作りをしようとして入手したのはシンセサイザーだったんですか?

    そうですね。あと同時期にドラムを拾ったりとか(笑)。当時札幌はゴミ捨て場によくギターなどもあって、僕はドラムを拾ってきてそれを叩き始めて、自然と音楽仲間も増えて一緒に何かを演奏することとかも始めたので。最初にシンセがあって、ドラムを始めて、フルートはもっと後なんです。シンセを弾き始めたのがきっかけで、いろんな機材にも興味がわき始めました。

    ちなみにシンセサイザーを最初に買ったというのは、何かからの影響だったりするのでしょうか?なぜギターやキーボード、ピアノ等ではなくシンセを選んだのかは興味深いです。

    最初になぜシンセを買おうと思ったかというと、楽器屋にキーボードにつまみがたくさん付いたのがあって、鍵盤を押すとジョワジョワとかビャーンとかいって、何だこの効果音は!?みたいに思ったんですよ…触ると音が変わるじゃないですか。ギターやパーカッションは演奏すると自分のイメージ通りの音が出るんですが、シンセだけは不思議な音が出て、自分にとってはとてもユニークなものだったんでしょうね。同時期にやっぱりシンセサイザーがどう使われているのかレコードを聴いて研究しました。当時の日本だとYMOとか、海外だとKraftwerkとか。僕には兄貴がいるのですが、ニューウェイブとか、ジャーマンエレクトロ、ファンク、EBMなどについて詳しくて、そういう音楽を聴く機会も多かったんです、だからいろんなアーティストに興味があって、例えばBrian Enoとか…プログレからシンセサイザーを使った音楽が発展したりもしていて、そういった類には貪欲に食らいついていましたね。

    とにかく「シンセサイザーを使った音楽」というものに興味があったと。

    その中でも、僕は今でもジャズは好きですけど、Herbie Hancockが80年代にRockit Bandというユニットをやっていて、シンセをユニークな形で使っていたんです。”Chamereon”や”Rock It”などの曲は当時凄く人気があった。僕にとってのジャズの入り口はそういったエレクトリックなジャズでしたね。同時にシンセだけでは表現できないものも出てきて、それは例えばパーカッションのグルーヴだったり、例えばフルートも…フルートの音色がシンセで出ても、楽器特有の独特なフィーリングは生まれない。そう思ったときにもっと楽器について知りたくなったんですよ。

    今に至るまでKuniyukiさんの作品にはどこか生々しさというか、生楽器と電子楽器のサウンドが柔らかく組み合わさった感じがあるのですが、そのスタイルはそういった過程の中で生まれたものなのでしょうか。

    まあKuniyuki、Kuniyuki Takahashiという名義では、楽器の構成というものにもこだわらずに、自分にとって心地良いものを出していきたいと思っていて…Kuniyuki名義での作品が世に出たきっかけは、2001年かな、”Precious Hall”という曲があるんですけど、その曲もまあエレクトリックな要素とオーガニックな要素が含まれていて、自然とそういうスタイルは自分でもキープしているんでしょうね。でも、今日ずっと飛行機の中で考えていたんだけど、全く別のこともやりたくて、かなり実験的なことを。今やっているのはラップトップを持って、オーディオインターフェイスを持って、フィールドレコーディングをするんですが、その場の音を単に録るだけでなく、その場にあるものでリズムを組んだりってのを始めたんですね。今メインで使っているソフトがAbleton Liveなんですが、その場にあるもの、例えば石とかでガイドのリズムを作って、その場所のものを使ってその場所の曲を作るということをやってるんですよ。それは自分にとっても面白いんです。予想がつかないじゃないですか。そういうこともKuniyuki名義とは別で継続してやっていきたい。

    それはLive付属のサンプラーや、波形編集で作っていくんですか?

    サンプラーに読み込んでしまうとあくまで素材になってしまうので、単純にレコーダーとしてLiveを使用して、木を叩いて、そのままラップトップを持って移動して、トタンを叩いたりしてそれに合わせて作っていくとか、音楽的な要素としてのレコーディングを外で行ったりとかしてます。

    それは以前まで使っていた名義とは違ったものになりそうだなと思うのですが。Koss名義ではエレクトロニックな要素を軸にしていますし。

    曲を作っているときは、あえて名義による作り分けは今はしてないんです。楽器によって出来るジャンルが昔はあったと思うんです。例えばTB-303やTR-808、シンセが生まれたことによってジャンルが生まれたりもしたのですが、それが70、80年代にはすごく多くて。僕らはそういうツールも背負いながら、新しいツールも、今もリアルタイムで出ている。でも僕らは上手に考えなきゃいけなくて、モノが出てそれを追いかけてしまうと、本当のそのもの自体のいいところを触らずに次にシフトしてしまう。それがけっこう自分にとって怖くて。当然面白いものが出ているのはある程度自分でもアンテナを立ててはいるんですが、例えばコントローラーだったり、センサーを使って音楽を表現することもそうだけど。でも手っ取り早く今Ableton Liveは僕にとってはすごくいいツールです。例えば今やってるのは…Kuniyukiの名義でライブをやる際に今までの作品を演奏することもあるんですが、即興性をもっと出したくて、マイクを立てて、お菓子の缶に釘やネジを入れて、それを鳴らしたものをLiveで録ったものにクォンタイズをかけてリズムにしたり。あとは、百円ショップのおもちゃとか、子供向けの楽器、笛みたいなものとかを使って、その場でしか生まれないものを生むということに興味があって、今やっていますね。

    Ableton Live自体、Kuniyukiさんのコンセプトに合っているということですね。

    TB-303やTR-808のように、Abretonのツールは僕にとって可能性があるんです。もっとやりたいことはあるんですけど、まあMax 4 Liveを使ってパッチを組んでいくしかないんですが、それはそのうちですね。

    今はMax 4 Liveでパッチを組んだりはしているんですか?前身となったMax/MSPなどは未体験なんでしょうか?

    2012年に購入したばかりで、まだ勉強中ですね。Max自体も使ったことはなかったです。けど、周りにMaxのパッチを作ってる人が結構多いんですよね。

    確かHenrik Schwalzも自分のパッチを作成していますよね。

    彼は元々サイトのデザインもやっていて、だからプログラムはすごい好きだって言っていましたね。彼はすごくセンスもいいし…彼みたいな人がmax 4 Liveを持つと、面白い表現が生まれますよね。

    少し話が戻るのですが、中学から高校にかけてシンセやドラムなどを入手していったわけですが、どのような過程をたどって作品をリリースするに至ったのかについて詳しく教えて下さい。

    パーカッションをやっていて、自分にとっての理想を追ううちに、やはりアフリカのリズムが自分にとって心地よいことがわかったんですね。アフリカの楽器との出会いも結構あって、札幌に来ていたセネガルのパーカッショニストから教わったりもした。いい演奏を聴くとエネルギーをもらえるというのはあって、自分の作る曲からすらもそれがあればと思っていて、同時にエレクトロやダブ、特にAdrian Sherwoodがプロデュースした音楽はすごく好きで、とにかく多彩な音楽を聴いていましたね。リリースの経緯はというと、高校生のときに、札幌にあるクラブがあって、そこの企画をやっている人に僕のデモを聴いてもらって、面白いねと言ってもらったんです。そこでそのクラブへ行ったのですが、自分の好きな音楽で多くの人が踊っていて、楽しんでいるシーンがあった。88年頃でしょうか、それからですね。当時はシカゴハウスとか、ガラージハウス、その間にニューウェイブがかかったり、本当にいろんなものがミックスされていたんです。それを通じて自然にハウスミュージックを知りましたね。自分にとっては音楽はジャンルではなくて、ただ感じるか感じないかなので、人の出会いもそうなんですけど、何かを軸に自分にとってはわかるとか、共有できるとそれで成り立つとか多いですよね。音楽はファッションではないと今でも自分では思っていて、やっぱり思いを込めて作った音楽を共有する場所として、未だにクラブは特に好きですね。

    自分の音楽を共有する場所として、クラブは最適だったということでしょうか。

    うん…当時はそうは思っていなかった。自分の音楽が世に出て、みんなに聴いてほしいとか、そういう訳ではなかったですね。どちらかというと、自分もその場にいて楽しいので、音楽がそこにあるだけで十分だったんですよね。で、いい音楽だったねって言える人が、クラブには隣に居たりする。もちろんそうじゃない人もいますけど、いろんな人がいるのでね…今は、ある程度作品を出す側として、リスナーもいますしクラブで何かを期待してる人もいるから、昔とは関係性は少し違うんですけど、基本は今も昔も変わらず、音楽をその場で楽しみたいので。クラブっていうもの自体は音楽を感じるには大事な場所だと思います。


    「自分のスタジオは多分、すごくハイエンド
    ではないと思うんです。」



    ちなみにダンスミュージックを知り、それを制作しようとする過程で、先述のKorg 770やパーカッション以外に取り揃えたものはどんなものだったんでしょうか?例えばリズムマシンとか…

    最初のモノシンセは、兄も音楽をやっているので、今は彼のスタジオにおいてあるんですが…当時はいろいろ購入しましたね。TR-606だったり、808もあったし、CASIOのFZ-1というサンプラーがあって、サンプリングするのには当時はそれが一番安くて、61鍵盤のフロッピー付きのやつなんですけどそれを購入したりとか。Juno-60も使ってましたね。エフェクターもそうですけど、常に色々買ってきましたね。今残ってる中では…モノシンセではKorg MS-20がありますね。あと、これは結構自慢なんですが、ROLAND Jupiter-8。これは僕の友人から「あるんだけど買わない?」といわれて即答で。だから、僕にとってJupiter-8が欲しくて探していた訳ではなくて、巡り会わせで。友達に話を持ちかけられたとき、すぐに音を聴きたいと返しました。内部が少し壊れてたので修理しましたが、ほぼ使われていなかったので鍵盤もツルツルで、見た目はすごくよかった。今はそれがすごく好きで、よく使ってますね。Jupiter-8は凄い。出音にモノラルとは思えない広がりがあります。いつかJupiter-8とMS-20だけで曲を作ってみたいんですよ。どちらも本当に深い音が出る…

    作品で使われてるシンセのシークエンスはそれらのアナログシンセで作られているのですか?今挙げた以外のシンセなどあれば教えてください。

    アナログシンセは今挙げた2台がすごく好きで、あと面白いところだと、Korgの昔のリズムボックスmini POPS 120とか、それも安くセカンドハンドショップで見つけたもので。当時は魅力はなかったんですが…606や808の方が良くて、そういったリズムボックスはエレクトーンの伴奏用といった印象だったのですが、今聴くといいですね。あとテープエコーで、日本のメーカーなんですがHawkという所が出したHE-2150、これも中古で買ったのですがたまに使っています。あと、アナログモデリングのシンセだとAccess Virus B、あとWaldorf Blofeldはライブで使おうと思って購入しましたね。もちろんLive付属のソフトシンセも使うし、あと僕がすごく好きなのは、GForce OddityというARP Odysseyをモデリングしたソフトシンセ、それもよく使いますね。ソフトシンセもまた独特で、奇麗な音は出しやすいと思うんですけど、意外性がないものが自分にとっては多いですね。やっぱりプログラムされているものなので、その範囲でしか音が生まれないというか。Jupiter-8やMS-20もそうですが、ある程度時間が経つとガリが出たり、コンディションが悪くなったりするんですが、そのニュアンスが良かったりする時もあるので、その用途によってソフトとハードを使い分けています。そういえば、Native InstrumentsのFM8はすごく好きですね。





    FM8はKuniyukiさんのサウンドの中核を担っている?

    そうですね、特にライブパフォーマンスのときによく使います。ライブ中に動作がおかしくなることが今までなくて…ライブのとき音色を変化させたときに何かトラブルが起きると、今までいろんな経験をしているので怖いのですが、FM8だと全くないんですよね。だからもう弄りたいだけ弄って。さっきの即興の話ですけど、ネジなどで作ったリズムにシンセを乗せる際、現場にはハードウェアを持っていけないことが多いので、ソフトシンセ、FM8はすごく使えます。

    スタジオワークではアナログ、ソフトを組み合わせながらやっていると。リズムの話になりますが、先ほど「リズムボックスの音が今面白い」と言っていましたが、TR-606、TR-808はもう使っていないのでしょうか?

    606は友人のところにあるし、808はぶっ壊れて、スクラップ状態で今はもうないですね(笑)。

    近年のKuniyukiさんの作品を聴くと、Koss名義だとまた違いますが、オーガニックなパーカッションがメインのリズムを担っている印象です。それらはサンプラーや、自分か他のミュージシャンが演奏したものを使っているのでしょうか?

    ドラムの音は結構ソフトが多くて、XLN AUDIO Addictive drum、これの音がすごく良くて、生っぽい音も出せるし、変調させても使える音になるんですよ。曲の中でメインとなるパーカッションは自分で叩いてますね。コンガもあるし、ジェンベもあるし…アルバムで板橋さんとやった”Get Up With You”という曲では、アフリカのバラフォンという木琴も使っています。

    ではゲストミュージシャン以外の生楽器らしい音は自分でプログラミング、演奏しているということですか?

    ギターは普段いつも参加していただいている札幌在住のYoshihiro Tsukaharaさんに頼んでいて、あと、すごくいいベースを弾いてくれる僕の友人もいて、それ以外のパーカッション、フルート、キーボード、その他鳴り物は自分でやっていますね。

    ミックス等の作業についてお聞きしますが、ご自身でミックスをされているとのことで、それは自宅スタジオで行っているのですか?

    えっと、ほぼ自宅のスタジオですね。スタジオの環境としては、AbletonのLiveがあって、オーディオインターフェイスがYamaha 01Xという、DAWのコントローラーでもあって、Firewire接続のデジタルミキサー一体型のもの。モニターはMackie HR-624と、いわゆる民生品のスピーカーを使い分けながらやってます。Joe Claussellが僕のスタジオに来たときに、その民生品のスピーカーを見たときに、「これでよく頑張っているね」って言ったりとか(笑)、それはすごくいい意味で言ってくれているんですけど。僕は札幌で音楽を作る仕事もやっているんですよ。例えばそれはBGMだとか、CMの音楽だとか。それは今までスタジオに入って、Genelecとか、Yamaha NS-10Mとか、いろんなモニターを聴いてきて、その良さもわかっているんですけど、一番重要なのは自分が感じれるか感じられないかがまず重要で…

    それは音を把握することではなく?

    感じることですね。自分が感じることが出来なければそれの善し悪しの決断も出来ないじゃないですか。わからないという音であったら最終的には何も出来ない。自分が解るっていうことであれば、その人の制作環境がいわゆるプロユースじゃなくても、全然良いと思うんですよ。ただ、同時にですけど、やっぱりそのプロユースのことも自分には重要であって、そのバランスとしてMackie HR-624を置いています。いわゆるミストーンなどの細かい音とかトラブルのある音をチェックするには、ある程度音の解像度が高いハイクオリティな製品が必要になってくる。でも、比重としては僕は感じるものを一番重要視している。なので、ミックスは僕のスタジオでそういう形で変わらずやっていますね。

    それは外部のスタジオでは行えないということですね。外で作るミックスではなし得ないものだと。

    今は、音楽を聴く環境って、例えばパソコンだったりとか、iPod使ってヘッドホンでとか、すごく需要が高くて、昔と比べて聴き方がすごく変わっていると思うんですけど、僕はそこに対してぶれを感じていなくて、一番大事にしたいのは、レコードの時代には家具のようにでかいステレオがあって、レコードをかけてその前に座って音楽を聴いていたんです。そこからいろんな情報を得て自分が感動するとかいろんな思いがあって、ある程度自分の音楽も、そういった環境で聴いてもらえたらなって願いはある。リスナーの中にはある程度クオリティの高い、ハイエンドのオーディオ機器を持ってる人もいるじゃないですか。当然それを聴いてミックスしたら少しは変わるのかもしれないですけど、でも、フォーカスがそこだけになってしまうといけないとも考えています。自分のスタジオは多分、すごくハイエンドではないと思うんです。でも、幸いにも札幌にはPrecious Hallがあって、姉妹店のFillmore Northって所もあって、そこにはLoftのDavid Mancusoが昔から変わらずにパーティーとして音楽を感じるためのセット、それと同じ機材を使っている。そこで音楽を聴くといろんな音の粒が出てくるんです。ミックスするときはそういった環境でも音楽が響くようにすることはすごく考えていますね。

    Precious HallやFillmore Northでミックス前に確認するということはあるのでしょうか。

    今はもうないですね。あくまで自分の頭の中で、得た経験ってあるじゃないですか。自分がFillmore Northで聴いた音楽、レコードを自分の部屋で聴いたとき、どう違うのかとかも考えた上で曲を作るというか、そういうことは結構最近はしていますね。

    ちなみに今の自宅スタジオではかなりの音量を出せる環境なんですか?

    今は僕の実家の2階に部屋を間借りしているんですよ。それも本当に訳があって、多分、他に場所を変えられないと思う。自分の実体験ってそこにしかなくて、音楽は。高校のときに聴いた音楽とかからずっと培ってきた自分のバランスがあるので、だから変えようがないんです。

    その部屋含めて自分の音楽だといえる、ということですか?

    そうですね、ここがないと、例えばスタジオでいろんな機材を使って録ってきても、最終的にその部屋で自分で落ち着かないと、ジャッジできないんですね。ボリュームに関しては、いわゆる小さな部屋でやっている感覚ではなく、出そうと思ったら限りなく出せますけど、ただ、ボリュームというのはすごく音楽にとってはマジックというか…例えば、今ヴァイナルのフォーマットにしてもCDにしてもそうですけど、ある程度その音圧の話とか、レベルの競争みたいな時期がずっとあって、でもそれは皆それぞれそこが重要ではないと気づいている…ダイナミクス、音の瞬発力や響きのフィーリングが音圧という制限によってコントロールされてしまうと、哀しいというか、もったいないですね。

    そういえば、レコーディングで面白かったことがあって、板橋文夫さんはピアノでライブをされてますけど、板橋さんのピアノってすごいんですよ。とても柔らかい音も弾きながら、鍵盤も叩くので…もう拳で叩くってときもあるんです。レコーディングをする時にはNeumann U87とかAKGの414なんかのコンデンサーマイクを使うことが多くて、東京でもコンデンサーで録音したんですが、板橋さんは「これ嫌いなんだよね…」って言うんですよ。そもそもコンデンサーの良いところって小さい音も大きい音もけっこう録れるってとこなんですけど、言い方を変えると小さい音が大きく拾えて、大きい音もそれなりにっていう、制約が出来ている。板橋さんは自分の生のピアノを聴いているので、違和感を感じていたと思うんですけど、僕も板橋さんの意志を尊重したかったので、ダイナミクスを自然に録れるようにセッティングしました。だからレベルも若干低めではあると思うんですよ。ただ音のダイナミクスの波がきたときに、聴こえてくる音は、楽器そのものの持つ表現として、大事にしたかった。だから音圧がでかいから気持ち良いって時代ではもうないと思っていますよね。

    そのダイナミクスをコントロールするためのミックスは、今はDAWの内部で行っているのでしょうか。

    ですね。全部Abletonで完結しますね。楽器を録る際も演奏者の方と相談して…マイキングだけではないのでね。付属のリミッターは使いますが、あまり音量は上げない設定に。あと、LiveのEQってすごく良いと思うんですよ、割と。だからそれもよく使う。あと、アウトボードで面白いものがあって、今だとBehringerって会社に安物のイメージがあると思うんですけど、でも、あの会社が出たての頃ってドイツで作っていた製品があって、そのマルチコンプがあるんですよ。MDX8000っていう。それもすごく音がまとまるんですよね。それを一回オーディオで通して、PC内に戻すってこともあります。コンプは何というか、怖いですね(笑)。使い方を間違ってしまうと、とても怖いもので、むしろ、どちらかといえばEQで音を作ることが多い。あとはまあ、Liveのいいところは、オートメーションが効くんで、リミッターを通さず、オートメーションでボリューム調整を書いていく。パーカッションなんかもそうやって処理しています。

    言ってしまえば、リミッターを使えば楽に調整できるところを、ダイナミクスを生かすために遠回りでもオートメーションで逐一調整していると。

    Ureiの1176のヴィンテージのリミッターやUrei LA-2Aとかのヴィンテージのコンプレッサーは仕事を通じて使っていたので、やはり、すごく良いなぁとは思っているんです。でも、奇麗になるとは思うんですが、なぜか、自分はそこには居たくないんでしょう。あえて、レベルで書いていきたい。

    奇麗に揃いすぎるのは、Kuniyukiさんにとっては理想ではないということでしょうか。

    自分にとっては、完成品とか、出来たっていうのは認めたくなくて、どちらかというといつも、次の自分に対しての糧というか、次に繋がるQ&Aが欲しいんですね。だから、作ったものに関してはもちろん、ある程度自分でジャッジをしてリリースしているけど、クオリティとしての完璧さは、もしかするとそこまで求めていないかもしれない。フィーリングとして出していきたいんですね。完成したものにはそこまで魅力がないというか、やはり続いていくものとして、音楽があるというのが、自分にとっての理想ですね。
    • 文 /
      Riku Sugimoto
    • 掲載日 /
      Fri, 24 May 2013
    • Photo credits /
      Header, Portrait - Keee
      Studio - Kuniyuki Takahashi
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      Kuniyuki Takahashi is a sound designer and producer who is based and works in Sapporo, Hokkaido, Japan.
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