万が一男女同権主義者がエレクトロニックミュージックにその視点を向けたとしたら、Jenifa Mayanjaは大きな事件となっていただろう。Mayanjaは実績のあるプロデューサーだ。ニューヨークの有名なレコードショップDancetracksの元スタッフで、Body & SoulでDJをした実績があり、自身のレーベルBu-Mako Recordingsを運営している。しかし、彼女を取り上げるメディアの殆どは彼女のプライベートな部分、つまりEdward “Jus-Ed” McKeithenのパートナーであること、そしてコネチカット州Bridgeportで2児の母としての生活を送っていることから記事をスタートさせている。

この状況は明らかにMayanjaを苛立たせているようだ。「私が実際どういう活動をしているのか興味を持っているのかしら？」と彼女は問う。確かに以前は誰も興味を持っていなかったかも知れないが、今年は少なくともメディアの方向性が誤っていたことが認識され、修正されてきている。Mayanjaは今年5月に自分の生活をダイレクトに反映させたリズミカルで複雑なディープハウスアルバム『Woman Walking in the Shadows』をリリース、そして今月はMayanjaとMcKeithenの共同レーベルEDJがセルフディストリビューションレーベルとして始動した。

こうして「日影（shadows）」から表舞台に出たMayanjaが、自身の音楽と彼女のその他の部分、つまり内戦で荒廃したウガンダから厳しい冬が待つミッドウエスト（アメリカ中西部）へ脱出した10代、Joe Claussellから仕事を学んだ時期、そして全てのバランスを取りながら送っているBridgeportでの生活などについて語る。

あなたのニューアルバムのタイトル、それに”Time to Be Moving On”や”Rising Out of the Ashes”などには逆境や変化というニュアンスが含まれているみたいだけど、何からインスピレーションを得たのかしら？

このアルバムについてはずいぶん長い間考えていたんだけど、どの方向に進むべきかがわからなかったの。アイディアは沢山あったんだけど、テーマが欲しかった。そしてその候補としてずっと頭に引っかかっていたのがこの「もやもやした感じ」だったのよ。他にいい言葉が見つからなくて申しわけないけれど、説明すると、特に去年のことだけど、レコードをリリースするといつも「Jus-Edの嫁」ってレビューに書かれたの。私は「OK。確かにそうだけど、彼はこのレコードの制作には一切関わってないわ」って感じだった。

ディストリビューターがレコードを売らなければいけないっていうのはリスペクトできるし、レコードを何かに関連付けなければいけないってことも理解しているわ。でも全てのレビューが「Jus-Edの嫁」で始まる必要はないでしょ。だから少し気分が悪かったわ。単純に「このレコードはいい、悪い」って言ってくれればいいのにね。この感じが『Woman Walking in the Shadows』のバックグラウンドになって、最終的にはパーソナルな視点以上のものになったわ。つまり殆どの女性がきちんとした評価を受けてないということね。だからこの作品はエンパワーメントメッセージになったのよ。くじけたり、哀れんだりしないで、ただ自分のやるべきことをやりましょうって。そうしなければ世界を動かすことはできないわ。

音楽をもうやめようと思った時はあった？

勿論。このビジネスは私みたいな人には凄く難しいのよ。やっただけしか手に入らない世界だし、だからと言って分かりやすいビジネスって訳でもない。そしてディストリビューターを相手にしなきゃいけないし。ディストリビューターは非常に厄介な存在なのよ。音楽を作っても、その後でいやらしいディストリビューターや、小売店、プレスと仕事をしなきゃいけないの。彼らはとにかく何かを動かそうとし続けるわけだけど、これが彼らの厄介な部分で、人のやる気をそぐのよ。私はDance Tracksで働くことでこの業界をかなり早くから知ることが出来たから、その点は良かったと思う。長年この業界に携わってきたから耐えることができるのね。「もういいわ。もう我慢できない」って思った時も何回かあったけど、音楽は私の血。逃げることはできないわ。何かを生み出せなかったら惨めな気持ちになってしまうのよ。

あなたとEdは最近EDJをスタートさせて、自分たちでディストリビューションをしているわね。退屈ともいえるディストリビューションを自分たちでマネージメントすることに対してどう感じているのかしら？自分たちのやり方は正しかったと思う？

丁度EDJ001のディストリビューションが終わったところなの。凄く上手くいったわ。レコードを梱包して、連絡を取って、レコードを送るというのは大変な仕事だったわ。忙しい生活ね。沢山のこと、特に親としての役割に振り回されるし。でもEdと私は働き者だし、自分たちの作品に全身全霊を傾けているの。簡単じゃなかったけど、自分たちの望むものが出来たし、自分たちの音楽が望む形でリリースできるし、自分たちの望む価格に設定して売ることができたわ。でも私たちが受け取る一番のメリットはすぐにお金が手に入るということよ。周りのレーベルはここで一番苦労しているわ。私たちは今のやり方でようやく自分たちの望む形にスケジュールを組むことができるようになった。他人に仕切られるのではなくてね。

プラグマティズムなニュアンスを感じるわね。2007年にあなたが自分の作品をリリースするためにBu-Makoを始めた時と同じようなものを感じるわ。当時のあなたはDance TracksやDJ、そしてEdを通じて優れたネットワークを持っていたわよね。Bu-MakoをDIYでやろうと思った具体的な理由は何だったのかしら？

Bu-Makoはインディペンデントとして活動したいという願望の結果だったし、私の音楽をどうしたらいいか他人が理解してくれないという局面に数多くぶつかった結果でもあるわ。私は自分の活動を信じていたけど、十分なバックアップが得られなかったし、裏切られたりしたから凄く苛立ちが募っていたの。私は何でも自分で始めるタイプなのよ。長年レコード業界で働いて、DJもしてきたからコネクションは沢山あった。実はJoe ClausellはSpiritual LifeをDance Tracksからスタートさせたのよ。私は同僚だったから、レコードの梱包やインフォシートを書いたりしたの。あれは自分でレーベルをスタートさせる良いトレーニングになったわ。彼は私を凄く励ましてくれたし、チャンスも沢山くれた。Body & Soulで私がプレイすることについても助けてくれたのよ。

そうこうして私は深く関わっていったんだけど、彼らと一緒にリリースをする予定だったのに具体的な形にはならなかった時があったの。私はもういいわって感じになって、自分でアルバムを作ろうって思ったの。その時はレーベルを始めることは全然考えてなかったわ。丁度1人目の子供が生まれたところで、家にいる時間が長かったってだけなの。EdはUnderground Qualityが丁度軌道に乗ってきたところだったし、私は自分のアルバムを仕上げた後に「自分でレーベルを立ち上げなきゃいけないわね。誰かを待っているつもりはないし」って考えていたんだけど、実際にアルバムが出たら、今度は「もっと作品をストックしてリリースしなきゃダメね」って感じたというわけなの。

じゃあ積極的に色々レーベルを探し回ったことはないのね？

ないわ。他の作品は他のレーベルからリリースされたけど。以前に日本やニューヨークのレーベルからリリースしたことがあるけど、それは他の人とのコラボレーションだったの。彼らが作品をまとめて、リリースした。だから私のアイディアではあるけど、彼らの作品だったの。当時は自分の機材がなかったし、それがハンディだったけど、凄く良い経験になったわ。自分の声に自信を持てたし、自分のアイディアを表現することが出来たから。だから、アルバムを手掛けだした時には自分がどういう影響を受けてきたのか、どういうインスピレーションを得ているのかが理解できていて、それを使って自分がこれだと思えるトラックを作ることが出来るようになっていたわ。

Bu-Mako Recordingsはニューヨークであなたが行っていた同名のパーティーを通じて育って行ったわけだけど、パーティーはどうやって始まったのかしら？

Bu-Makoは私と他の4人で行っていた別のパーティーから生まれたのよ。自然発生したパーティーで、凄くアンダーグラウンドだったけど、凄く人気があったのよ。でも、最終的にそれぞれの道を進むことになって、その時に私ともう1人、Mookie KayamでBu-Makoをスタートさせたの。彼はイスラエル人だから、私たちは自分たちの言語や文化を一緒にして、「音楽が命の源だ」みたいな形を取ろうとしたの。だから「Bu」は私の言葉で「命」を、そして「Mako」はヘブライ語で「源」を意味するのよ。そのあと数年間ロフトやプライベートスペースを使ったパーティーをして、とにかく人が踊れる音楽をかけ続けたわ。パーティーが終わった理由は私に2人目の子供が出来たってことと、その時はもうコネチカットへ移っていたから、レコードを持ち回りたくなかったということね。あとはロフトのパーティーだったからサウンドシステムを運び込まなきゃいけなかったし、これ以上続ける必要性を個人的には感じなかったというのもあって、終わりにしたのよ。Bu-Makoは名前もコンセプトも凄くパワフルだと思っていたから、自分のレーベルを始める時にもそのまま使うことにしたのよ。

ニューヨークからコネチカットへの移住で生まれた変化は何だったのかしら？アーティストしての自分に与えた影響は何かあった？

コネチカットには2003年に移ったの。移った理由はEdがコネチカット出身だったからよ。私はブルックリンが大好きで、アパートから移りたくなかったからギャーギャーわめいたわ。最初は遠距離恋愛だったのよ。私が週末にコネチカットへ行く時があれば、Edがニューヨークに来る時もあるって感じで。それでしばらくデートを重ねていたらEdが「こっちへ来いよ。引っ越して来なよ」って言ってきたのよ。私にとっては凄く大きな変化だった。当時はまだ音楽の制作を始めていなかったけど、自分にとっては凄く大きな影響になったわ。ニューヨークには10年以上住んでいて、地下鉄やコンビニ、つまり、「自分の生活」に慣れていたから。

「周りは私たちがボロボロの服を着て、
意味不明のことを話す、
教養のない人たちだろうって思っていたのよ」

今の制作環境について教えてもらえるかしら？自宅にスタジオを構えているの？

私はラップトップとキーボードを持っていて、それが私のスタジオね。だからキッチンでもリビングでもどこでも作業ができるわ。私の機材は少ないから、沢山機材を持っている人にはショッキングかもしれないわ。私は機材マニアじゃないし、全てが必要ってわけじゃないの。制作を先へ進めるために何か新しい機材を足したいって思うけど、持っていても結局作れるか作れないかでしょ。だから今ある機材で制作しているわ。

あなたの初期作品の話をさせてもらうけど、『Stream of Consciousness』の中で”Harmony”は際立った存在だと思うの。リズムとテンポからウガンダの音楽をしっかりと感じることができるわ。いつウガンダを出たのか、そしてそこでの生活がアーティストとしての自分にどれだけ影響を与えているか教えてもらえる？

移ったのは13歳の時だったわ。状況は良いとは言えなかったわね。1983年にアメリカへ渡ったんだけど、凄く大変だったわ。私の父は命の危険があったから私たちより早く渡っていて、そして最終的に私と母が来られるように手配してくれたのよ。アメリカに来た時は、生まれてすぐにいきなり知らない国へ放り込まれたようなものだったわね。それで厳しい冬が待ち構えている秋にミッドウエストへ辿り着いたんだけど、私の人生で最悪の経験だったわ。だって冬が何なのか全く知らなかったのよ。薄着で膝まで積もる雪の中に立っているのは惨めな気分だったわ。凄いカルチャーショックで、どうしたらいいのかわからなかったけど、アメリカ人も私たちにカルチャーショックを受けていたのよ。

私たちはきちんとした家庭で、ちゃんとした教育も受けていたけれど、周りは私たちがボロボロの服を着て、意味不明のことを話す、教養のない人たちだろうって思っていたのよ。私たちはそんな扱いをされるなんて思っていなかったから、ショックだったし、難しい感覚だったわ。でも何年も過ぎて、大学へ通ってハウスミュージックに出会って、最終的にニューヨークへ移って音楽を作り始めた時、何が自分の幼少期の中心にあったのかを思い出したの。私たちはいつも歌に囲まれていたって。小さな頃は聖歌隊で歌っていたのよ。だから私にとってハーモニーを持ち込むことは簡単だったし、DJとして音楽を聴き始めた時もハーモニーやメロディー、そしてリズムから聴き始めたわ。それが私の魂に刻み込まれているものだったから。それが私に一番大きな影響を与えたし、今でも大きなインパクトを私に与えているわね。

歌うことがルーツだったあなただけど、ヴォーカルをフィーチャーし始める前はインストゥルメンタルなEPを何枚かリリースしているわね。意図的にそうしたのかしら？

私はヴォーカリストとして音楽のキャリアをスタートさせたけれど、自信がなかった。いわゆる「歌声」って声ではなかったし、ゴスペルとも違った。だから最初は少しシャイだったの。色々変化させたりリバーブをかけたりして、大まかな感じで扱っていったのよ。時々ヴォーカルも音楽の一部だって感じることがあるわ。ヴォーカルは目立つために存在しているわけではないというか。今はそこまでヴォーカルを意識していないわ。

Supreme Scyence: Jenifa Mayanja, The Lady Blacktronika, Dakini9.

あなたがコラボレーションをするアーティストの1人にThe Lady Blacktronicaがいるけど、彼女も同じように自分の声に対する扱いが特徴的だから、彼女とあなたが一緒に活動しているのは面白いわね。

彼女とは凄く気が合うんだけど、面白いのは実際彼女を初めて知ったのはあなたの書いた記事を通じてだったということね。凄く正直な内容だったし、彼女は自分に対してあまり制限することがない新しいタイプの人だったっていうのが伝わったから、面白く読ませてもらったわ。そしてそれを読んだすぐ後に彼女がFacebookで連絡を取ってきたの。「Aybeeにあなたのことを教えてもらったの。一緒に何かしない？」って誘ってきたから、「OK」って返事をしたわ。実は彼女の音楽のことはあまり良く知らなかったんだけど、彼女がいくつか送ってきてくれて。彼女のオリジナリティには本当に感動したわ。彼女は自分の声を私みたいに色々いじる人だったし、私はいつも誰か他の女性とやってみたいと思っているから、レコードを一緒に作ることになったのよ。今はもう1人の女性、Lola a.k.a Dakini9と一緒にSupreme Scyenceというプロジェクトを進めているわ。The Three Chairsみたいな感じで進めているんだけど、他の女性にも参加してもらおうとしているところなの。

Supreme Scyenceは女性限定のプロジェクトでなければいけないのかしら？

「そうでなければいけない」のかどうかは分からないけど、「そうする必要がある」とは感じているわ。女性であることは重要なの。というのは、いつも女性から「あなたには影響を受けているわ」とか「あなたがこういうことをしてくれていて嬉しい。私も自信を持てるわ」とか書いてあるメールを受け取るから。こういう形で影響を与えることができるのは素晴らしいことだと思う。私がやろうとしていることは、物事のバランスを取っていくということなの。10年、15年後にRAのチャートを見たら、男性と同じ位女性のプロデューサーの名前が載っていてもおかしくないと思えるようにね。今は沢山の女性が制作したりDJしたりしているけれど、男性と同じ扱いとは言えないわ。RAで女性のDJやプロデューサーについての記事が1カ月間にどれだけ出ているのかを見てみれば、凄く不均衡だということがわかると思う。だからそこに貢献できる立場にいるのであれば、是が非でもそうするべきね。

その意志は個人レベルではどういう形で表れてきているかしら？あなたは去年BerlinのPanorama Barでプレイしたけれど、あなたには子供がいて、パートナーも同じように旅を続けるライフスタイルを送っているわよね。DJとしてのあなたは同量のチャンスを得たのかしら？

そこまで多くはなかったわ。でも今は変わってきていると思う。Panorama Barのパーティーは素晴らしかったけれど、当時娘は2歳だったし、しかも私に凄くなついていたから大変だったわ。家族を一番に持ってくるのは凄くデリケートなバランス感覚だし、今みたいに色々動き回ることも難しかった。以前は自分の時間がなかったわ。Edが何週間もツアーに出ていたから。でも今は子供たちも大きくなってきているし、私たち2人が交代で色々行うようにしているから、もっとバランスが取れるような状況になっていて、Edもそんなにツアーに出ていないわ。今はEDJも始まっているし、アーティストとしての側面も、経済的な側面でも私たちを助けてくれているから、彼もそんなにツアーに出る必要がないのよ。だから今は2人で集中して忙しい日々を送ることができているわ。