Luomo - Plus

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  • こないだ、このアルバムを何の気無しにプレイヤーに突っ込んで、僕はそれから他の作業をしていた。そのまま作業に没頭し、やがてアルバムが3曲目の"How You Look"に差し掛かろうとする頃には自分が何のCDをプレイしていたかすっかり忘れていたのだが、それでも僕の耳は鋭く反応した。そう、これはまさに2011年仕様にヴァージョンアップされたシカゴハウスの発展形というべきサウンドなのだ。しかも、作者はあえてそういう風に聴こえさせようとしていないところがある。ドラムを取り囲むようにタムが転がり、ほとばしるようなオルガンのリフと鋭いスネアが差し込まれるところは確かに耳慣れた構成だが、僕がこのトラックに惹き付けられた理由は他にある。それはこのトラックの運動性だ。滑らかでありながらもポリリズム的で、か細いようでいて骨太で、エレクトロ的でもあると同時に細切れになったヴォーカルの断片はトラックに肉感的で妖しげな感覚を染み込ませている。あらためてCDケースを確認すると、それはLuomoの作品だった。 正直に言うと、僕はここ数年とくに彼の作品を熱心に追いかけていたわけではなかった。それだけに、この『Plus』において過去に僕が好きだった彼の持ち味以上の魅力が詰め込まれているところに快い感動をおぼえた。このアルバムでも彼は断片化されたヴォイスやヴォーカルを使うというアイデアを発展させ続けているが、そのアイデアはそもそもこのLuomoというプロジェクトの根幹をなすものでもある。Luomoの最初の2枚のアルバムはソフトフォーカスされたゴージャスさが持ち味で、それに続く数作のアルバムではそれをさらに繊細に発展させていたのだけれど、今回のアルバムで彼はこれまでになくエレクトロ的なトリートメントを施している。この『Plus』は彼が手掛けてきた作品のなかでも最も緊張感にあふれたものだ(『Vocalcity』のようなエモーショナルさやダビーな感覚はないにせよ)。また、『Paper Tigers』や『Convival』といったアルバムほど『Plus』がドライに聴こえないのはやはり彼がヴォーカルやヴォイスをこれまで以上に繊細にトラックのなかに溶け込ませているからであろう。 そうした意味では、この『Plus』は『Convival』で展開していたあからさまなポップ性に対する反動という部分も大きいだろう。そう、『Vocalcity』がエクスペリメンタルなテクノとソウルフルなハウスとの間にあった溝を埋めるべくして作られたのと同様に。とはいえ、このアルバムにも歌が重要な位置を占める部分も依然として存在する。"Make My Day"や愛らしい"Void in Form"といったトラックではニューウェーブが大きなファクターとなっている。"Good Stuff" も同様に80年代初期を思わせるリフで始まるのだが、やがてヴィデオゲーム的なパーカッションがトラックにある種の暖かみを与え始め、やがてシンセ・リフは重厚に積み上がっていく。しかし、このアルバムでやはり注目すべきはLuomoならではの繊細なサウンドのテクスチャーだろう。アルバム冒頭の"Twist"ではゲストヴォーカルとして迎えられたChicago Boysが"I must do the twist"とあやしく囁き続けるのだが、やはり耳を奪われるのはその氷柱のように硬質なシンセがヴォーカルを覆っていくところだ。どのようなスタイルになろうと、相変わらずこうやってLuomoがしっかりと持ち味を発揮しているのは素晴らしい。
RA