Shinichi Atobe - World

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  • 謎の日本人プロデューサーが2001年にChain Reactionから1枚の12インチをリリースしたが、ふたたび彼の名前を耳にするのは、Demdike Stareのレコードディガーふたりが彼を見つけ出すまで待たなければならなかった。なんとも面白いエピソードだ。2014年にDemdike StareのレーベルDDSから『Butterfly Effect』が発表され、それに続いて再発された前述の傑作12インチ「Ship-Scope」により、Shinichi Atobeの控えめなサウンドは少数ながらも熱心なフォロワーを獲得した。ミニアルバム『World』にも同様のサウンドが収録されている。 『Butterfly Effect』では実験的な電子音楽を探求しているAtobeが披露されていたが、『World』の6曲はループを基調にしたリズム作品に留められている。この手の撫でるようなアンビエントを好む人なら、1曲目の"Intro"はうれしいトラックだろう。ドラッギーなハウスや潜在意識に訴えるテクノを好きな人ならなおさらだ。 ミニマリストとしてAtobeは一見シンプルに思えるメロディメイクを実践しており、丁寧にループさせている。この点は、ほぼパーカッションからなる"World 2"を除き、いずれのトラックにおいても何かしらの形で示されている。しかし、彼の主な強みはリズムのセンスにあり、そして、優雅な楕円軌道を描きながら互いに作用し合うリズムのレイヤーにある。さらに、収録曲の大部分を覆いつくす柔らかく弾けるサウンド(各トラックによって違うサウンドになっている)から、"Intro"や"World 4"での使われているシンセの夢心地の感覚、そして、"World 4"のハイハットの切れ具合まで、Atobeは音色とエフェクトに対する卓越した聴覚を持ちあわせている。 『World』は『Butterfly Effect』ほど冒険的で多様性があるわけではないが、高いクオリティレベルに達している。ハイクオリティであること以外の情報はほぼ不明のプロデューサーに期待してきた通りの仕上がりだ。しかし、いずれのアルバムもAtobeが作りためていたアーカイヴから掘り出されたものであり、トラックがこの20年間のどの時点で作られたのかは分からない。おそらく、それゆえに彼の作品の多くがこれほど普遍的に感じられるのだろう。
  • Tracklist
      01. Intro 02. World 1 03. World 2 04. World 3 05. World 4 06. World 5
RA