Roland - AIRA MX-1

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  • エレクトロニック・ミュージシャンたちがパフォーマンスで使用できるミキサーは、革新的というよりは、保守的なトラックレコーディング用が多かった。アナログ・デジタル変換機能や、コンピュータとの統合機能を除き、平均的な8チャンネル程度のミキサーは、過去40年以上に渡り、そのデザインは殆ど変わっていない。しかし、ようやく誰かがそこに変化を加えようと考え始めたようで、RolandのAIRA MX-1 Mix Performerがリリースされた。Mix Performerという名前から分かるように、RolandはMX-1を「演奏できるミキサー」を目指していたようで、楽器的な機能を持たせるべく、通常のミキサーに備わっているヴォリュームやEQ、AUXなどよりも、パフォーマンス機能をより多く追加している。 フロントパネルを見れば、MX-1が典型的なミキサーからどれだけ離れたデザインなのかがすぐに理解できる。そのルックスはドラムマシンに近く、ロングフェーダーや数々のEQまたはAUXノブの代わりに、ショートフェーダーと数々のボタン、16ステップシーケンサーが確認できる。実際、TR-8と並べてみると、Rolandのデザイナー陣がどこからインスピレーションを得たのかは一目瞭然だ。この2台のサイズは殆ど同じで、全体のレイアウトも似ている。しかし、RolandはAIRAの他のシリーズの蛍光グリーンのペイントについてかなりの批判を受けたに違いない。MX-1では蛍光グリーンのあのラインが大幅に削除され、かなりスッキリとしたルックスになっている。 RolandはMX-1を18チャンネルミキサーだと謳っているが、バックパネルにはアナログ6系統のインプットと、デジタルステレオSPDIF1系統だけしかない。ではなぜ18チャンネルなのかというと、他のチャンネルはUSB経由になっているからで、接続したPCからのアウトプット用ステレオ1系統とUSB接続のオーディオデバイス用ステレオ4系統が用意されている。リリース時には、これらのUSB端子は他のAIRA製品のみ対応という形になっていたが、ファームウェアのアップデートにより、JD-XAやJD-Xiなど、他のRolandの製品にも対応している。以上を踏まえると、MX-1の購入を考えている人にとっての大きな疑問は、他のメーカーの製品を将来的にサポートするのかということになるが、それが明らかになるまでは、この機材への投資は、MX-1対応のRoland製品を1台以上所有している場合のみ有意義だということになる。所有していない人にとってはステレオ4系統が無駄になってしまうからだ。尚、MX-1のUSBは、オーディオだけではなく、接続されている機材側にMIDIクロックを送信する機能と、接続されているPC側から接続されている機材側に個別にMIDIノート及びCC情報を送信する機能も備わっている。これは素晴らしい機能だが、個人的には、MX-1のMIDI端子からRoland製品にMIDIがルーティングできても良かったのではないかと感じた。これは現時点ではサポートされていない機能だ。 フロントパネルを再び見ていくと、MX-1には18チャンネルに対して、11チャンネルのフェーダーが用意されている。最初(左から)のアナログ4チャンネルはモノだが、チャンネル1と3を隣のチャンネル(2及び4)とリンクさせたステレオとしても扱える。各チャンネルにはショートフェーダーとMUTEボタン、TONE/FILTERノブが用意されているが、このノブはデフォルトではTraktorのようなフィルターとして機能するようになっている(右へ回せばハイパス、左へ回せばローパス)。MX-1のこのノブには、フィルター、EQ、アイソレーションなど10種類のトーンシェイプが用意されており、チャンネルごとにアサインできる。変更するには、まずチャンネルのSELECTボタンを押し、その後、フロントパネル左部の各チャンネル共用のCHANNEL SETTINGセクションで対応するボタンを押して、セクション上部のVALUEロータリーで様々な変更を加える(尚、このセクションにはゲイン、パン、AUXセンド、フェーダーカーブなども含まれている)。各チャンネルのトーンシェイプ用ノブがひとつしか存在しないのは大胆な試みと言えるが、パフォーマンスをするエレクトロニック・ミュージシャンの多くは納得できるだろう。ライブ中にローミッドのEQ幅を変化させる必要があるミュージシャンの数は多くないはずだ。また、フィルターとEQを素早く切り替える機能がクリエイティブな側面から重要だと考えている人も、各チャンネルのTONE/FILTER用エンジンがMX-1の64のシーンに保存できる仕様になっているので、必要な時に簡単に切り替えが行える。 各チャンネルのSELECTボタンの下には、BFX・MFXと記された2種類のボタンが用意されている。既に理解している人もいるかと思うが、これはBEAT FXとMASTER FXのオン・オフ用のボタンだ。BEAT FXはフィルター、サイドチェイン、スライサーの3種類から選択可能で、フロントパネル上部のステップシーケンサーを使って機能させる。一見しただけでは、かなり限定された機能のように思えるが、TONE/FILTERノブと同様、各エフェクトには5種類が用意されており、ボタンを押しながら、CHANNEL SETTINGセクションのVALUEノブを回転させて選択する。また、ステップ数も16に固定されていないので、ステップ数を短くすれば、ポリリズムが演出できる。尚、言わなくても分かっているとは思うが、BEAT FXのエンジンもチャンネルごとに用意されているので、エフェクトタイプ、ステップ数、ドライ・ウェット比などを含むすべてがMX-1のシーンとして保存・呼び出しができる。一方、MASTER FXはサウンド全体にかかるエフェクトで、ディレイ、フィルター、スキャッター、フランジャー、ビットクラッシャー、ロールの6種類が用意されている。各エフェクトには様々な種類が用意されており、筆者も多少いじったあとに、ディレイの最後のエフェクトが実はリバーブだということが理解できた。これは嬉しいサプライズだ。また、MASTER FXではCOMBIボタンを押すことで、エフェクトのシーケンスができる。オンにすればステップシーケンサーが使用できるようになり、Sugar Bytes Effectrixのように6種類のエフェクトをステップごとにアサインできる。 全体的にMX-1にはかなりの好印象を持った。当然ながら、ターゲットは既にRolandの機材を数台所有しているエレクトロニック・ミュージシャンということになるが、PCではなくUSB経由でそれらの機材とオーディオ・MIDIを同期できるそのシンプルさは、ツアーを重ねるミュージシャンたちには間違いなく便利だろう。デザインは大胆だが非常に良く考えられたもので、エフェクト類もEDMアーティスト向きの典型的でトゥーマッチなサウンドに思えるかも知れないが、多少時間をかけて学べば、スイートスポットを見つけられるだろう。 Ratings: Sound: 4.3 Build: 4.1 Cost: 4.8 Versatility: 3.9 Ease of use: 4.2
RA