- 活況にあるLAのビート・シーンにおいてでさえ、Flying LotusことSteve Ellisonは常に同世代のアーティストよりも明るく輝いてきた。デビュー・アルバム『1983』の成功によって彼は即座にWarp Recordsによって引き抜かれ、セカンド・アルバム『Los Angeles』以降はジャズの要素や豊かなサイケデリックな質感を自身の音楽に織り込んでいくことでその評価を確固たるものにしてきた。
『Cosmogramma』以後のFlying Lotusから聞こえてくるサウンドの大部分と同じく、『You're Dead』も最初から完全にジャズの要素を内包している。この世のものとは思えない音の壁からスタートする1曲目"Theme"は、霧の中をタイトなドラムがロールしていき突如アグレッシブになっていく。続く3曲は揺らぐピアノ、分裂症のようなベース・ギター、落ち着きのないハイハット、そしてひずんだギター・リフによって成り立っている。どのトラックもバラバラに崩壊しそうなのだが、決してそうなることはない。
このようにほぼ形を持たないサウンドは本作全体に共通しており、全ての要素はThundercatの突出したベースによってピリッとした味付けがなされている。特に顕著なのはHerbie Hancockをフィーチャーした"Moment Of Hesitation"だが、トラックの多くは眩暈を起こしそうになるほどピュアでフリーク・アウトしているサウンドだ。このサウンドには疎外感を感じてしまう人も確実にいるだろうが、こうした混沌を通じて明確さを持った場面が表面化している。
Kendrick Lamarとのコラボレーション"Never Catch Me"では、この狂気がFlyLoならではのキマっている感のあるヒップホップに組み合わされている。また、このアルバムにLamarが参加していることは始まりのようなものを意味している。すなわち、EllisonはこれまでにErykah BaduやThom Yorkeなど数々のビッグ・ネームと一緒に制作してきているが、Lamarのように人気者ラッパーの場合、これまでにないほどラジオ向きな感覚が提供されているのだ。しかしSnoop Doggはこの限りではない。Snoopのパフォーマンスに輝きが欠けていること、そして、若干違和感のあるベースラインのために、彼が参加したトラックは本作における最も大きなウィーク・ポイントになっているにも関わらず、彼のゲスト参加を前にしてはLamarという存在でさえ小さく見えてしまう。"Coronus, The Terminator"と"Siren Song"は共に従来のFlyLoビーツにウッドウィンドと気ままなギターを重ね合わせ、Niki RandaとAngel Deradoorianによる清らかなボーカルを伴ったトラックだ。"The Boys Who Died In Their Sleep"はCaptain Murphy名義でやってきた中でもベスト・トラックの1つだ。この名義はEllisonがラップをする際に使用されている。
筆者は最初『You're Dead』を1つのトラックとして受け止めていた。ある意味その方がフィットする気がするのだ。本作全体が1つの壮大な塊へと流れ込んでおり、それはトラックが非常に短いためだと部分的には言えるが、音楽そのものの性質のためだとも言える。ジャズと従来のEllisonのビートの間にある境界はもはや違いを超越したかのようにおぼろげになっており、完全なる1つのものとして捉えながら目の眩むアンビエンスの中を大いに喜びに浸るように促しているのだ。
Tracklist01. Theme
02. Tesla
03. Cold Dead
04. Fkn Dead
05. Never Catch Me feat. Kendrick Lamar
06. Dead Man's Tetris feat. Captain Murphy & Snoop Dogg
07. Turkey Dog Coma
08. Stirring
09. Coronus, The Terminator
10. Siren Song feat. Angel Deodorian
11. Turtles
12. Ready Err Not
13. Eyes Above
14. Moment Of Hesitation
15. Descent Into Madness feat. Thundercat
16. The Boys Who Died In Their Sleep feat. Captain Murphy
17. Obligatory Cadence
18. Your Potential/The Beyond feat. Niki Randa
19. The Protest